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まさかの展開 2
しおりを挟む王宮には休憩室と呼ばれる部屋が何個もある。
これは単に休憩するためだけではなく、男女が睦み合う目的で使われる用途も含まれている。
これも小説の設定なのか、主人公のレイリンは対象の男性達と度々ここを利用していた。
もちろんレイリンの意思ではなく、強引に迫る男性に連れ込まれた結果の話だった。
ミレールを抱えたままノアは置かれていたベッドへ近づいていく。そのまま顔色の悪いミレールをベッドを横たえ、うつ伏せにさせた。
「うぅ……」
横になれたことで少し楽になったが、まだ気分も悪く、頭もクラクラして目が回る。
(さ、最悪ですわ……。どうしてこんなことに……)
またミレールは泣きたい気分になってきた。
酔っ払ってノアに絡んだ末、モドして介抱までさせてしまった。
不意に、うつ伏せで寝ていたミレールの体が楽になる。
「はぁ……」
ノアがドレスの背を解き、コルセットの紐をナイフですべて切り、取り去ってくれたからだ。
「大丈夫か? これでだいぶ楽だろ?」
「え、えぇ……。申し訳、ありませんわ……」
体を締め付けていたものがなくなり、ようやくミレールの気分の悪さが緩和された。
楽に呼吸が吸えるようになり、体の圧迫感がなくなった。
まだ頭はクラクラしているが、体が楽になっただけでだいぶ違う。
「ほら、水。飲むとスッキリするぞ」
「……はい」
素直に返事を返して体を起こした。
受け取ったコップを両手で持ち、コクコクと喉を潤す。
レモンが中に入っていて、気持ち悪さに襲われていたミレールはさっぱりとした気分になれた。
「はぁ……。ありがとう、ございます」
飲み終えたミレールが顔を上げると、ノアが顔を赤くして横に反らしていた。
「なにか?」
口元を押さえたノアにミレールは不思議そうに声をかける。
「ドレスっ……!」
「はい?」
「は、肌蹴てるぞっ!」
「――あ……」
言われて視線を下に向けると、ドレスが下にずれ落ち、胸元がかなり露出している。
かろうじて見えない程度に引っかかっているだけで、今にもミレールの豊満な乳房が見えてしまいそうだった。
どうりで体がスースーすると思っていた。
ドレスを開いてコルセットの紐を切ったのなら当たり前か……と、ミレールは酔っていて回らない頭で冷静に判断している。
そしておもむろに着ていたドレスを脱ぎ出した。
「なっ!? お、おいっ! ま、待てッ!」
ミレールの豊満なバストも、磨き上げられた白い肌も括れた腰回りも……すべてが露わになった。
「見苦しいものを見せてしまい、申し訳ございませんわ……ドレスが汚れてしまったので、脱いだまでですわ」
フッ、と自嘲気味に笑った。
恥じらいもなく、外気に晒された素肌が心地良いとさえ感じてしまっている。
「何も、この場で全部脱がなくてもいいだろ!?」
ノアが咄嗟に顔を反らし焦っている様子をぽわんとした頭で、なぜなのかと不思議に思う。
(女性の素肌を見慣れていないのかしら? そう言われてみると、ノアはレイリンに対しても紳士的だったけれど、物足りなさを感じていたのを思い出しましたわ……)
大人向け小説だったが、ノアは騎士だったせいかそこまで性に対しての貪欲さは見られなかった。
たまにレイリンに強引に迫ることはあっても、乱暴さはなく常に紳士的だった。
そこが杏にとってもやもやする部分でもあった。
だからこそノアは好意があったとしても、感情が理性を凌駕するのことはないのだ、という結論に達していた。
「別に……わたくしの肌など見ても、誰も劣情など抱きませんわ……」
――杏だった頃。
本当にごくたまにだが、ものすごく勇気を振り絞って杏から夜の営みを誘っていたことを思い出した。
だが言われるのはいつも、「疲れてる」「そんな気分じゃない」「無理」という冷たい言葉だった……
子供が生まれる前は夫のほうから求めてくれていた。
だが、妊娠と同時に杏のほうがその気にはなれなかった。
そして子供が産まれて育児一色になると、性欲が全く無くなった。
それどころか、夫に嫌悪感を抱き、一緒にいることも、触れられることすらも嫌になった。
しかしその不快な気持ちは長く続くことはなく、しばらくするとまた元に戻りホッとしていた。
初めてだらけで慣れない育児。
仕事が忙しく手伝ってくれない夫。
いつまでも片付くことのない家。
片付けても片付けても散らかる部屋。
終わることのない家事。
子供が何かする度に手を止め、目の離せない子を宥めながらいつまでも進まない料理を作る。
心を蝕むものがなんなのかもわからないまま……それでも日々を過ごしていかなければならなかった。
『一日中家にいたのに、何もしてなかったのか?』
泣いている子供をあやしながら、家の状態を見て夫が放った一言に、言葉が出なかった。
まるで自分が何もしていなかったような言い様。
子供の世話をすることに精一杯だった。
オムツを変え、洗濯をし、泣く子供をあやし、その合間にご飯を作る……
自分が休める時間など微塵もない。
子供と自分しかいない、閉鎖された日々。
ただ、ほんの少しでも、労りの言葉をかけてほしかった
そして、溜まりに溜まっていた自分の話を聞いてほしかった――
『杏は甘えすぎだ。俺の仕事先の人はさ、フルで働きながら三人も子供を育てているよ』
それは何を言いたいのだろう……
自分は自分なりに精一杯頑張っていたのに、まだ努力が足りないとでも言っているのだろうか、と。
もう色んなことが限界で、誰かに助けを求めたいのに、一番支えてくれるはずの夫が一番の他人に思えた。
それから杏の心は、次第に暗闇へと落ちていく。
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