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 王都にあるコローレ学園に入学して三ヶ月達つ頃、とある噂が待ちました。

 最近。婚約者のオルフレット殿下と仲が良い、男爵令嬢メアリスさんを影で私がいじめていると……

 またある日、彼女を階段から落とそうとしていたなど、身に覚えがないことを言われ始めたのです。

 私が「その様なことはしていない」と伝えても、誰にも信じてはもらえない。

 いつしか、悪役令嬢だと呼ばれるようになっておりました。




 *




 ズキッとあたまに走る痛みで目を覚ますと、私は自分の寝室で寝ていた。
 なぜ、ベッドに寝ているのか訳が分からず、そばにあった"呼び鈴"を鳴らすと。

 すぐに、こちらに近付く足音と大きな音たて開く扉。
 私の名前を呼びながら、お父様とお母様が寝室にはいってきた。

「そんなに慌ててどうなさったの、お父様、お母様?」

「ロレッテ……痛いところはないか?」
「ロレッテ、痛いところはない?」


「……え?」


 痛い所? と、お父様、お母様に聞かれて急に頭部が痛みはじめた。


「なぜか、後頭部が痛いわ?」


 それと同時に、辛くて悲しく、胸にぽっかり穴が空いた様な感じもした。


 ーーなにかしらこの気持ち。


「後頭部が痛いか……倒れたときに頭をうったからだな」

 私が倒れた?

「お父様、いま倒れたといいましたが、私はどうして倒れたのですか?」

「どうしてって、ロレッテは覚えていないのか……? 学園の庭園で倒れたのだよ」

「私が、学園の庭園で倒れた?」


 どうして? 


 今日のお昼。婚約者のオルフレット様に用事があると言われて、一人で過ごしていた。

 本を借りていたことを思い出して、書庫へと向かう途中。
 二人が抱き合っている場面を庭園でみてしまって、倒れてしまったのね。


 

 それから二週間。
 倒れ方が悪く後頭部を打っていたので、大事をとって学園を休んでいた。

 その間も殿下は執務の合間に花束やお見舞いに来ていただいたのですが。
 気分が悪いからと、彼にはお会いしなかった。

『殿下にお好きな人ができたのでしたら、私と婚約破棄をしてください』と。
 お父様からオルフレットに伝えてもらったのですが、承諾してもらえません。


(どうして、でしょう?)



 それからオルフレットとは極力お会いせず、学園生活を過ごしておりました。

 それから、また、ひと月後が経ち。
 嫌われ者の私は昼休みをひとり、書庫で過ごす事が多くなっていた。

 この日も昼食後に書庫に向かっていると。
 反対側からお会いしたくなかった、オルフレットの姿が見えた。

(あら、珍しくメアリスさんと一緒じゃないのね)

 私には関係ないと。
 頭を下げて通り過ぎようとしたのに、彼は私に声をかけてきた。

「やぁ、久しぶり……ロレッテ嬢、体はもういいのかい?」

 王子のオルフレットから声をかけられて、無視することは許されない。

「ごきげんよう、オルフレット殿下。もう、平気ですわ」

「それならよかった。何かあったら遠慮なくもうしてくれ」
「けっこうです。私のことはご心配なく」

 礼と挨拶だけして足早にすり抜け、お互いに背と背を向けたとき背後から声が聞こえた。


〈ロレッテは俺のことを殿下呼びしかしてくれなかなった……あれは事故で、メアリス嬢が転びそうな所を助けたと言っても、ロレッテは聞く耳を持たない……わかっている。君が倒れるほどのショックをあたえた。しかし、謝ることも、償いもさせてもらえず『殿下、ご心配なく』と言われてしまう〉


(こ、これは、なに?)


 この声はオルフレット殿下の声なのだけど……どこか、違う感じがした。

〈俺のせいではあるが、確実に倒れてから冷たくなった……ロレッテ、俺は〉
 
 オルフレットの『俺は……』の続きが気になり、つい振り向いてしまった。


 あっ。


〈……ロレッテ?〉


 また殿下の声が聞こえた。
 私はおかしな違和感に気が付いた。

 確かにオルフレットの声は私に聞こえているのだけど。
 当の本人は喋っている様子がなく、口元はひとつも動いない。

 ただ、切なげに私を見つめているだけ。


(これは一体どういうこと?)


 じっとオルフレット様を観察した。
 彼もまた私が足を止め、見つめていることを不思議に思ったのだろう。

 ーーまた、あの声が聞こえた。

〈な、なんだロレッテ? そんなに俺を見つめてどうした? 君にそんなに見つめられては……照れてしまうよ〉

(私に見られて照れる?)

 それに驚き、オルフレット殿下の顔を更に見てしまい。

 彼と瞳が、かち合う。


〈ロレッテ?〉


(どういう訳か分からないけど、倒れてからなのか? 彼の心の声が私に聞こえているみたい)

 
 
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