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三十九
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そうだ生地を作るのに水がいるし、焚き木の火もそうだったけど自分で出せるか試したかった。
シルベスター君の言う通り、今日は疲れたからやめてたほうがいいわね。
ーーだったらと。
「シルベスター君、このお鍋にお水をお願いしてもいい?」
「水? いいよ」
魔法で水を出してもらい、ボールに小麦粉と水を適量混ぜて……あっ。
何か足りないと思ったら卵とバターがない。生地をすくう、おたまもフライ返しも忘れたわ。
自分では落ち着いていると思ったのだけど、けっこう焦っていたのね。
でも、ないのならやり方はいくらでもあるわ。
こうフライパンを振って、生地が中で動いたら手首を動かして。
「よっ」
「おおっ!」
「シルベスター君! 見て、上手くパンケーキの生地が引っくり返ったわ!」
「そうだね。でも、それ美味しいの? 味付けはした?」
味付け? 小麦粉を水で溶いて焼いただけだわ。
調味料も持ってきていない、唯一持ってきた塩を振る?
ーーそうだわ、収納箱の中に入れたず。
「あった、これよ。この苺のジャムをかけて食べればいいのよ」
収納箱の中身を見ていたら、横からシルベスター君が中を覗いた。
「あれっ、パンもあるよ。それも食べればよかったのに……って、あははっ、パン一切れしかないよ?」
「……あ、ほんとうだわ」
「まぁいいや、苺ジャムは僕は好きだから、パンケーキにたっぷりかけて食べる」
パンケーキが焼けた後はお鍋に残った水を温めて、紅茶を入れたてお砂糖の代わりにジャムをスプーン一杯かき混ぜた。
「うーん、苺のジャムの甘みと紅茶が美味しい」
「君は……」
「ちゃんとシルベスター君の分もあるわよ、どうぞ」
「いただくけどさ。便利なアイテムボックス持ってるのに他の食べ物は持って来ず。紅茶セットはしっかり持ってきたんだね」
……ぎくっ。
「解毒草を見つけたら、すぐに戻るつもりだったから……」
「よく見ると動きそうな格好してるけど、軽装備だし、それで格好で山に登るのきだったの?」
「……そうよ山にこれで、の、登るわ!」
シルベスター君たら、さっきから痛いところばかり突いてくるわね。
でも、本当のことばかりで言い返せない。
しっかり準備したつもりで実際はできていなかった。
収納箱を確認したら調理道具は一通りあったのだけど、食べ物は小麦粉と塩、パンも一切れ。
ワンピースはあったのだけど、替えの下着は下ばかり入っていた……わ。
でもね。ボニートのご飯のにんじんは忘れなかったのよ。と、心の中で自分を褒めた。
「あはははっ、君のその顔は忘れ物多そうだ! ……まぁいいや、少し待ってて」
それだけ言うと、シルベスター君は軽快に森をかけて行った。
♢
灯り役のシルベスター君が居なくなって、焚き火の灯りだけになった。
森は静かで話す相手も居らず、することがなくって、ぼーっとゆらゆらと揺れるオレンジ色の炎を眺めていた。
どこかほっとする。
そうか、焚き木の炎は心が安らぎ、リラックスすると聞いたことがあった。
『楽しいか?』
えっ? ……うんうん、楽しいよ。
2人で焚き木の番をしてると、お父さんはいつもそう聞いてきたね。並んで座ってその後は何気ない日常の話をしたわ。
……あのね、お父さん、お母さん。驚かせてしまうだろうけど、私はいま別世界にいるの。
私はお嬢様で王子の婚約者だってがいるの……いま、大変だけど最後までやり切る絶対に。
だから、見ていてね。
「うぉーい、ロレッテ!」
と私の名前を呼んで近くの茂みがガサガサと揺れて、シルベスター君が顔を出した。
「戻ったよ」
「おかえりなさい」
私の近くに座り鼻で何か操作する仕草をして、3センチくらいの薄ピンク色の実を3つ目の前に現した。
「デザート採ってきたよ、食べてみて」
「いただきます」
一つ取り手で拭き、その実をかじった。
口に広がる甘み……これって、見た目と少し硬いけど味は桃だわ。
「美味しい、ありがとうシルベスター君」
「どういたしましてと言いたいけど。君、僕のこと信用しすぎじゃないかな?」
「えっ?」
「それ毒だったらどうするの?」
毒?
にやりと笑いながら物騒なことを言ったシルベスター君。
ーー彼の言うことは本当だわ。
「……でもそれを言うのならシルベスター君もでしょう? 会ったばかりの私が作ったパンケーキを食べたわ」
そう返すとあっと驚いた顔をした。
「そうだった、僕は君が使ったパンケーキしっかり食べてたや!」
「だから、この実は大丈夫なの。はい、ボニート、シルベスター君も一緒に食べましょう?」
一つずつ実を手に取って2人の前に出した。
「君は……さっきもそうやって、自分のパンケーキを僕にくれたくせにお腹空いちゃうよ?」
「あら、平気よ。1人よりも私はみんなと食べたいですわ」
「ぷっ、ロレッテお嬢様わかりましたよーねぇ、ボニート」
ヒヒィーーン。
♢
「美味しかった」
「どういたしまして……そうだ、寝る前に話を聞かせてあげる」
「話し?」
「そう、君は王子の婚約者だと言ったね。それでね思い出した昔話があるんだ。題名は『癇癪王子と癒しの姫』聞きたい?」
「癇癪王子と癒しの姫? えぇ、聞きたいわ」
そうお願いすると、こほんと咳をして。
「わかった、ある国の王族は女神の思し召しか精霊の悪戯で大昔から魔力待ちで生まれてきました。そのことは口外無用。何故なら魔力待ちは狙われやすく、戦争の火種となるからです」
私は何処かの国の昔話をする、シルベスター君の話に聞き入った。
シルベスター君の言う通り、今日は疲れたからやめてたほうがいいわね。
ーーだったらと。
「シルベスター君、このお鍋にお水をお願いしてもいい?」
「水? いいよ」
魔法で水を出してもらい、ボールに小麦粉と水を適量混ぜて……あっ。
何か足りないと思ったら卵とバターがない。生地をすくう、おたまもフライ返しも忘れたわ。
自分では落ち着いていると思ったのだけど、けっこう焦っていたのね。
でも、ないのならやり方はいくらでもあるわ。
こうフライパンを振って、生地が中で動いたら手首を動かして。
「よっ」
「おおっ!」
「シルベスター君! 見て、上手くパンケーキの生地が引っくり返ったわ!」
「そうだね。でも、それ美味しいの? 味付けはした?」
味付け? 小麦粉を水で溶いて焼いただけだわ。
調味料も持ってきていない、唯一持ってきた塩を振る?
