上 下
20 / 110

四角関係?

しおりを挟む
 
 ソファーに腰掛け、不思議そうな顔をしていたミレールにノクターンは話を続ける。

「元々貴女のお母様のミランダとはあまり仲良くなかったの。しかも私が想いを寄せていたこの人、レオンハルトもミランダに夢中でね……貴女のお父様であるエボルガー侯爵とミランダを巡って、それそれは激しい死闘を繰り返していたわ」

「まぁ……!」

 たしかにミレールの両親はとても良い仲が良い。
 冷え切ったセックスレス生活を送っていた杏は、その光景を見ていることが辛い時もあった。

「でもね、ある日ミランダがエボルガー侯爵の求婚を受け入れたの。そして私が傷心のこの人を手に入れることができたのよ!」

「はあ。経緯は、なんとなくわかりましたが、……それで、なぜ母とあれほどまでに仲良くなったのですか?」

 にこやかに話すノクターンの美しい微笑みを拝みながら、それでもミレールの頭には疑問符しか浮かばなかった。その様子を見ていたノクターンは、さらに説明を加えていく。

「私はね、この人が落ち込む度に陰ながらずっと慰めてたの。この人にはどうやっても振り向いてもらえないし、報われないと思っていたけど……それでもレオンハルトが大好きだったから。ミランダもその様子を知っていてね。ミランダがエボルガー侯爵を選んだ時に、レオンハルトに言ってくれたのよ。周りを良く見てみなさいって。『貴方はギルバートと張り合うことに躍起やっきになっているだけ。貴方を想って心を砕いてくれる人は他にいるでしょ? その方が居なくなってしまった時にはきっと、今以上に落ち込むはずだわ』ってね」

「っ! お母様が……?」

「えぇ! その言葉を聞いた時に、この人には敵わないと思ったわ。でもそれと同時に、ミランダのことがすごく大好きになったの! 本当に素敵な人よ、貴女のお母様は……」

「そう、でしたの……」

 昔を懐かしむようにノクターンは微笑みながら話していた。
 隣に座っていたオルノス侯爵もノクターンの話にぐっときたのか、ノクターンの肩を引き寄せ、愛しそうに夫人の横顔に軽いキスを贈っている。

「ギルバートは今でも憎いが、君の母君であるミランダ夫人にはとても感謝している。だからこそ君がノアを選んでくれたことがこの上なく嬉しくてなっ! 夫人にそっくりな君とノアが一緒になり、ギルバートの悔しい顔も見れてとても爽快だった! あとはぜひとも早く孫の顔を見せくれ!!」 

「えぇ、本当ね! 楽しみだわ!」

 二人は仲睦まじく寄り添い、嬉しそうに笑っている。
 オルノス侯爵とノクターンの気の早い発言に、ミレールの顔が思わず引きる。

(あの……お喜びのところ、大変申し訳ないのですが、ノアとは少ししたら離れるつもりですの。わたくしがノアを騙して誤って関係を結んでしまったようなものですから……。ノアはわたくしを恨んでいるはず。ですから、わたくしたちの孫の顔などは一生見れませんわ……)

 決して言葉に出せない心の声をそっと飲み込んだ。
 
「ま、まだ……新婚ですし……、ひとまず、もう少し、落ち着いてから……か、考えますわ……」

 青褪めて引き攣った笑いを浮かべながら、期待を込めて見ている二人にそのセリフを言うことが精一杯だった。


 ◇◆◇


 ノアがオルノス侯爵邸に戻って来たのは夜だった。

 晩餐の前に帰って来たノアはミレールが思い描いていた通り、不機嫌な雰囲気であった。
 騎士服から貴公子風な普段着に着替えたノアもやはりとても素敵だった。
 ミレールとの結婚が嫌で、帰宅しないのかもという考えも頭をよぎっていたが、初の晩餐の席にはきちんと参加してくれたことにホッと胸を撫で下ろした。
 晩餐の席は広くて長いテーブルにたくさんの料理が並んでおり、上座にオルノス侯爵、その右隣にノクターン、反対の席には一つ空けてミレールが座っており、ズカズカと入ってきたノアはテーブルの前で足を止めていた。

