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報告(ノア視点)
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ミレールが王宮へ訪れる日。
ノアは予め主君であるマクレインへ登城を伝えていた。
『うん。別にいいんじゃないか? 私は別に構わないよ』
王太子の執務室で、書類に追われているマクレインは手を動かしながらノアの言葉に耳を傾けていた。
『しかし、殿下は何年もの間、あいつの執拗な押しかけに悩まされてきましたよね?』
『まぁ……彼女も候補者の一人だったし、エボルガー侯爵家は有力な家門だから無下にもできなかったけど、今は君の妻になったわけだし、ノアが見張っているなら大丈夫じゃないかな?』
『はあ……』
マクレインは頭が切れるうえ、一見温和な性格で女性には優しい。そんなマクレインが再三迷惑していたのがミレールだった。
ノアとミレールは幼馴染だったため、余計にミレールが現れるとノアが前に立ち、マクレインを庇うようにミレールと対峙していたのだ。
『そういえば、結婚する前は小言を漏らしていたのに、最近はすっかり何も言わなくなってしまったね?』
『――っ』
こんな時は書類から顔を上げ、近くで待機しているノアの様子を伺うように笑っていた。
『あいつは……、まぁ、結婚してからだいぶ変わったので……』
『どんな風に?』
『……まるで憑き物が取れたように、大人しくなりました』
『へぇー……、あのミレール嬢がね……?』
笑っているようで笑っていないこの顔。マクレインが真偽を確かめる時によくする口調と表情。
これが出たということは、ノアの言葉を信じてはいなかった。
『今日、レイリン嬢と話す予定みたいだし。せっかくだから私も同席しようかな?』
『え? 殿下もですか!?』
『おや、不満かい?』
『……いえ』
マクレインは温和な性格だが人一倍好奇心も強く、なんでも自分で確かめなければ気の済まない性格でもあった。
そして自分に害を成し不利益と見なされた人間には、非情なまでに冷たい態度を取る。
『ミレール嬢が到着したら、私も呼んでもらっていいかい?』
『仰せのままに』
一抹の不安を抱えながら、ノアは胸に手を当てて頷いた。
これはミレールが王宮に到着する前の話だった。
◇◇
ミレールが馬車に乗り去ったあと、ノアは再び王宮へと足を向け歩き出した。
(俺の不安は杞憂に終わったな。あいつは、本当に変わった……)
早速ノアは、主君であるマクレインの部屋まで証拠品を持ち訪れた。
「やぁ、ノア。夫人を送ってきたのかい?」
「はい。……殿下、報告があります」
「ん? なんだい?」
「これを」
ノアは先ほどミレールから受け取ったペンダントをマクレインの前へ差し出した。
「これは……、暗殺ギルドのマーク……」
「えぇ。おそらくレイリン嬢を狙った犯人が落としたものに間違いないでしょう」
「しかし、よく見つけたね。あれだけ兵士を総動員させて、城中捜索しても見つからなかったのに……」
「実は、ミレールが偶然見つけたんです」
「夫人が?」
ノアはペンダントを見つけるまでのミレールとの経緯を話した。マクレインは顎に手を当て、しばらく考えてから口を開いた。
「なるほどね。これは夫人に感謝しないと……君の奥方は本当に変わったんだね」
「はい。仰る通りです」
「今思うと、とても惜しいことをしたよ。彼女が初めから今の状態なら、私の考えも変わったんだがね」
ノアを見ながらにこりと笑うマクレインに、なぜかノアの心に言い知れない不安が襲ってくる。
「……それは、王太子妃として考えた、と仰りたいんですか?」
「そこまでは言ってないよ。ただ、可能性の話をしているだけだ」
要するにマクレインは、今ならミレールを王太子妃として推薦して良い、と言っている。
ノアは後ろに組んでいた拳をグッと握りしめた。
「殿下がなんと仰られようと、今ではその可能性すらありませんね。すでにあいつは俺の妻で、既婚者ですので」
主君であるマクレインに対し、思いのほか強い口調で話していたことにノア自身驚いた。
「ハハハッ……! わかっているよ。君が夫人をとても大切にしていることも、独占欲が強いこともよ~くわかったしね」
にこにこと笑っているマクレインに、自分が試されたのだとわかり、いちいち反応してしまった自分に対し自己嫌悪に駆られる。
「はぁ……殿下に対し、失礼な発言をお許しください」
「気にしないさ。それより、早速暗殺ギルドを調べようか」
