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代償

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「……あんたって、やっぱ変わってるわ」

 王宮の長い廊下を歩きながら、ノアは呆れたような ふと見上げると、隣で歩いているノアの顔がわずかに赤くなっているように見える。

 ノアが赤くなるなんてまさか……と思いながら、通り過ぎようとした脇の花壇を見て、ミレールは思わず足を止めた。

(あっ……! おそらくここですわ! 小説に書いてあった感じですと、ここで間違えありません!) 

 突然足を止めたミレールを、不思議にノアが見ている。

「どうした?」

「あの、今……わたくしも趣味で、侯爵家の庭に花壇を作ってまして……、あそこにも花壇を見かけて……、その、少し、見学させていただいても、よろしいですか?」

 なぜミレールがわざわざこんなことを言っているかというと、実はここに侵入者の証拠が隠されているからだ。

 この犯人は暗殺ギルドの人間で、狙いはもちろんレイリンだった。
 その暗殺ギルドに依頼したのは、同じ王太子妃候補で有力な公爵家の娘だった。
 レイリンはマクレインとの仲が非常に良かったため、ミレールを含めて他の候補者からも狙われ、度々危険に晒されていたのだ。

「まぁ、構わないが」

 とくに嫌な顔もせず、ノアはミレールを連れて花壇まで近づいた。
 そこは薔薇で出来た垣根で周りが囲まれ、まだ成長途中の花の苗が植えてあった。

「まぁ、これはグラジオラスの苗ですわね! この苗は成長させるのがとても難しいのに、さすが王宮の庭師は腕が違いますわね」

(たしか、この花壇の後ろにある薔薇で出来た垣根の奥に、ギルドのマークが刻まれたペンダントが落ちているはずですわっ!)
 
 しゃがみ込んで賛辞を送っているミレールの隣で、ノアもしゃがみながら苗を見ていた。

「俺には何がなんだかさっぱりわからないが……」

 ノアの気が苗へと移っている内に、ミレールはそっと立ち上がってすぐ後ろにある薔薇の垣根を急いで探す。

(どこっ?! 早く見つけなくてはっ……!)

 ざっと垣根を見渡し、急ぎながらも隈なく探す。
 そして垣根の奥の中心部に光るものを見つけた。

(あっ! ありましたわ!)

 その光るものに向かって手を最大限伸ばすが、薔薇の棘がミレールの手や腕を傷つけていく。

(い、痛いッ……! でも、あと、少しっ……!)

「――! 何をしてるっ!?」

 後ろを振り向いたノアが、ミレールの行動に声を荒らげている。
 慌てたようにミレールの体を掴み、垣根から引き離した。

「あっ!」

「なぜこんなことをッ?! 傷だらけじゃないか!」

 ノアはミレールの傷ついた腕を掴み、所々破れて血の滲んでいる腕や手を見て、顔を歪めている。

「髪飾りが……風で、飛んだので取ろうとしたら、少し引っかかってしまって……」

 ノアは咄嗟にミレールを抱き上げて、ものすごい速さで走り出した。 

「――キャッ!」

「しっかり掴まってろッ!!」

 ミレールは慌ててノアの首にしがみついた。
 ノアはミレールを抱えて王宮の廊下を脇目も振らずに駆け抜けた。

 
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