いたずら妖狐の目付け役 ~京都もふもふあやかし譚

ススキ荻経

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第四章

狸谷山の一大事 6

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「……で、問題は、どうやって本物の狸番を探し出すかだけど、どうする?」
「あっ。そうでした! どうしましょう。闇雲に探すわけにもいかないし……。あまりにも手がかりが少なすぎますよね……」

 続いて喬に尋ねられ、紬は途方に暮れて周囲の森を見回した。

「狸塚さーん! 狸塚みやこさーん! いますかー!? いたら返事してくださーい!」

 ついでに一か八か叫んでみたが、答えが返ってくるはずもない。紬は肩を落として力なくうなだれる。しかし、彼女たちに救いの手が差し伸べられたのはその時であった。

「おお、おぬし! みやこの知り合いか!?」

と、いきなり山の上の方から三匹の妖狸が姿を現し、こちらに向かって転がり落ちるように走り寄ってきたので、紬は驚いて目を丸くする。今度は硬い焼き物の付喪神ではない。もふもふの毛に覆われたまごうことなき動物の怪である。

「き、君たち! 狸塚さんの居場所を知ってるの!?」

 紬がつい声を大きくして尋ねると、妖狸たちはこくこくと頷いた。

「もちろん! わしらは誰かが助けに来てくれるのを待ってたんじゃ!」
「僕らについて来て!」
「こっちだよ! 早く!」

 妖狸たちは口々に言いながら階段を駆け上っていく。ありがたい! 渡りに船とはまさにこのことだ。

「行きましょう!」

 紬はさっそく勢い込んで妖狸の群れの後を追いかけようとする。――が、すぐに、はたと足を止めて喬を振り返った。そういえば、彼の体力はまだ残っているのだろうかと不安になったからだ。

「大丈夫ですか? ついてこられます?」

 紬が気づかって問うと、喬はフンと鼻を鳴らして言った。

「さっきのあからさまにくたびれた態度は演技だ。あんたまで騙されててどうする。それより、あんたは置物の式神に気をつけろ。やつらはこの先で確実に待ち構えているはずだから」
「う……。相変わらず信用ならない人ですね、あなたは……!」

 紬は額を手で叩き、呆れ声を漏らすことしかできなかった。

 ***

 敵の式神の妨害は大した脅威にはならなかったが、紬たちの足を鈍らせるのには十分すぎるほどの効果があった。どこから式神が襲いかかってくるか分からないので、いつも周囲に目を配っておく必要があるし、常に身構えながら進める速さにはどうしても限界がある。

「――捨道は『悲願を達成するためにまだやらねばならない仕事が残っている』って言っていましたけど、いったいなにを企んでいるんですかね?」

 頭上の木の枝から飛び降りてきた置物を霊符の一振りで浄化しながら、紬は並んで歩く喬に向かって疑問を口にした。

「さあな。でも、どうせろくでもないことだろうから、早く下山して止めに行った方がいいのは間違いない」
「それはそうでしょうね……。おっと!」

 紬は足元に飛びかかってきた置物に黄色い炎を放ちつつ答える。そして、再び無言で足を進めながら思考を巡らせた。
 それにしても不気味だ……。私たちをわざわざ狸番の身代わりを使って誘い出し、あらかじめ大量に準備しておいた式神で足止めするなんて……。こんな大掛かりな作戦がただの陽動に過ぎないなら、捨道の真の狙いは想像を絶するほどに恐ろしいものなんじゃないだろうか?

「おい! ボーッとするな! 後ろから来てるぞ!」
「わわっ!?」

 喬の鋭い声に我に返った紬は、振り返りざま霊符を振り抜き、すんでのところで置物の急襲を防いだ。

「はあ……。しっかりしてくれよ。とにかく今は狸番の救出が先決だ。やつの計画についてはそのあと考えるしかない」

 喬が安堵のため息交じりに言う。紬は冷や汗が背筋を伝うのを感じながら頭を下げた。

「すみません。そうですね。まずは目の前のことに集中します」
 
 執拗に進行を妨害されるのはもどかしいが、焦ったところでどうしようもない。紬はいったん不吉な予感を無視し、妖狸についていくことに専念しようと決めた。
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