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大事件
しおりを挟むそれからなんの音沙汰もなく、数日が平和に過ぎていた。
しかし、事態は急に一変する。
「おい、ミレールッ!! これは一体どういうことだぁッッ!!!!」
自分の部屋でお茶を飲んでいたミレールに、父親のギルバートが物凄い勢いで部屋へ乗り込んできた。
「お、お父様?! どうなさいましたの!?」
「旦那様!?」
息を切らし入ってきたギルバートは、物凄い剣幕でソファーで座ってお茶を飲んでいるミレールにズカズカと迫る。
「オルノスの倅が、お前に求婚状を送り付けて来たのだッ!!」
「――はっ? …………はいぃッッ?!!!」
思わず持っていたカップを床に落とす。近くで控えていたアルマがすぐに回収し、雑巾で床を拭いている。
まるで決闘状でも受け取ったような剣幕に、ミレールは思わず立ち上がる。
「手紙には、お前を傷物にしてしまったので責任を取ると書いてあったが……、どういうことなのか説明してもらおうかっ……!」
溢れんばかりの怒りを見せるギルバートに、ミレールの顔が一気に顔面蒼白となり、嫌な汗がダラダラと流れてくる。
(な、なんてことですの!? あれだけ黙っていろと念押ししましたのにッ!! ノアは本当に何を考えてますの?!)
それからは一騒動だった。
まず父親のギルバートにそれとなく事情を説明し、そのあと緊急の家族会議が開かれ、ミレールは父親と兄二人から散々責められることになる。
唯一、母親であるミランダだけはこの結婚に賛成していた。
激昂した父を母が笑顔で宥め、ひとまずミレールは部屋に戻っていいと母に言われ、ようやく解放されたのだった。
部屋に戻ったミレールは、疲れと極度のストレスに痛む胃を押さえベッドへと突っ伏した。
「お嬢様……大丈夫ですか?」
「アルマ……、大丈夫に、見えるかしら……」
「いえ……。しかし、まさかノア様とお嬢様が……」
「あぁ、もう言わないで! わたくしが一番驚いているの!」
「も、申し訳ございません!」
「はぁ…………貴女のせいじゃないの。当たってしまって悪かったわ。……わたくしも、どうしていいのかわからないの」
突然降って湧いた結婚話。
婚約状ではなく求婚状を送って来る辺りがなんともノアらしい。真面目で正義感が強く曲がったことを嫌う。
家族にここまで知られてしまったからにはもう誤魔化しは効かず、送られてきた求婚状を受けるしかない。
「アルマ、ちょっと一人になりたいの……いいかしら?」
「かしこまりました。お嬢様の好きなハーブティーとお菓子を用意してまいりますね」
「ありがとう、アルマ」
アルマは笑顔で一礼してから部屋を出ていった。
一人残ったミレールはベッドでのたうちまわっている。
(ああぁぁーー!!!! もう、ノアのバカバカっ!! わざわざわたくしのほうから黙っていろと申し出てあげましたのにっ!! ほんッッとに! バカ正直なんですからぁッ!!!!)
ベッドで暴れまわっていたミレールはピタッと動きを止め、ムクッと起き上がる。近くにあった枕を掴むと、腕に抱きしめた。
はぁ……、と深いため息を吐いたあと、ぽそっと本音が漏れた。
「ほんと……馬鹿ですわ。でも、そんなとこが……好き」
この年になって純愛を求めるのも恥ずかしい話だが……好きだからこそ幸せになってほしい。
だが、それをできるのは自分ではない。
悲しいがノアはミレールを嫌っている。それは変えようのない事実だ。
せめてノアが辛い思いをしないように、なるべく短い期間で身を引こう。
「あっ、そうですわっ!」
そこでミレールはひらめいた。
(たしか小説でも書かれてました! 婚姻から一年の間、白い結婚もしくは子宝に恵まれなければ離婚が成立すると! コレですわっ!!)
抱いていた枕を放り投げ、ベッドからぴょんと飛び降りる。
「ノアのためにも、一年間だけ我慢してもらって、夫婦関係を築かなければ離婚できます! わたくしはノアに嫌われてますから、簡単に離婚が成立いたしますわ! そうすればノアを解放してあげられますッ!!」
先ほどまで傷心としていたミレールの感情が一気に浮上する。
ミレールは自分の最善な考えに酔いしれていた。
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