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幼馴染 (ノア視点)
しおりを挟むノアが初めてミレール・エボルガーと出会ったのはまだ幼い頃だった。母であるノクターンに連れられ、訪れたエボルガー侯爵邸。
外に備え付けてあるテーブルセットまでノクターンに手を引かれ歩いていた。
そこにいたのは母と同じように眩いばかりに綺麗な女性と、同じ顔をした天使のように可愛らしい女の子だった。腰まで栗色の髪に、宝石のように美しい紫色の吊り上がった瞳。ノアの視線は一瞬でその子に集中した。
『さぁ、ミレール。こちらはノアよ。挨拶しなさい』
ミレールと呼ばれた女の子は、母親であるエボルガー夫人の後ろに隠れてノアを見ていた。
(ミレールっていうのか、可愛いな……)
ドキドキしながら見ていると、後ろから出てきたミレールはニコリと笑って小さな手を出してきた。
『わたし、ミレール』
『僕は、ノア』
『よろしくね』
『うん、よろしく!』
これが二人の出会いだった。
そして何を隠そう、これがノアの初恋でもあった。
一目惚れというべきか、ノアはミレールの可愛さに心を奪われてしまった。
◆◇◆
それから数年の年月が経った。
ノアとミレールは十四歳になっていた。
『ちょっと、ノア! 謝りなさいよっ!』
『なんで俺が謝るんだ?!』
『あなたがわたくしの人形を汚したんでしょ!? 謝るのは当然ではなくって?!』
『俺は何もしてないっ!』
月日というものは無情で、可愛かった幼馴染はすっかり我が儘な人間へと変貌を遂げていた。
『マクレイン様っ!』
『や、やぁ。エボルガー侯爵令嬢……』
『あら、イヤですわ! わたくしのことはミレールとお呼びください! 将来、わたくしがマクレイン様のお嫁さんになりますわっ!』
『それは、私の決めることでは……』
十七歳になる頃には、ノアは王太子であるマクレインの護衛騎士に任命された。
この頃、ミレールは暇さえあれば勝手に登城し、侯爵家という権威を振りかざして王太子のマクレインへと近づいていた。
『おい、お前。殿下に近づくなと、あれほど言っているだろうが……』
『ノアのくせに、何を言っているの? 貴方がわたくしに指図できることなんて、一つもありませんわっ! わたくしは将来王太子妃となるのよ! 口答えは許しませんわッ!!』
幼い日の面影など見る影もないほど、幼馴染は最悪な悪女へと変わっていた。
話など通じることもなく、会話は平行線だった。
失望、という言葉が適切なのだろう。
エボルガー侯爵夫妻は共に素晴らしい人格者なのだが、その娘を可愛がり過ぎたせいか、すべて自分の思い通りになると勘違いし結果、傲慢な人間へと変えてしまった。
それからまた年月が経ち、もう過去など振り返ることもないと思っていたある日の仮面舞踏会。
ノアはビアンカと名乗る一人の女性と出会う。
元々は会場で見た銀色の髪の女性に目を奪われていた。
儚げな雰囲気の彼女は傲慢な幼馴染と違い控えめで、他愛のない会話も弾むほど楽しく感じた。
主君であるマクレインもこの令嬢と踊っていたが、次を狙うようにダンスを申し込んだ。
久しぶりに味わう高揚感に、会場から消えて行った銀色の髪の彼女を追いかけ、慌てて王宮の庭園へと足を運んだ。
その庭園の片隅で、一人で晩酌していた女性がいた。
すでに酩酊していたのか、片手に料理、もう片手にワインを瓶ごと持ち、銀色の髪の女性について聞いた時にもすでに呂律が怪しかった。
結局追いかけた先には、マクレインと唇を交わす銀色の髪の女性がおり、ショックを受けたノアはそのまま来た道を戻った。
戻った先にはまだあの酩酊した女性がまだ一人で晩酌をしていた。
話を聞くとどうやら彼女も男に振られたようだった。
自分と同じ境遇に、むしゃくしゃしていたノアは瓶ごと奪いワインを煽る。
『あ……わたくしの、ワイン……』
どうもこのビアンカと名乗る女性は、あの幼馴染と全く同じ声をしていた。
それがなぜか気になり、わざと近づいた。
男慣れしていないのか、近づいた彼女は動揺している。
それから飲みすぎたせいか、気分が悪くなり休憩室へと運ぶ。
苦しそうにしているビアンカをベッドへ横たえ、コルセットの紐をすべて切った。
まだ酔っているのか、酩酊しているビアンカはそのまま全裸となり、ノアは自分の欲望を必死で抑える。
形の良いたわわなバストにツンと上がった薔薇色の突起、細く括れた腰に、魅惑的な曲線を描く臀部。
思わず立ち上がったビアンカを止めるべくノアは手を伸ばした。
抱きとめた柔らかな肢体に、手に余るほど豊満なバスト。
止まらない欲望をビアンカに向けるが、彼女はそれを受け止めるように泣きながら微笑んだ。
『好きじゃなくても構わないからっ。今だけ……この瞬間だけでいいんです! 私を愛して、抱いてくださいっ……!』
もうこの言葉だけで、ノアの烈情を刺激するには十分だった。
そして翌朝、慌てて着替える彼女に違和感を覚える。
『へぇ……どういうことか、説明してもらおうか?』
そこには、失望したはずの幼馴染がいた。
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