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まさかの展開
しおりを挟むまさかこんな展開になるとは思っていなかった。
ノアはこの段階で、それほどレイリンに思い入れがないのだろうか。
ミレールと酒を飲む前までは、振られたと漏らすほど愁傷な態度だった。
まだ初期段階だから、とりあえず狙える相手なら誰でもいいのか、とも思うが……ノアはそこまで物事に対し奔放な性格ではなかったはず。
一人の相手を一途に想い、何かあれば己の命すら懸けてしまうほど一直線な性格をしていた。
(なぜだかショックですわ。嬉しいけれど、ノアはミレールだとは気づいていませんし……、自分なのに自分ではないから、手放しで喜べません……)
偽装したミレールがノアの好みに当て嵌まったのだろう。だとしてもやはり、今のミレールは本来の自分とは程遠い容姿をしている。
複雑な思いを抱え、ミレールはノアと向き合う。
「わたくしもお聞きしてよろしいかしら。貴方のお名前は? わたくしの知っている方だとは思うのですが……」
話題を変えるべく、ミレールは微笑みながら単刀直入に聞いた。
「俺はノア。名前くらいは、聞いたことあると思うが?」
「――っ!」
まさかここで、ノアが本名を出すとは思わなかった。
まだ酔いの冷めないミレールは余裕で笑い返した。
「ノア、様」
庭園のベンチに座り、月を見上げながら話すミレールをノアは興味深そうに眺めている。
「あぁ。ノアという名の貴族は、おそらく俺しかいないと思うが……」
ノアもミレールがはぐらかしているのをわかっているのか、ベンチに座っているミレールのすぐ側に座り、ミレールの手を取る。
「では、わたくしの知っている方だと思いますわ」
ミレールは仮面を被ったままにこりと笑う。
「知っているなら……アンタは、どうする?」
ノアはミレールの手の甲に唇を落としている。
「――っ」
(動揺してはダメ。ノアはわたくしだと知らないのだから大丈夫ですわ)
ドキドキしながらミレールはその手をパッと離す。
「もし、わたくしの知っている方でしたら、このまま退散させていただきますわ。わたくしのような者が関わっていいお相手ではございませんので……」
「今、一度。ビアンカ、俺と踊っていただけませんか?」
「ご、ご冗談を!」
「これも何かの縁だ。アンタも振られたクチだろ?」
離した手を再び握り、ノアはその手の甲に再びキスを落とす。ミレールはグッと早る心を抑えた。
「そ、れは……わたくしに、魅力がないからですの……その方は、他に想う方がいらっしゃるので……」
「想い人?」
「え、えぇ……。それにわたくし、その方に好かれておりませんの。何度振られたか、わかりませんわ……」
目の前にいる男から顔を反らし、取られた手をグッと振り払おうとするが、しっかりと握られた手が離れることはなかった。
「へぇ……ずいぶん馬鹿な男もいるんだな。なんて名前の奴だ?」
(あ、貴方のことよ!)
とにかくここから離れなくては、ミレールの姿も長くは保たない。姿が変わってから、すでに長い時間が経っている。今が何時かわからないが、長居は無用だ。
「貴方には関係ありませんわ。それにわたくし、一人になりたいの! どうぞお構いなっ……くッ――うッ!」
パッと手を離したミレールは、突然の気持ち悪さに口を覆ってしゃがみ込んだ。
「おい、どうした?」
「は……吐き、そう……」
「はあッ!?」
「うぅっ!! もぅ……、だ、め……」
「おいおい……」
そのままミレールは庭園の花壇の隅で限界を超えてしまった。
モドしてる間、ノアは立ち去ることもせず、ミレールの背中をずっと擦ってくれていた。
「はぁ……はぁ……、ぎぼぢわる……」
「大丈夫か?」
「苦し……ぃ……」
この時、コルセットを締めすぎたことを後悔していた。
憑依してからすぐにコルセット反対派となったミレールだが、アルマに舞踏会くらいはしなければ駄目だと諭され、仕方なく締めてきた。
吐き気が少しだけ引いたミレールは、先ほどもらったノアのハンカチで口元を拭いた。
胃の中のものをほとんど出したミレールだったが、まだしゃがみ込んだまま動けず、再び襲う酔いのせいでグラグラする頭を抱えていた。
「ったく。しょうがないな……」
「え……?」
「ほら」
「――ッ!!」
急に体が浮いたと思ったら、目の前にノアの凛々しい顔が迫る。
「あっ……!」
「部屋まで運んでやる」
「うぅッ……」
「しっかり掴まってろ」
初めてされるお姫様抱っこに動揺するが、気分もまだ晴れず、抗議や抵抗する元気もない。
また世界が揺れ始め、物事の分別がつかなくなっていた。
(頭が……グルグル、まわりますわ……、ですが、ノアから離れないと……)
それでも逞しいノアの腕に抱かれたミレールの心臓は、ドドドッと早鐘を打っている。
まだ酔いの覚めないミレールはそのままノアに休憩室まで大人しく運ばれた。
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