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四角関係?
しおりを挟むソファーに腰掛け、不思議そうな顔をしていたミレールにノクターンは話を続ける。
「元々貴女のお母様のミランダとはあまり仲良くなかったの。しかも私が想いを寄せていたこの人、レオンハルトもミランダに夢中でね……貴女のお父様であるエボルガー侯爵とミランダを巡って、それそれは激しい死闘を繰り返していたわ」
「まぁ……!」
たしかにミレールの両親はとても良い仲が良い。
冷え切ったセックスレス生活を送っていた杏は、その光景を見ていることが辛い時もあった。
「でもね、ある日ミランダがエボルガー侯爵の求婚を受け入れたの。そして私が傷心のこの人を手に入れることができたのよ!」
「はあ。経緯は、なんとなくわかりましたが、……それで、なぜ母とあれほどまでに仲良くなったのですか?」
にこやかに話すノクターンの美しい微笑みを拝みながら、それでもミレールの頭には疑問符しか浮かばなかった。その様子を見ていたノクターンは、さらに説明を加えていく。
「私はね、この人が落ち込む度に陰ながらずっと慰めてたの。この人にはどうやっても振り向いてもらえないし、報われないと思っていたけど……それでもレオンハルトが大好きだったから。ミランダもその様子を知っていてね。ミランダがエボルガー侯爵を選んだ時に、レオンハルトに言ってくれたのよ。周りを良く見てみなさいって。『貴方はギルバートと張り合うことに躍起になっているだけ。貴方を想って心を砕いてくれる人は他にいるでしょ? その方が居なくなってしまった時にはきっと、今以上に落ち込むはずだわ』ってね」
「っ! お母様が……?」
「えぇ! その言葉を聞いた時に、この人には敵わないと思ったわ。でもそれと同時に、ミランダのことがすごく大好きになったの! 本当に素敵な人よ、貴女のお母様は……」
「そう、でしたの……」
昔を懐かしむようにノクターンは微笑みながら話していた。
隣に座っていたオルノス侯爵もノクターンの話にぐっときたのか、ノクターンの肩を引き寄せ、愛しそうに夫人の横顔に軽いキスを贈っている。
「ギルバートは今でも憎いが、君の母君であるミランダ夫人にはとても感謝している。だからこそ君がノアを選んでくれたことがこの上なく嬉しくてなっ! 夫人にそっくりな君とノアが一緒になり、ギルバートの悔しい顔も見れてとても爽快だった! あとはぜひとも早く孫の顔を見せくれ!!」
「えぇ、本当ね! 楽しみだわ!」
二人は仲睦まじく寄り添い、嬉しそうに笑っている。
オルノス侯爵とノクターンの気の早い発言に、ミレールの顔が思わず引き攣る。
(あの……お喜びのところ、大変申し訳ないのですが、ノアとは少ししたら離れるつもりですの。わたくしがノアを騙して誤って関係を結んでしまったようなものですから……。ノアはわたくしを恨んでいるはず。ですから、わたくしたちの孫の顔などは一生見れませんわ……)
決して言葉に出せない心の声をそっと飲み込んだ。
「ま、まだ……新婚ですし……、ひとまず、もう少し、落ち着いてから……か、考えますわ……」
青褪めて引き攣った笑いを浮かべながら、期待を込めて見ている二人にそのセリフを言うことが精一杯だった。
◇◆◇
ノアがオルノス侯爵邸に戻って来たのは夜だった。
晩餐の前に帰って来たノアはミレールが思い描いていた通り、不機嫌な雰囲気であった。
騎士服から貴公子風な普段着に着替えたノアもやはりとても素敵だった。
ミレールとの結婚が嫌で、帰宅しないのかもという考えも頭をよぎっていたが、初の晩餐の席にはきちんと参加してくれたことにホッと胸を撫で下ろした。
晩餐の席は広くて長いテーブルにたくさんの料理が並んでおり、上座にオルノス侯爵、その右隣にノクターン、反対の席には一つ空けてミレールが座っており、ズカズカと入ってきたノアはテーブルの前で足を止めていた。
「ノア! 随分遅かったじゃないか! ミレールが寂しそうにお前を待ち侘びていたんだぞ!?」
(オルノス侯爵様! わたくし、まったく寂しそうになどしておりませんでしたわ! むしろノアに会うのが怖くて緊張していたくらいでっ……)
そこまで考えてミレールはハッとする。
もしかしてその不安そうな顔が、オルノス侯爵には寂しそうに見えてしまったのかと。
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