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王宮
しおりを挟むそれからはまるで見せ物のように、王国の廊下を歩いている。
「オルノス卿がエスコートされている女性はどなたなの?」
「あの栗色の髪に紫の瞳は、おそらくエボルガー侯爵令嬢だと思うけど……」
「しかしあの格好、あの雰囲気……まるで別人だ!」
「なんでも、オルノス卿との婚姻で変わられたと、噂になっているようよ」
「たしかに……この目で見ても、同じ人物だとはとても……」
(あのぉ……ぜーんぶ聞こえてますけど……!)
嫌でもひそひそとした声が耳に届き、ミレールの心に突き刺さる。
自分のことではないから半分は聞き流せるが、半分はやはりダメージを喰らい、毒でも受けたようにミレールのHPが次第に減っていく。
(覚悟はしてましたけど、結構なあからさま具合ですわ。わたくしは仕方ないにしても、ノアもいい気はしないのでは……)
チラッと横目でノアを見るが、ノアはわりと平然としている。
「周りの人間なんて、気にする必要はない」
「っ……、申し訳ありませんわ。わたくしのせいで、ノアまで……」
「俺はなんとも思わない。だからあんたも、堂々としていろ」
「――はい」
本当に人の噂話など気にしていないのか、ノアは平然としていた。
ノアが嫌な思いをしていないのならいいか、とミレールは思い直した。
「ノア? 一体、どこまで進みますの?」
「西にある庭園のテーブルセットでレイリン嬢がお待ちだ。あんたの話をしたら、とても喜んでいたぞ」
「レイリンが? 本当ですの!?」
「あぁ。やはり候補者たちのいる王宮内では、気を抜けないらしいからな。あと、城内は危険も多い。あんたも十分に気をつけろ」
「えぇ。わかり、ましたわ……」
レイリンはそんな話までノアにしているのか、と途端に暗い気持ちになった。
元々ノアはレイリンを追いかけていて、無理やり自分が結婚したようなものだから、やはりまだレイリンに未練があるのかもしれない。
そうだとしてもミレールは何も言えない。
ノアの心まで縛るようなことはできないからだ。
しばらく王宮の長い廊下を進むと、外に出る出入口があり、そこを抜けると真っ赤な薔薇が咲き乱れる庭園が目の前に広がった。
その先に段があり、豪華なテーブルセットが用意されていた。
近くまで歩くとレイリンの他にもう一人いることに気づいた。
ミレールはハッとして慌ててノアの腕から手を離し、スカートを両手で広げ淑女の礼をとる。
「王国の若き太陽である王太子殿下に、ご挨拶申し上げます」
咄嗟に王国式の挨拶をしたミレールに、隣にいたノアは驚いたような表情をしていた。
「やぁ、ミレール嬢。久しぶりだね」
太陽のような金色の髪に、ルビーのような真っ赤な瞳。
すべてを魅了する甘いマスクと、長きに渡ってミレールの我が儘に迷惑していても変わることのない、優雅で柔らかな微笑み。
小説のミレールが好んで赤いドレスを着ていたのも、すべてマクレインの色だからだ。
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