「ノア! 随分遅かったじゃないか! ミレールが寂しそうにお前を待ち侘びていたんだぞ!?」
 
(オルノス侯爵様! わたくし、まったく寂しそうになどしておりませんでしたわ! むしろノアに会うのが怖くて緊張していたくらいでっ……)
 
 そこまで考えてミレールはハッとする。
 もしかしてその不安そうな顔が、オルノス侯爵には寂しそうに見えてしまったのかと。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】利害一致のお飾り婚だったので初夜をすっぽかしたら大変なことになった

春瀬湖子
恋愛
絵に描いたような美形一家の三女として生まれたリネアだったが、残念ながらちょっと地味。 本人としては何も気にしていないものの、美しすぎる姉弟が目立ちすぎていたせいで地味なリネアにも結婚の申込みが殺到……したと思いきや会えばお断りの嵐。 「もう誰でもいいから貰ってよぉ~!!」 なんてやさぐれていたある日、彼女のもとへ届いたのは幼い頃少しだけ遊んだことのあるロベルトからの結婚申込み!? 本当の私を知っているのに申込むならお飾りの政略結婚だわ! なんて思い込み初夜をすっぽかしたヒロインと、初恋をやっと実らせたつもりでいたのにすっぽかされたヒーローの溺愛がはじまって欲しいラブコメです。 【2023.11.28追記】 その後の二人のちょっとしたSSを番外編として追加しました! ※他サイトにも投稿しております。

悪役令嬢なのに王子の慰み者になってしまい、断罪が行われません

青の雀
恋愛
公爵令嬢エリーゼは、王立学園の3年生、あるとき不注意からか階段から転落してしまい、前世やりこんでいた乙女ゲームの中に転生してしまったことに気づく でも、実際はヒロインから突き落とされてしまったのだ。その現場をたまたま見ていた婚約者の王子から溺愛されるようになり、ついにはカラダの関係にまで発展してしまう この乙女ゲームは、悪役令嬢はバッドエンドの道しかなく、最後は必ずギロチンで絶命するのだが、王子様の慰み者になってから、どんどんストーリーが変わっていくのは、いいことなはずなのに、エリーゼは、いつか処刑される運命だと諦めて……、その表情が王子の心を煽り、王子はますますエリーゼに執着して、溺愛していく そしてなぜかヒロインも姿を消していく ほとんどエッチシーンばかりになるかも?

【R18】幼馴染な陛下と、甘々な毎日になりました💕

月極まろん
恋愛
 幼なじみの陛下に、気持ちだけでも伝えたくて。いい思い出にしたくて告白したのに、執務室のソファに座らせられて、なぜかこんなえっちな日々になりました。

【R18】殿下!そこは舐めてイイところじゃありません! 〜悪役令嬢に転生したけど元潔癖症の王子に溺愛されてます〜

茅野ガク
恋愛
予想外に起きたイベントでなんとか王太子を救おうとしたら、彼に執着されることになった悪役令嬢の話。 ☆他サイトにも投稿しています

【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!

臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。 そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。 ※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています ※表紙はニジジャーニーで生成しました

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

【R18】国王陛下はずっとご執心です〜我慢して何も得られないのなら、どんな手を使ってでも愛する人を手に入れよう〜

まさかの
恋愛
濃厚な甘々えっちシーンばかりですので閲覧注意してください! 題名の☆マークがえっちシーンありです。 王位を内乱勝ち取った国王ジルダールは護衛騎士のクラリスのことを愛していた。 しかし彼女はその気持ちに気付きながらも、自分にはその資格が無いとジルダールの愛を拒み続ける。 肌を重ねても去ってしまう彼女の居ない日々を過ごしていたが、実の兄のクーデターによって命の危険に晒される。 彼はやっと理解した。 我慢した先に何もないことを。 ジルダールは彼女の愛を手に入れるために我慢しないことにした。 小説家になろう、アルファポリスで投稿しています。

処理中です...