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オルノス侯爵夫妻
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「ノクターン、君はいつも愛らしくて可愛いな。私の目に映るものは、君以外いらない」
「ふふふっ、レオンハルトったら! ……貴方だっていつまでも素敵でカッコよくて優しくて、誰よりも大好きよ!」
「いや、私の方が君に夢中だ。君がいなければ生きてはいけない。君と出会えた奇跡に、いつも感謝している」
「――レオンハルト」
「愛してるよ、ノクターン」
「私の方がもっと愛してるわ……」
(えー……っと? わたくしは今、何を見せつけられているのでしょうか……?)
庭園のベンチで座っている二人が嫌でも視界に入る。
目の前で繰り広げられる超極甘なやり取りに、ミレールは目のやり場に困ってしまう。
ノクターンはオルノス侯爵の膝の上に座って侯爵の胸に手を当て、オルノス侯爵はノクターンの腰を抱いてお互い愛しそうに見つめ合いながら永遠と愛を囁き合っている。
この日、オルノス侯爵は非番だった。
オルノス侯爵が非番の時は、大体ノクターンと一緒にいる。そして大体が一日中いちゃいちゃしていることが多い。
最近、ノアとのやり取りが増えてきたとはいえ、やはり本当に愛し合って結婚したこの夫婦には到底敵わない。
少し目を離した隙に二人の世界に入り込み、人目も憚らずいつの間にかチュッチュしてる。
ミレールは庭仕事をしながら慌てて視線を逸らした。
(はぁ……、お願いですから、誰もいない場所でやってほしいですわ……)
以前の夫と冷え切った生活をしていた杏には、このやり取りを見るのはとても心に堪える。
同じく近くで庭仕事をしていた庭師のラモンは、全く意に介さず普通に仕事を続けていた。
それを見るだけでも、これがオルノス侯爵家での日常なのだと認識せざるを得ない。
(エボルガー侯爵家でも、お父様がお母様を当たり前のように毎日熱烈に口説いていましたけど……、まさかこちらでも同じような光景を拝むことになるとは思いませんでしたわ)
前の人生では、滅多にお目にかかることのない夫婦像だ。
これも小説の世界だからなのだろうと自分を納得させる。
この「愛と欲望に溺れて」には実は前作が存在する。
そこにエボルガー侯爵夫妻とオルノス侯爵夫妻も登場するのだ。
ただ、題名も覚えていないし、杏はこの前作を読んでいなかった。
先に読み始めたものが「愛と欲望に溺れて」の方だったからだ。
未だに繰り広げられる甘いやり取りをなるべく見ないように、ミレールは庭仕事に集中するように努めた。
◆◇◆
その日の夕時。
先ほどまで暑苦しいまでにいちゃついていたオルノス侯爵はおらず、ノクターンが一人でお茶をしていた。
「あら、ノクターンおば様。オルノス侯爵様はどうなさいましたの?」
「レオンハルトなら今、事業の話をしているのよ。さすがに、事業関係は女の私が口を挟めないからね」
そこでミレールの胸に不安が過る。
(事業……、この時期に事業の話が出ている……と、いうことはもしかしたら、オルノス侯爵家が没落する原因となった、あの事業のことかもしれませんわ)
「愛と欲望に溺れて」の原作では、この事業について詳しく書かれていない。
ただ、『オルノス侯爵が事業に失敗し、多額の負債を抱えて侯爵家が資金難に陥った』……と、書かれていた。
(おそらく、時期的にも間違いありません。いけませんわっ! この事業の契約をどうにか止めなくてはッ!!)
今まですっかり忘れていたが、ノアはこの事業の失敗により様々なものを失う。
小説では書かれていないが、オルノス侯爵夫妻もオルノス家に仕えている使用人たちも皆、大変な目にあってしまう。
(ですが、どうすれば契約を白紙にできますの? 最近のレイリンの様子からすると、侯爵家の契約自体も最終段階に入っているはず……!)
ここでお茶菓子を運んでいる侍女が目に入る。
「そのティーセットはどちらに運ぶのかしら?」
「あ、若奥様! こちらは侯爵様とお客様用のものとなります」
そこでミレールは思い付いた。
ワゴンでお茶を運んでいる侍女から、そのワゴンを奪い取った。
「あっ! 若奥様?!」
「大事なお客様ですもの、こちらはわたくしが運びますわ。それよりノクターンおば様がお茶をご所望でしたので……悪いけれど、そちらを用意してくださるかしら?」
「大奥様がですか? はい……、かしこまりました」
不思議そうにしながら侍女は再びお茶を淹れるべく、ノクターンの元へと向かっていった。
(さて、ここからが正念場ですわ! 上手くいくといいのですが……)
一抹の不安を抱えながらミレールはワゴンを押し、応接室へと足を進めた。
「ふふふっ、レオンハルトったら! ……貴方だっていつまでも素敵でカッコよくて優しくて、誰よりも大好きよ!」
「いや、私の方が君に夢中だ。君がいなければ生きてはいけない。君と出会えた奇跡に、いつも感謝している」
「――レオンハルト」
「愛してるよ、ノクターン」
「私の方がもっと愛してるわ……」
(えー……っと? わたくしは今、何を見せつけられているのでしょうか……?)
