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 思わず立ち上がりそうになった体を、なんとか席に留まらせた。
 
(だとすれば、ノアは責任を感じてこのように暗くなっているはずですわ。しかしわたくしはもう王太子妃候補からは外れてしまっていますし……どうすれば……)

 そこまで考え、ミレールは隣の席のノアに視線を送る。

「ノア、お願いがありますの!」

「ん……? なんだ、急に?」

「あの……、わたくしも明日、王宮へ行ってはいけませんか?」

「はっ? あんたが、なんの為に王宮へ行くんだ?」

「久しぶりにレイリンと会って、お話ししたくて……」

 本当は王宮になど出向きたくなかった。

 杏はミレールの行く末を知っていたし、いつどこで小説の内容に絡むかわからなかったため、その舞台である王宮への出入りはできるだけ避けたかった。
 だがノアのことを思えば、少しでも負担を取り除いてあげたくて、レイリンをダシに使い登城を願う。

 しかしノアは、なぜか先ほどより不機嫌になってしまった。

「あら、別にいいじゃない! ミレールだってここにばかり居たら退屈でしょ? たまにはお友達とお茶をするのも息抜きになるわ。王太子妃候補のご令嬢は、選抜が終わるまで王宮からは出られないしね!」

 すかさず反対側の席からノクターンがフォローしてくれる。心の中でノクターンに感謝しながらノアに向かい笑顔を向ける。

「――わかった。……だが、王宮へ来ても、絶対に問題は起こすなよ」

 暗かった顔が怒ったような表情へと変わっている。
 ノアはミレールに王宮へ来てほしくないのか、逆に不機嫌さに拍車をかけてしまった。

(ノアは、まだわたくしが他の方に迷惑をかけると思ってますのね……)

 そう思うと悲しくなるが、今までのミレールの行動を考えれば当然の結果だともいえる。

「神に誓って、そのようなことはいたしませんわ」

 ひとまず信じてもらえるかわからないが、訝しそうにしているノアの顔をじっと見ながら真剣に訴える。
 ミレールの訴えが届いたのか、ノアは短く息を吐いて、自分のほうから珍しく視線を逸していた。

「……城に着いたら、近くの兵に報せろ。俺が迎えに行く」

「っ! わかりましたわ! ありがとうございますっ」
 
 渋々といった感じだが、ノアから了承を得ることができた。
 ノアがわざわざミレールを迎えに来るということは、何をやらかすかわからないから先手を打つ、ということなのだろう。

 そんなふうに見張らなくても大丈夫なのに……、と思うが、小説の中でのミレールの言動は酷いものがあったから仕方ないのだろう、と心の中で納得していた。

「さぁ、冷めないうちに食べましょう!」

 そしてノクターンの明るい声とともに、食事が再開された。

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