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幼馴染
しおりを挟むそれは幼馴染であるノアとの関係だった。
小説のミレールは男主人公である王太子のマクレインに好意を寄せていたが、ミレールとなった杏が好きで特に推していたのは脇役のノアの方だ。
しかしミレールとノアは昔から犬猿の仲。
なぜかというと父親同士の仲が非常に悪かったのだ。
ただ、ミレールはその経緯に至る明確な理由を知らなかった。
だがそれと比例するように、母親同士の仲は非常に良く、その関係でノアはエボルバー侯爵家へたびたび遊びに来ていた。ここからノアとミレールの腐れ縁が始まる。
長馴染みといっても、ノアはミレールを非常に嫌っていた。
「ちょっとノア! どうしてわたくしのお菓子を勝手に食べましたの!?」
「嘘つくな! 俺は食べてないっ! お前が勝手に食べたんだろう!?」
「……くっ! ノアのくせに、生意気ですわっ!!」
そして元々のミレールもノアをとても嫌っていた。
幼い頃からノアに嫌がらせをしかけ、やってもいないことをでっち上げ、次第に二人の仲は険悪になっていく。
ノアも傲慢で高飛車なミレールの性格を嫌い、それと反対に心優しい人柄のレイリンに惹かれていく。
どこをどう変えても、今さら仲直りなどできることのない相手。
憑依後のミレールもその事実を変えることなく、小説通りにノアと敵対し、マクレインに気のある振りをしていた。
なぜなら憑依した時点ですでに、修正が効かないくらいノアがミレールを嫌っているとわかったからだ。
それはミレールとしての記憶が次第に杏と同化されつつあり、その際にノアに対するやりとりも杏の頭へと入ってきた。
「おい、お前! 王太子殿下に近づくなと、あれほど言っているだろうがッ」
「っ! ですがわたくしは、これから王太子妃候補としてっ――」
「お前の言い分は聞いていない。これは王太子殿下が決められたことだ!」
(そんな言い方……ひどいですわっ……!)
たまたま王宮に訪れた際、以前のミレールのようにマクレインに近づこうとしたが、ノアは厳しい口調と冷ややかな視線を送ってきた。
ノアは騎士家系でオルノス侯爵家の嫡男。この国の王太子であるマクレインの護衛騎士でもある。
銀河を映し出したような艷やかな黒髪、深みのある青が印象的な瑠璃色の瞳。
彫り深い端正な顔立ちに、鍛え上げられた屈強な身体。そして侯爵家という家柄もあり、ノア自身もマクレイン同様、女性たちからとても人気があった。
そんなノアとの修復不可能な関係は最悪なもので、心の折れるようなやり取りを繰り返し、ミレールは違う意味で涙する日々を送っていた。
(ここまで嫌われているのなら、ノアには近づかないほうが身のためね。わたくしは傍観者になるつもりだし、主要人物たちとは極力距離をとるようにしなくては……)
もうこの時点でノアとの関係修復は諦め、せめて小説通りのミレールにならないように、静かに身を引いた後でレイリンを応援しようと思ったのだ。
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