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現実

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「――――……」

 翌朝。
 ガンガンと痛む頭の痛みに、パチっと目が覚めたミレール。
 頭痛に加え、体の痛みと気持ち悪さに二日酔いだと気づく。ここまで酷く二日酔いの症状が現れるのも久しぶりだと、頭の片隅で思った。
 ふと横を見ると、隣で穏やかな寝息を立てているノアの寝顔が目に入る。

(……え? えっ!? ノ、ア……?? なぜ、ここに?!)

 しばらく固まったまま、ノアの寝顔を呆然と見ていた。
 わけが分からないまま思考を巡らせて、そういえばッ! と、ミレールは驚いて体を起こした。
 
「痛ッ……!」

 腰と局部に痛みが走った。
 そして秘部からはドロッと注がれた液が流れ出る。

「なっ? や、な、ぜ……?」

 受け入れ難い現実に、思わず心の声が漏れてしまった。
 
(え? えッ!? えええぇぇッーー!!!! う、嘘ですわァァッッ!!!?)

 二日酔いが吹き飛ぶほど驚き、起き上がったまま即座に頭を抱えた。
 あれだけ酔っ払っていたのに、憎らしほど記憶は鮮明に残ってる。 
 思い切りノアに甘えて、最後まできっちり抱いてもらった。
 しかもそのあとも、長年の欲求不満と酒による酔いもあってか、二度三度と求められるまま抱かれてしまった。

(や、ヤッてしまいましたわ……)
 
 冷や汗がどっと溢れ、隣で寝ている裸のノアを恐る恐る見た。 

 うつ伏せて寝ているノアの寝顔は、きゅんとときめくほど無防備で――
 こんな状況なのに、艷やかな黒髪もキリッとした凛々しい顔立ちも目を奪われるくらい整っている。
 特に均整のとれた靭やかで美しい身体は、ミレールの劣情を再び誘い、思わず触れてしまいたくなるほど魅力的だった。

(こんなにも素敵なのに、なぜレイリンはノアを選ばなかったのかしら? マクレイン殿下も素敵だけれど、わたくしとしてはノアには敵いませんわ)

 自分だったら、誰よりもノアを愛して、大切にしてあげるのに……

 そう思うミレールだが、何しろノアはミレールをたいそう嫌っている。
 父親同士の仲もすこぶる悪い。
 ミレールの父親はノアの父親を見下している部分があり、だからこそ小説のミレールもノアを見下していたのだ。
 幼い頃から長年培われた関係性は今さらどう修正しても、やり直せることはなく、好かれることはないのだ。

 すやすやと眠るノアを、ミレールは切なげな瞳でしばらくの間見ていた。

(ダメね……そろそろ行かなくては……ノアに見つかったら、彼がショックを受けてしまいますもの)

 自分の髪色が金色から栗色に戻っている。
 薬が切れ、変身が解けてしまっている証拠だ。
 
 まさか一夜を過ごした相手がミレールだと知ったら、ノアはショックを受けて激怒するだろう。

 そう想像してミレールの胸がズキズキと痛む。
 その姿を見たら、ノアよりも自分のほうが傷付くかもしれない。ノアが自分を非難するようになじってきたら、それだけでミレールの心が壊れてしまいそうだ。

 ミレールは昨晩脱いだドレスを探した。
 床に無造作に置かれており、痛みに軋む身体をおしてゆっくりとベッドから立ち上がった。

 何とかドレスを拾い、急いでドレスを着る。
 コルセットは紐がすべて切られていたので諦めた。 

 背中の留具はとめられないので、悪戦苦闘しながら腕を後ろに伸ばし、限界まで何とか自分で締めた。

「おい……」

「――ヒッ!!」

 突然背後からかけられた声に驚き、体が大きく跳ねた。
 怖くて振り向くこともできず、ノアに背を向けたまま、ミレールはまた盛大に冷や汗を流していた。

「どこへ、行くつもりだ?」

 起き上がったノアが、ゆっくりと固まっているミレールに近づくような足音が聞こえる。

 ミレールの心臓がバクバクと嫌な音を立てて忙しなく動いている。

「ッ!」

 背後から抱き寄せられ、ビクッと体が震える。

「逃がすわけ、ないだろ?」

「あ……、っ……」

 まだノアはミレールだと気づいてないのか、裸のまま抱きしめている。
 抱きしめられたミレールの体が、動揺と怯えにカタカタと震える。

「ん……? アンタの髪、こんな色だったか?」

 目の前にあるミレールの変化に気づいたのか、ノアはミレールの体がをくるっと自らのほうへと向けた。

「やっ……!」

 咄嗟に顔を背けるが、ミレールの容貌がすべて隠れるわけではない。
 無駄な抵抗だとわかっていたが、そうせずにはいられなかった。

「なっ…?!」

 ノアは一瞬目を見張り、しばらくの沈黙の後、静かな怒りを称えるように冷然と笑った。

「――へぇ……? どういうことか、説明してもらおうか?」


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