【R18】夫と6年間レスだった私が憑依転生したのは、大人向けweb小説の悪役令嬢でした

ウリ坊

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思いやり

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 レイリンとの話も弾み、友達との楽しいトークタイムを過ごしていたミレールの元に、再びノアが現れた。

「おい、迎えに来たぞ」

 ミレールは立ち上がり、近くに置いてあった籠を手に持ってレイリンに挨拶をしている。

「では、レイリン。そろそろお暇させていただきますわ」
  
「えぇっー! もう行っちゃうの? もっとミレールとお話ししたかったのにぃ!」

 にこりと笑ったミレールに、立ち上がったレイリンが近づいて抱きついている。レイリンと仲良くなってから、こうして甘えてきてくれることが度々ある。ミレールはそれが嬉しかった。
 上目遣いで訴えている仕草がとても可愛くて、思わずミレールはレイリンの頭をそっと撫でる。

(男性の方たちは皆、こうした可愛い仕草にやられてしまうのね。レイリンがモテる理由がよくわかりますわ)

「申し訳ありませんわ。また機会があれば、お話ししましょう」

「絶対よ! 約束してっ!」

「わかりました」

 念押ししてくるレイリンに苦笑しながら返事を返していると、レイリンは今度はノアに顔を向けている。

「オルノス卿っ!」

「えっ? 俺、ですか?」

 話が終わるのを近くで立って待っていたノアは、突然話を振られて驚いた様子だった。

「そうです! お願いですから、絶対にミレールをここに連れて来てくださいね!」 

「はあ。……まぁ、妻が望むのであれば」

 レイリンの勢いにノアも押されたのか、困った顔をして少し体を引かせていた。

 ミレールはレイリンの体を離して、安心させるように笑いかけた。

「レイリンも王太子妃選抜、頑張ってくださいね。陰ながら応援しておりますわ」

「ミレールぅ……」

 レイリンは幼い頃から病弱で、深窓の令嬢だった。
 ミレールと違い、くりっとした大きな桃色の瞳をうるうると潤ませて見つめられると、どうしてかここから去ることに罪悪感を感じてしまう。
 あのレイリンに、ここまで懐いてもらえると思っていなかった。
 
「そろそろ稽古の時間なんで、いいですかね……?」
 
 いい加減痺れを切らしたノアが、呆れたように声をかけてきた。

「では、ごきげんよう。レイリン」

 レイリンはまだ未練がましそうにミレールを見ていたが、ノアと共にその場をあとにした。

「あんたたちって、あんなに仲良かったか?」

 再びノアにエスコートされ、持っていたはずの籠も何も言わずにノアが持って運んでくれていた。

「わたくしが、レイリンに謝りましたの。ミレールはずっと、レイリンに意地悪してましたから……」

 また王宮の廊下まで戻り、ふたりで並んで歩いている。ミレールは罪を告白するように、沈んだ面持ちで話していく。

「……あんたが言ってた、魂が入れ代わったって話」

「はい」

「あれは本気で言ってるのか?」

 ノアの腕に手を添えて歩いていたミレールは、唐突な質問にさらに表情が曇っていく。

「――えぇ……」
 
 歩いていく王宮の長い渡り廊下を、進行方向に向かって歩いていく。
 この周りには人気はなく、だからこそノアも話を切り出したのかもしれない。

「あまりに現実味のないお話ですので、本当に信じてもらおうと思っている訳ではありません。ただ、ノアには嘘をつきたくなかったのでお話しました」

 あの時に言った話をノアは覚えてくれていたが、信じてもらうのは無理なのだろうと思っている。
 自分が同じ話をノアにされても、困惑するだけで簡単に信じることは難しいからだ。

「貴方とミレールは幼馴染でしたし、思わぬ出来事でこのように貴方をミレールに縛り付けてしまいましたわ。ですから、ノアにはとても悪いことをしたと思ってますの」

 ぽつぽつと独白していたミレールに、ノアは急に足を止めて真剣な顔でミレールを見下ろしていた。

「……ノア?」

「あんたは後悔してるのか?」

「はい?」

「俺と結婚したこと」

 言われた言葉が意外すぎて、ノアを見上げたまま瞠目どうもくする。
 一瞬言葉を失ったが、ノアの顔を見て即座に答えた。

「――いいえ」

 その答えを聞いたノアは再び前を向いて歩き出した。ミレールも引かれるように一緒に歩き出す。

「だったら、悪いと思う必要はない。あんたが後悔していないなら、もうあの夜の話はするな」

「ですが……」

 隣で歩いているノアを横から見上げるが、ノアは真っ直ぐ前を向いて歩いていた。

「俺は縛られていると思ってないし、この結婚を後悔していない。入れ代わったって話は、まだ確信が持てないが……少なくとも、今のあんたには好感が持てる。だからその話は終わりだ」

「……っ、 ノ、ア……」

(ノアが一番迷惑しているはずなのに……。初めから、わたくしを責めたりしませんでした……。わたくしが気にしないように、わざわざこうして、自分からこの話を終わらせてくれて……)

 ノアのさりげない言葉が、ミレールの心に深く響いた。

 咄嗟に俯きながら、じわりとあふれてきそうになる涙を必死に抑えていた。

(ノアは、本当に優しい人ですもの……もしこの先、ノアに好きな方ができましたら、すぐに離婚できるように準備しておきましょう。政略結婚や望まない結婚をした貴族は、とくに離婚率が高いですから……)

 自分は結婚には向いていない。
 何をしても上手くこなせない。
 そしてまたあの夫のように、自分に失望される……
 
 以前の記憶が強すぎるせいか、自己肯定感の低い杏は、どうしてもその考えてから抜け出せずにいた。

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