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意外な歓迎
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「ミレール、貴女が私の本当の娘になるなんて! なんて素敵なのかしらっ!」
馬車から降りたミレールを出迎えてくれたのは、ノアの母であるノクターン・オルノス侯爵夫人。
腰まで伸びたセピア色の髪をハーフアップにし、くっきりとした愛らしい榛色の瞳。ミランダ同様、ノアのような大きな子供がいるとは思えないほど可愛らしく、とても若く見える。
そしてその隣にはレオンハルト・オルノス侯爵が立っていた。
「君がミレール嬢、か……」
オルノス侯爵は艷やかな黒髪と、深い瑠璃色の瞳が印象的で凛々しい顔つきの美丈夫だった。
顔はやはりノアに似ており……いや、ノアがオルノス侯爵に似ているのだろう。
式場ではゆっくり眺めている余裕もなかったが、こうして間近で見るとよくわかる。
(はあぁ~~! ノアはオルノス侯爵にそっくりですわ! あっ! ですが、わたくしはオルノス侯爵に嫌われているはずっ!)
オルノス侯爵はミレールの父であるギルバートを心底毛嫌いしていた。夫人であるノアの母ノクターンが頻繁にエボルガー侯爵邸に訪れても、オルノス侯爵だけは決して現れることはなかった。
そしてギルバートはミレールや母ミランダもオルノス侯爵邸に訪れることを禁じていた。
小説内でも書かれていないその真相を、ミレールは今でもわかっていない。
オルノス侯爵邸の庭先で、ミレールは片手を胸に、そしてもう片手でスカート広げ、深く腰を折った。
「こ、この度はわたくしの不手際により、ご子息を――」
「良くぞ我が家へ来てくれたっ!!」
ミレールの言葉は途中で遮られ、オルノス侯爵は勢いのままをミレールの手を握り締めた。
「――え!?」
「ノアよ! でかしたぞっ!! あの時のギルバートの顔は実に見物だった! ミレール嬢……いや、ミレールと呼んでも構わないか?」
「は……? はい?」
ノアに似た渋めの美丈夫が、興奮気味に自分へと迫る様子に、ミレールは思わず一歩後退った。
「もう、レオンハルトったら! ミレールが驚いているじゃない! ごめんなさいね、ミレール。私同様、この人も貴女が来るのを心待ちにしていたのよ」
オルノス侯爵をミレールから離し、オルノス侯爵夫人であるノクターンが優雅に微笑みながらオルノス侯爵の腕に手を絡めている。
「お、オルノス侯爵様が……わたくしを? なぜ、ですの?」
父親同様、嫌われていると思っていたミレールは肩透かしを食らっている。
「ふふふっ、ひとまず屋敷へ入りましょ? あとでノアも来るからね!」
パチっとウインクする美魔女を前に、ミレールは唖然としたまま二の口が継げなかった。
◇◆◇
ミレールはオルノス侯爵邸に初めて足を踏み入れた。オルノス夫人はいつでも遊びに来てね、と母ミランダやミレールに声をかけていたが、肝心の父ギルバートが頑としてオルノス侯爵邸への訪問を許さなかったからだ。
「だからね……何を隠そうこの人が、貴女のお母様であるミランダにベタ惚れだったのよ!」
オルノス侯爵邸の中へと案内され、ミレール応接室へと座らされていた。
対面にはオルノス侯爵と夫人のノクターンが仲良くソファーに腰掛けている。
「え……っと、わたくしの聞き間違えでなければ、オルノス侯爵様がその昔、わたくしの母に懸想されていた、と……?」
「そう! 正解よ!!」
お茶とお菓子を出してもらい、使用人も下がらせて話しているのだが、ノクターンのテンションは変わらず高い。
「ですが……そうしますと、オルノス侯爵の求婚をお母様がお断りした、ということになってしまいますが……」
父のギルバートがミランダと結婚し、兄たちやミレールが生まれている。要するにミランダがオルノス侯爵が振ったのだ。
だが、その事実をノクターンはとても嬉しそうに話している。
「えぇ。ミランダが貴女のお父様であるエボルガー侯爵様を選んでくれたおかげで、私はレオンハルトと一緒になれたの! だからね、ミランダにはすごく感謝してるし、貴女がここに嫁いで来てくれたことがとても嬉しいの!!」
「――????」
ノクターンは頬を染め、隣に座るオルノス侯爵の腕に自らの腕を絡ませていた。
年を重ねても二人はラブラブな様子で、見つめ合う姿からは今でも深く愛し合っていることが一目でわかる。
(どうしましょう……。話がまったく結びつかないのですけれど……聞いている限りでは、修羅場のような風景しか浮かんできませんわ)
馬車から降りたミレールを出迎えてくれたのは、ノアの母であるノクターン・オルノス侯爵夫人。
腰まで伸びたセピア色の髪をハーフアップにし、くっきりとした愛らしい榛色の瞳。ミランダ同様、ノアのような大きな子供がいるとは思えないほど可愛らしく、とても若く見える。
そしてその隣にはレオンハルト・オルノス侯爵が立っていた。
「君がミレール嬢、か……」
オルノス侯爵は艷やかな黒髪と、深い瑠璃色の瞳が印象的で凛々しい顔つきの美丈夫だった。
顔はやはりノアに似ており……いや、ノアがオルノス侯爵に似ているのだろう。
式場ではゆっくり眺めている余裕もなかったが、こうして間近で見るとよくわかる。
(はあぁ~~! ノアはオルノス侯爵にそっくりですわ! あっ! ですが、わたくしはオルノス侯爵に嫌われているはずっ!)