「ハッ!」
話を切り替えたマクレインに、ノアは胸に当て返事を返した。
ノアは予め主君であるマクレインへ登城を伝えていた。
『うん。別にいいんじゃないか? 私は別に構わないよ』
王太子の執務室で、書類に追われているマクレインは手を動かしながらノアの言葉に耳を傾けていた。
『しかし、殿下は何年もの間、あいつの執拗な押しかけに悩まされてきましたよね?』
『まぁ……彼女も候補者の一人だったし、エボルガー侯爵家は有力な家門だから無下にもできなかったけど、今は君の妻になったわけだし、ノアが見張っているなら大丈夫じゃないかな?』
『はあ……』
マクレインは頭が切れるうえ、一見温和な性格で女性には優しい。そんなマクレインが再三迷惑していたのがミレールだった。
ノアとミレールは幼馴染だったため、余計にミレールが現れるとノアが前に立ち、マクレインを庇うようにミレールと対峙していたのだ。
『そういえば、結婚する前は小言を漏らしていたのに、最近はすっかり何も言わなくなってしまったね?』
『――っ』
こんな時は書類から顔を上げ、近くで待機しているノアの様子を伺うように笑っていた。
『あいつは……、まぁ、結婚してからだいぶ変わったので……』
『どんな風に?』
『……まるで憑き物が取れたように、大人しくなりました』
『へぇー……、あのミレール嬢がね……?』
笑っているようで笑っていないこの顔。マクレインが真偽を確かめる時によくする口調と表情。
これが出たということは、ノアの言葉を信じてはいなかった。
『今日、レイリン嬢と話す予定みたいだし。せっかくだから私も同席しようかな?』
『え? 殿下もですか!?』
『おや、不満かい?』
『……いえ』
マクレインは温和な性格だが人一倍好奇心も強く、なんでも自分で確かめなければ気の済まない性格でもあった。
そして自分に害を成し不利益と見なされた人間には、非情なまでに冷たい態度を取る。
『ミレール嬢が到着したら、私も呼んでもらっていいかい?』
『仰せのままに』
一抹の不安を抱えながら、ノアは胸に手を当てて頷いた。
これはミレールが王宮に到着する前の話だった。
◇◇
ミレールが馬車に乗り去ったあと、ノアは再び王宮へと足を向け歩き出した。
(俺の不安は杞憂に終わったな。あいつは、本当に変わった……)
早速ノアは、主君であるマクレインの部屋まで証拠品を持ち訪れた。
「やぁ、ノア。夫人を送ってきたのかい?」
「はい。……殿下、報告があります」
「ん? なんだい?」
「これを」
ノアは先ほどミレールから受け取ったペンダントをマクレインの前へ差し出した。
「これは……、暗殺ギルドのマーク……」
「えぇ。おそらくレイリン嬢を狙った犯人が落としたものに間違いないでしょう」
「しかし、よく見つけたね。あれだけ兵士を総動員させて、城中捜索しても見つからなかったのに……」
「実は、ミレールが偶然見つけたんです」
「夫人が?」
ノアはペンダントを見つけるまでのミレールとの経緯を話した。マクレインは顎に手を当て、しばらく考えてから口を開いた。
「なるほどね。これは夫人に感謝しないと……君の奥方は本当に変わったんだね」
「はい。仰る通りです」
「今思うと、とても惜しいことをしたよ。彼女が初めから今の状態なら、私の考えも変わったんだがね」
ノアを見ながらにこりと笑うマクレインに、なぜかノアの心に言い知れない不安が襲ってくる。
「……それは、王太子妃として考えた、と仰りたいんですか?」
「そこまでは言ってないよ。ただ、可能性の話をしているだけだ」
要するにマクレインは、今ならミレールを王太子妃として推薦して良い、と言っている。
ノアは後ろに組んでいた拳をグッと握りしめた。
「殿下がなんと仰られようと、今ではその可能性すらありませんね。すでにあいつは俺の妻で、既婚者ですので」
主君であるマクレインに対し、思いのほか強い口調で話していたことにノア自身驚いた。
「ハハハッ……! わかっているよ。君が夫人をとても大切にしていることも、独占欲が強いこともよ~くわかったしね」
にこにこと笑っているマクレインに、自分が試されたのだとわかり、いちいち反応してしまった自分に対し自己嫌悪に駆られる。
「はぁ……殿下に対し、失礼な発言をお許しください」
「気にしないさ。それより、早速暗殺ギルドを調べようか」
「ハッ!」
話を切り替えたマクレインに、ノアは胸に当て返事を返した。
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