【R18】夫と6年間レスだった私が憑依転生したのは、大人向けweb小説の悪役令嬢でした

ウリ坊

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まさかの展開

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 まさかこんな展開になるとは思っていなかった。
 ノアはこの段階で、それほどレイリンに思い入れがないのだろうか。
 ミレールと酒を飲む前までは、振られたと漏らすほど愁傷しゅうしょうな態度だった。
 まだ初期段階だから、とりあえず狙える相手なら誰でもいいのか、とも思うが……ノアはそこまで物事に対し奔放ほんぽうな性格ではなかったはず。
 一人の相手を一途に想い、何かあれば己の命すらけてしまうほど一直線な性格をしていた。 
 
(なぜだかショックですわ。嬉しいけれど、ノアはミレールわたくしだとは気づいていませんし……、自分なのに自分ではないから、手放しで喜べません……)

 偽装したミレールがノアの好みに当て嵌まったのだろう。だとしてもやはり、今のミレールは本来の自分とは程遠い容姿をしている。
 複雑な思いを抱え、ミレールはノアと向き合う。

「わたくしもお聞きしてよろしいかしら。貴方のお名前は? わたくしの知っている方だとは思うのですが……」
 
 話題を変えるべく、ミレールは微笑みながら単刀直入に聞いた。

「俺はノア。名前くらいは、聞いたことあると思うが?」
「――っ!」

 まさかここで、ノアが本名を出すとは思わなかった。
 まだ酔いの冷めないミレールは余裕で笑い返した。

「ノア、様」
 
 庭園のベンチに座り、月を見上げながら話すミレールをノアは興味深そうに眺めている。

「あぁ。ノアという名の貴族は、おそらく俺しかいないと思うが……」

 ノアもミレールがはぐらかしているのをわかっているのか、ベンチに座っているミレールのすぐ側に座り、ミレールの手を取る。

「では、わたくしの知っている方だと思いますわ」

 ミレールは仮面を被ったままにこりと笑う。

「知っているなら……アンタは、どうする?」
 
 ノアはミレールの手の甲に唇を落としている。

「――っ」

(動揺してはダメ。ノアはわたくしだと知らないのだから大丈夫ですわ)

 ドキドキしながらミレールはその手をパッと離す。

「もし、わたくしの知っている方でしたら、このまま退散させていただきますわ。わたくしのような者が関わっていいお相手ではございませんので……」

「今、一度。ビアンカ、俺と踊っていただけませんか?」

「ご、ご冗談を!」

「これも何かの縁だ。アンタも振られたクチだろ?」

 離した手を再び握り、ノアはその手の甲に再びキスを落とす。ミレールはグッと早る心を抑えた。

「そ、れは……わたくしに、魅力がないからですの……その方は、他に想う方がいらっしゃるので……」

「想い人?」

「え、えぇ……。それにわたくし、その方に好かれておりませんの。何度振られたか、わかりませんわ……」

 目の前にいる男から顔を反らし、取られた手をグッと振り払おうとするが、しっかりと握られた手が離れることはなかった。

「へぇ……ずいぶん馬鹿な男もいるんだな。なんて名前の奴だ?」

(あ、貴方のことよ!)

 とにかくここから離れなくては、ミレールの姿も長くは保たない。姿が変わってから、すでに長い時間が経っている。今が何時かわからないが、長居は無用だ。
 
「貴方には関係ありませんわ。それにわたくし、一人になりたいの! どうぞお構いなっ……くッ――うッ!」

 パッと手を離したミレールは、突然の気持ち悪さに口を覆ってしゃがみ込んだ。

「おい、どうした?」

「は……吐き、そう……」

「はあッ!?」

「うぅっ!! もぅ……、だ、め……」

「おいおい……」

 そのままミレールは庭園の花壇の隅で限界を超えてしまった。
 モドしてる間、ノアは立ち去ることもせず、ミレールの背中をずっと擦ってくれていた。

「はぁ……はぁ……、ぎぼぢわる……」

「大丈夫か?」

「苦し……ぃ……」

 この時、コルセットを締めすぎたことを後悔していた。
 憑依してからすぐにコルセット反対派となったミレールだが、アルマに舞踏会くらいはしなければ駄目だと諭され、仕方なく締めてきた。
 吐き気が少しだけ引いたミレールは、先ほどもらったノアのハンカチで口元を拭いた。
 胃の中のものをほとんど出したミレールだったが、まだしゃがみ込んだまま動けず、再び襲う酔いのせいでグラグラする頭を抱えていた。

「ったく。しょうがないな……」

「え……?」

「ほら」

「――ッ!!」
 
 急に体が浮いたと思ったら、目の前にノアの凛々しい顔が迫る。

「あっ……!」

「部屋まで運んでやる」

「うぅッ……」

「しっかり掴まってろ」

 初めてされるお姫様抱っこに動揺するが、気分もまだ晴れず、抗議や抵抗する元気もない。
 また世界が揺れ始め、物事の分別がつかなくなっていた。

(頭が……グルグル、まわりますわ……、ですが、ノアから離れないと……)

 それでも逞しいノアの腕に抱かれたミレールの心臓は、ドドドッと早鐘を打っている。
 まだ酔いの覚めないミレールはそのままノアに休憩室まで大人しく運ばれた。

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