オルノス侯爵はミレールの父であるギルバートを心底毛嫌いしていた。夫人であるノアの母ノクターンが頻繁にエボルガー侯爵邸に訪れても、オルノス侯爵だけは決して現れることはなかった。
そしてギルバートはミレールや母ミランダもオルノス侯爵邸に訪れることを禁じていた。
小説内でも書かれていないその真相を、ミレールは今でもわかっていない。
オルノス侯爵邸の庭先で、ミレールは片手を胸に、そしてもう片手でスカート広げ、深く腰を折った。
「こ、この度はわたくしの不手際により、ご子息を――」
「良くぞ我が家へ来てくれたっ!!」
ミレールの言葉は途中で遮られ、オルノス侯爵は勢いのままをミレールの手を握り締めた。
「――え!?」
「ノアよ! でかしたぞっ!! あの時のギルバートの顔は実に見物だった! ミレール嬢……いや、ミレールと呼んでも構わないか?」
「は……? はい?」
ノアに似た渋めの美丈夫が、興奮気味に自分へと迫る様子に、ミレールは思わず一歩後退った。
「もう、レオンハルトったら! ミレールが驚いているじゃない! ごめんなさいね、ミレール。私同様、この人も貴女が来るのを心待ちにしていたのよ」
オルノス侯爵をミレールから離し、オルノス侯爵夫人であるノクターンが優雅に微笑みながらオルノス侯爵の腕に手を絡めている。
「お、オルノス侯爵様が……わたくしを? なぜ、ですの?」
父親同様、嫌われていると思っていたミレールは肩透かしを食らっている。
「ふふふっ、ひとまず屋敷へ入りましょ? あとでノアも来るからね!」
パチっとウインクする美魔女を前に、ミレールは唖然としたまま二の口が継げなかった。
◇◆◇
ミレールはオルノス侯爵邸に初めて足を踏み入れた。オルノス夫人はいつでも遊びに来てね、と母ミランダやミレールに声をかけていたが、肝心の父ギルバートが頑としてオルノス侯爵邸への訪問を許さなかったからだ。
「だからね……何を隠そうこの人が、貴女のお母様であるミランダにベタ惚れだったのよ!」
オルノス侯爵邸の中へと案内され、ミレール応接室へと座らされていた。
対面にはオルノス侯爵と夫人のノクターンが仲良くソファーに腰掛けている。
「え……っと、わたくしの聞き間違えでなければ、オルノス侯爵様がその昔、わたくしの母に懸想されていた、と……?」
「そう! 正解よ!!」
お茶とお菓子を出してもらい、使用人も下がらせて話しているのだが、ノクターンのテンションは変わらず高い。
「ですが……そうしますと、オルノス侯爵の求婚をお母様がお断りした、ということになってしまいますが……」
父のギルバートがミランダと結婚し、兄たちやミレールが生まれている。要するにミランダがオルノス侯爵が振ったのだ。
だが、その事実をノクターンはとても嬉しそうに話している。
「えぇ。ミランダが貴女のお父様であるエボルガー侯爵様を選んでくれたおかげで、私はレオンハルトと一緒になれたの! だからね、ミランダにはすごく感謝してるし、貴女がここに嫁いで来てくれたことがとても嬉しいの!!」
「――????」
ノクターンは頬を染め、隣に座るオルノス侯爵の腕に自らの腕を絡ませていた。
年を重ねても二人はラブラブな様子で、見つめ合う姿からは今でも深く愛し合っていることが一目でわかる。
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