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様々な想い

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 ミレールは数いる王太子妃候補の一人としてあげられていた。
 そこにはもちろん主人公ヒロインで、伯爵家出身のレイリンも入っている。
 これから行われるこの候補の選抜は、約半年間かけて決められる。
 選抜と言っても試験のようにテストを受ける訳ではない。ただ王太子妃候補として半年間王宮で暮らすだけ。
 しかし、実際には複数の試験官のような侍女や侍従が目を光らせており、陰ながら採点されている。
 もちろん王宮内で不祥事など起こそうものなら、大幅に減点され、案件次第ではその場で失格となる。それに広く公に公表され家門の恥となりうる厳しいものだった。
 
 
 ◇◆◇


 着替えと湯浴みを済ませ、自分の部屋のベッドに横たわりながら、ミレールはこれからのことを考えていた。

(マズいですわ……非常に、マズいですわっ……!)
 
 すでに王太子妃候補として登録しているミレールは、今さらながら頭を抱えていた。
 書類はすでに受理されており、候補者として取り消すことはできない。
 
(これは軌道修正しなければっ! ひとまず候補者として王宮に通いつつ、レイリンを引き立てるようにサポートしていればどうにかなるかしら? どうせミレールは王太子妃として選ばれませんし、わたくしはこれから他の候補者がどうするかわかっています。自分の身を守るためにもレイリンの邪魔さえしなければ、最悪な未来を防げるはずですわっ!!)

 なんとかこれからの自分の身の振り方を見出したミレールはベッドからガバっと起き上がった。

「つぅっ!」

 まだ腰と局部が痛む。
 しかしその痛みを不快だと思わず、むしろその事実が嬉しかった。何故なら、ノアと結ばれた痛みだからだ。
 ミレールの部屋をザッと見渡すと、ドレッサーに応接セット、広めの天蓋付きベッドに大きなクローゼットと豪華な家具が並ぶ中、一際目に付くのものがある。
 それは壁に飾られているマクレインの姿絵だ。
 これは元々のミレールがマクレインに相当惚れこんでいた時に購入して、毎日拝むように見ながら大切に飾ってあったもの。

(これも、もう……必要はないわね……)

 そう思うのだが、何故か心の奥底がチクリと痛んだ。
 ミレールはベッドに座ったまま、わだかまる感情を持て余し、自らの胸元の服をぎゅっと掴んだ。
 おそらくこの感情は、元々のミレールの気持ちなのだろう。だが、ミレールに憑依したと同時に、今のミレールはマクレインへの恋心が消えてしまった。
 
……ごめんなさいね。けれど、どう転んでも貴女が王太子殿下と結ばれる未来は存在しませんの。貴女のためにも、原作通りにならないようにわたくしがどうにかしてみせますわっ!!)
 
 ミレールは純粋にマクレインに好意を寄せていた。本当に昔からマクレインが大好きで、マクレインがミレールの人生における全てだった。
 ただ、好きだからと言って、誰でも相手に想いが届くわけではない。
 杏の頃も、恋愛関係ではあまりモテるほうではなかった。振られたことも何度もあるし、見ているだけで終わった恋もたくさんあった。
 だからこそミレールの気持ちが痛いほどわかる。
 これだけの美人にあれだけ好きだと言われても、マクレインがなびくことは一度もなかった。
 ミレールは幼い頃からマクレイン一筋で、マクレインの元に嫁ぐことだけを夢見ていた。その気持ちは憑依した今だからこそ、痛いほどよくわかる。
 だからミレールはレイリンを陥れ、自分がマクレインの隣に立とうと目論もくろんでしまった。
 相手を想うがゆえの悪事。
 もちろんミレールが悪い。だが、そう思うとミレールがとてもあわれに思えてきてしまう。
 またベッドに横たわり、マクレインの姿絵を見ながら物思いにふける。

(貴女も、ままならなかったのね……。お互い、想いが通じることはないのかもしれませんが、せめていさぎく原作の舞台から降りれるよう……わたくしが貴女の分まで尽力いたしますわ……)

 昨日の疲れもあり、うとうとしてきたミレールはベッドに横たわったまま意識を手放した。



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