ーーそうだわ、収納箱の中に入れたず。
「あった、これよ。この苺のジャムをかけて食べればいいのよ」
収納箱の中身を見ていたら、横からシルベスター君が中を覗いた。
「あれっ、パンもあるよ。それも食べればよかったのに……って、あははっ、パン一切れしかないよ?」
「……あ、ほんとうだわ」
「まぁいいや、苺ジャムは僕は好きだから、パンケーキにたっぷりかけて食べる」
パンケーキが焼けた後はお鍋に残った水を温めて、紅茶を入れたてお砂糖の代わりにジャムをスプーン一杯かき混ぜた。
「うーん、苺のジャムの甘みと紅茶が美味しい」
「君は……」
「ちゃんとシルベスター君の分もあるわよ、どうぞ」
「いただくけどさ。便利なアイテムボックス持ってるのに他の食べ物は持って来ず。紅茶セットはしっかり持ってきたんだね」
……ぎくっ。
「解毒草を見つけたら、すぐに戻るつもりだったから……」
「よく見ると動きそうな格好してるけど、軽装備だし、それで格好で山に登るのきだったの?」
「……そうよ山にこれで、の、登るわ!」
シルベスター君たら、さっきから痛いところばかり突いてくるわね。
でも、本当のことばかりで言い返せない。
しっかり準備したつもりで実際はできていなかった。
収納箱を確認したら調理道具は一通りあったのだけど、食べ物は小麦粉と塩、パンも一切れ。
ワンピースはあったのだけど、替えの下着は下ばかり入っていた……わ。
でもね。ボニートのご飯のにんじんは忘れなかったのよ。と、心の中で自分を褒めた。
「あはははっ、君のその顔は忘れ物多そうだ! ……まぁいいや、少し待ってて」
それだけ言うと、シルベスター君は軽快に森をかけて行った。
♢
灯り役のシルベスター君が居なくなって、焚き火の灯りだけになった。
森は静かで話す相手も居らず、することがなくって、ぼーっとゆらゆらと揺れるオレンジ色の炎を眺めていた。
どこかほっとする。
そうか、焚き木の炎は心が安らぎ、リラックスすると聞いたことがあった。
『楽しいか?』
えっ? ……うんうん、楽しいよ。
2人で焚き木の番をしてると、お父さんはいつもそう聞いてきたね。並んで座ってその後は何気ない日常の話をしたわ。
……あのね、お父さん、お母さん。驚かせてしまうだろうけど、私はいま別世界にいるの。
私はお嬢様で王子の婚約者だってがいるの……いま、大変だけど最後までやり切る絶対に。
だから、見ていてね。
「うぉーい、ロレッテ!」
と私の名前を呼んで近くの茂みがガサガサと揺れて、シルベスター君が顔を出した。
「戻ったよ」
「おかえりなさい」
私の近くに座り鼻で何か操作する仕草をして、3センチくらいの薄ピンク色の実を3つ目の前に現した。
「デザート採ってきたよ、食べてみて」
「いただきます」
一つ取り手で拭き、その実をかじった。
口に広がる甘み……これって、見た目と少し硬いけど味は桃だわ。
「美味しい、ありがとうシルベスター君」
「どういたしましてと言いたいけど。君、僕のこと信用しすぎじゃないかな?」
「えっ?」
「それ毒だったらどうするの?」
毒?
にやりと笑いながら物騒なことを言ったシルベスター君。
ーー彼の言うことは本当だわ。
「……でもそれを言うのならシルベスター君もでしょう? 会ったばかりの私が作ったパンケーキを食べたわ」
そう返すとあっと驚いた顔をした。
「そうだった、僕は君が使ったパンケーキしっかり食べてたや!」
「だから、この実は大丈夫なの。はい、ボニート、シルベスター君も一緒に食べましょう?」
一つずつ実を手に取って2人の前に出した。
「君は……さっきもそうやって、自分のパンケーキを僕にくれたくせにお腹空いちゃうよ?」
「あら、平気よ。1人よりも私はみんなと食べたいですわ」
「ぷっ、ロレッテお嬢様わかりましたよーねぇ、ボニート」
ヒヒィーーン。
♢
「美味しかった」
「どういたしまして……そうだ、寝る前に話を聞かせてあげる」
「話し?」
「そう、君は王子の婚約者だと言ったね。それでね思い出した昔話があるんだ。題名は『癇癪王子と癒しの姫』聞きたい?」
「癇癪王子と癒しの姫? えぇ、聞きたいわ」
そうお願いすると、こほんと咳をして。
「わかった、ある国の王族は女神の思し召しか精霊の悪戯で大昔から魔力待ちで生まれてきました。そのことは口外無用。何故なら魔力待ちは狙われやすく、戦争の火種となるからです」
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