庭園のベンチで座っている二人が嫌でも視界に入る。
目の前で繰り広げられる超極甘なやり取りに、ミレールは目のやり場に困ってしまう。
ノクターンはオルノス侯爵の膝の上に座って侯爵の胸に手を当て、オルノス侯爵はノクターンの腰を抱いてお互い愛しそうに見つめ合いながら永遠と愛を囁き合っている。
この日、オルノス侯爵は非番だった。
オルノス侯爵が非番の時は、大体ノクターンと一緒にいる。そして大体が一日中いちゃいちゃしていることが多い。
最近、ノアとのやり取りが増えてきたとはいえ、やはり本当に愛し合って結婚したこの夫婦には到底敵わない。
少し目を離した隙に二人の世界に入り込み、人目も憚らずいつの間にかチュッチュしてる。
ミレールは庭仕事をしながら慌てて視線を逸らした。
(はぁ……、お願いですから、誰もいない場所でやってほしいですわ……)
以前の夫と冷え切った生活をしていた杏には、このやり取りを見るのはとても心に堪える。
同じく近くで庭仕事をしていた庭師のラモンは、全く意に介さず普通に仕事を続けていた。
それを見るだけでも、これがオルノス侯爵家での日常なのだと認識せざるを得ない。
(エボルガー侯爵家でも、お父様がお母様を当たり前のように毎日熱烈に口説いていましたけど……、まさかこちらでも同じような光景を拝むことになるとは思いませんでしたわ)
前の人生では、滅多にお目にかかることのない夫婦像だ。
これも小説の世界だからなのだろうと自分を納得させる。
この「愛と欲望に溺れて」には実は前作が存在する。
そこにエボルガー侯爵夫妻とオルノス侯爵夫妻も登場するのだ。
ただ、題名も覚えていないし、杏はこの前作を読んでいなかった。
先に読み始めたものが「愛と欲望に溺れて」の方だったからだ。
未だに繰り広げられる甘いやり取りをなるべく見ないように、ミレールは庭仕事に集中するように努めた。
◆◇◆
その日の夕時。
先ほどまで暑苦しいまでにいちゃついていたオルノス侯爵はおらず、ノクターンが一人でお茶をしていた。
「あら、ノクターンおば様。オルノス侯爵様はどうなさいましたの?」
「レオンハルトなら今、事業の話をしているのよ。さすがに、事業関係は女の私が口を挟めないからね」
そこでミレールの胸に不安が過る。
(事業……、この時期に事業の話が出ている……と、いうことはもしかしたら、オルノス侯爵家が没落する原因となった、あの事業のことかもしれませんわ)
「愛と欲望に溺れて」の原作では、この事業について詳しく書かれていない。
ただ、『オルノス侯爵が事業に失敗し、多額の負債を抱えて侯爵家が資金難に陥った』……と、書かれていた。
(おそらく、時期的にも間違いありません。いけませんわっ! この事業の契約をどうにか止めなくてはッ!!)
今まですっかり忘れていたが、ノアはこの事業の失敗により様々なものを失う。
小説では書かれていないが、オルノス侯爵夫妻もオルノス家に仕えている使用人たちも皆、大変な目にあってしまう。
(ですが、どうすれば契約を白紙にできますの? 最近のレイリンの様子からすると、侯爵家の契約自体も最終段階に入っているはず……!)
ここでお茶菓子を運んでいる侍女が目に入る。
「そのティーセットはどちらに運ぶのかしら?」
「あ、若奥様! こちらは侯爵様とお客様用のものとなります」
そこでミレールは思い付いた。
ワゴンでお茶を運んでいる侍女から、そのワゴンを奪い取った。
「あっ! 若奥様?!」
「大事なお客様ですもの、こちらはわたくしが運びますわ。それよりノクターンおば様がお茶をご所望でしたので……悪いけれど、そちらを用意してくださるかしら?」
「大奥様がですか? はい……、かしこまりました」
不思議そうにしながら侍女は再びお茶を淹れるべく、ノクターンの元へと向かっていった。
(さて、ここからが正念場ですわ! 上手くいくといいのですが……)
一抹の不安を抱えながらミレールはワゴンを押し、応接室へと足を進めた。
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