【R18】夫と6年間レスだった私が憑依転生したのは、大人向けweb小説の悪役令嬢でした

ウリ坊

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番外編

産後の営み

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「どうした! なんで泣いてるんだ!?」

 知らないうちに涙が溢れていた。
 ノアが驚いたようにミレールの頬に手を伸ばしている。

「あ……申し訳ありません。大したことでは……」
 
 ノアの手が頬に辿り着く前に慌てて涙を拭っていると、ノアはミレールの肩を掴んだ。

「あんたは大抵のことじゃ泣かないだろ? 俺ははっきり言ってくれないとわからないから、ちゃんと話してくれ。何か言いたいことがあるから、ここまで来たんじゃないのか?」

 肩を掴まれたまま真剣な眼差しでみつめられ、ミレールは言葉に詰まる。
 くだらないと思われないか、こんなことを言ってノアに呆れられないか、色々考えてしまう最近の情緒はとても不安定だった。

「ミレールッ」

 強めに名前を呼ばれて話すことを促すノアに、ミレールは胸元を握り締め、俯いて深く息を吐いてから重い口を開いた。

「……わたくしは、ノアの妻です」

「あぁ」

「そして、ミシェルの母です」

「その通りだ」

 ミレールの話に淡々と相槌を打ってくれているノアに視線が合わせられず、伏し目がちに話を続けていく。

「ですが……、一人の女でもあります」

「それはもちろん、そうだろ?」

 不思議そうに返しているノアに、ミレールは話の意図がわかっていないのだと理解した。

「ミレールになる以前のわたくしは、夫と長い間、肌を合わせることもなく……冷え切った関係を続けていました」

「……たしか、あんたが前に話してたな」

 視線を逸らし、胸元のナイトドレスを握っている手が震えていた。

「えぇ。ですから、ノアを信じていないとかではなく、これはわたくしの心の問題で……またそうなるのではないかと、考えてしまうと、怖いのです……」

「なっ! 俺はそんなバカなことはしない!」

 ミレールの話を聞いたノアは、掴んでいた手に力を込めて眉間に皺を寄せて訴えている。

「もちろん、わかってますわ。わかっているのですが……心とは、ままならないものなのです。それがたとえ自分の心でも、です」

 ミレールの話が途切れるとシーンと辺りが静まり返った。
 そして肩を掴んでいたノアが、そのままミレールを腕の中へと抱きしめた。

「それでもしかして、誘いに来てくれたのか?」

「っ」

 耳元で囁かれる言葉にビクッと体が反応した。
 ミレールの僅かな反応を感じてか、背中に回されたノアの腕に力が込められる。

「ごめんなっ、悪かった! 俺ってホント、なさけねぇ……」

 ぎゅうっと腕に締めつけられたあと吐かれた謝罪の言葉に、ミレールは思わず目を見張る。

「え……? いえっ! ノアのことを責めてるわけではっ――」

「わかってるさ。だから余計に情けないって思ってる。あんたに先に言わせたうえに、不安にさせてたなんて……」

 抱きしめていた腕の力が緩み、今度はノアがぽつぽつと話し始めた。

「正直俺も、いつがいいのかタイミングがわからなかったんだ。変に催促してあんたに気を遣わせるのも嫌だったし、無理して合わせるようなこともしてほしくなかったからさ。だから、できるだけ我慢してたんだけどな……」

 そう言うとノアは、盛大なため息を吐いていた。

「ノアも、我慢してたんですの?」

「そりゃあ、まぁな。それなりに……いや、かなり我慢してたけどな。――今もしてる」

 顔を上げたノアは、熱の籠もった瑠璃色の瞳でミレールをジッとみつめている。

「――!」

 ドクンッ、と心臓が大きく跳ねた。
 もう慣れたと思っていたが、それでもノアはミレールが期待する以上の言葉をくれる。
 結婚して子供も生まれれば、こんなふうにときめくことなどないのかと思っていたが、ノアはミレールの悪い予想をいつも良い意味で覆してくれる。

「期待してもいいってことだよな? もし俺の勘違いだったら、結構ショックだけど……」

 間近に聞こえてくるノアの声もどこか自信無さげで、ドキドキしながらミレールは慌てて返事を返す。

「い、いえ! 違わ、ないです。わたくしもノアと、夜を共にしたくて、待ってました」

 素直に言ってしまってから、かぁーっと恥ずかしさが込み上げてきたが、すぐにまたノアが力を込めて抱きしめてくれた。

「本当か! すっげぇ嬉しいっ!!」 

「ノアっ」

 耳元に響くノアの明るい声と腕の力に、ミレールのどんより曇っていた心が一掃され、春の日だまりのように明るく晴れていく。

「なるべく優しくするから……もし嫌だったら、すぐに言ってくれ」

 ノアの腕の中で赤くなりながら、ミレールもノアの熱い体を抱きしめて、ぎゅっと瞳を閉じた。

「はいっ」

 初めての時のように心臓がドキドキしてるのに、嬉しさと安堵に涙も出てきて鼻をすすった。
 抱きしめられた腕の熱さに焦燥を感じ、ノアも同じく自分を求めてくれていたことで不安が一気に吹き飛んだ。 

 前の夫のときとはまるで違う。
 杏の時は、やることなすことすべてを否定されていた。夫に自分の気持ちを言った後に後悔することばかりで、次第に話すことも少なくなり、諦めるようになっていった。

 だがノアの飾らない言葉と態度はミレールの不安をいつも取り除き、ミレールのかたくなだった心をどんどん溶かしてくれる。

 腕が緩むとノアの凛々しい顔が近づいて、ミレールの唇にそっと自分の唇を重ねている。

「んっ」

 以前の燃えるような激しい営みとは違う。
 優しく肌を滑る手つき、労るように体を這う舌の動き、焦れるほどの熱い繋がりに、ミレールの心も身体も徐々に追い詰められ、そしてすべてが満たされていく。
 じっくり身体を溶かされて時間をかけた営みに、満足のいく甘い蜜夜を過ごすことができた。

 素直に自分の気持ちを伝えて、勇気を出して行動できて良かったと、心の底から思える夜だった。
 

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