野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ

文字の大きさ
上 下
66 / 171
第一章

63話

しおりを挟む
 鬼人の2人が雲に乗って、魔法都市まで帰っていく姿を見送っていると、頭の上のサタ様がポツリと話す。

「うむ。あれは妖力というやつかな? 鬼人はワタシ達とは違う力を使うと聞いたことがある。それにあの男、相当腕が立つな」

「ええ、とてもお強いです。それに面白い術をお使いになる」
 
「うむ、あれは面白い術だな。奴に、もう一度会って話しを聞きたい。できれば手合わせも願いたいな」
 
「はい、僕もです」

 アールも興味を持ったのかと、2人は楽しげにさっきの鬼人さんたちの話していた、そんなサタ様が私の方を向いた。

「なあ、エルバ、冒険者ギルドの登録用の金より、王都に入る硬貨を借りればよかったのではないか?」

「私もはじめはそう思ったけど……お団子一本100アークだったんだ。もしさ、今日売りに来た団子の本数がもし100本だとしたら全部売ったとしても、合計金額が10000の金貨一枚か銀貨10枚アークで、彼らが家族にお土産を買っていたらとか、色々考えちゃって5000アーク銀貨にしたの」

「……そうか」
「……そうでしたか」

 まあ、彼らがそれ以上持っていたとしても……5000銀貨しか借りなかったかも。サタ様が飼ってきた素材の値段も知りたいし、冒険者ギルドに登録とかに憧れる。

 小説のように水晶に触ったり、針で指先をチクッとして血で測るとか……『お前、曲者だな』とか言われて、ギルドマスターと戦ったりしちゃったりして。

「何はともあれ硬貨を借りれた。エルバ、冒険者ギルドに登録しに向かうか……いや、その前にアールは確認のためワタシに着いてきてくれ、エルバはここで待っていろ」
 
「かしこまりました、サタ様」

 頭の上にいたサタ様がアール君を連れて、パタパタ羽を動かし、近くの大木の後ろに消えていった。サタ様が何をするのかはわからないけど。

(お、これは新しい薬草?)

 博士、この紫の薬草なんていうの。
 ワタシの足元にピョコッと、生えている薬草を聞いた。

《その草はキランという薬草です》

 効能はなに?

《全草を採取し、水洗い、天日干してすり潰します。すり潰した粉薬は解熱薬になります。また、葉を揉み潰し、すり傷に塗りますと、化膿どめにもなります》

 粉薬にすれば解熱剤、葉っぱは化膿止めか。
 キランのタネを頂戴。

 お、あっちの薬草は? と、目についた薬草を博士に聞こうとして気付く……楽しいことは魔犬ヌヌを助けてからと決めていた。だけど、朝市で出会った、おばちゃんにもらった野菜は博士に聞いちゃって、タネを植えている。
 
 これ以上は、今は我慢。

 だけど……この原っぱに咲く青い花以外にも、私の知らないたくさんの薬草が眠っているはず……ウズウズする。

 あ――ダメダメ、我慢、が、がまん……我慢ならぬ!
 次、あの薬草だ、と、行こうとした私の頭を、誰かがガシッと鷲掴みした。

「…………ぎゃっ!」

「クク、エルバ、楽しんでいるところ悪いが、今は後にしてほしい」

「ご、ごめんなさい…………って、誰?」
「ワタシだが?」
 
 鷲掴みの手を離され、振り向くと私の近くに長身、短い黒髪、赤い瞳の若いイケメンとアール君がいた。
 
「え、ええ――もしかして、サタ様??」

「そうだ、サタナスだ。エルバよりワタシの方が何かとギルドに詳しい、それで人に化けてみたがどうだ?」
 
「ツノと羽がないし、シュノーク古城で会った時より若い……」
 
「完璧です、素敵です、サタ様。魔力も人並みに抑えられていますし、見た目もエルバ様とさほどおかわりない。これなら、エルバ様のお兄様としていけます」

「……エルバの兄か、それはいいな。おい、何を呆けておる? 冒険者ギルドに登録して素材を売るぞ」

「う、うん」

 サタ様が麗しい美形から、イケメン青年になっていた。
 その見た目が、多くの女性を惹きつけそうだけど、大丈夫かな……なんだか心配だ。

 

 原っぱからマサンの街に戻り、私達は冒険者ギルドに向かった。ギルドにはいるや否(いな)や、イケメンサタ様は冒険者の女性の目を釘付けにした。

「すみません、冒険者になりたいなのですが?」

 程よい低音の声に受付嬢を始め、女性陣はうっとり。
 男性冒険者からは睨まれている……しかし、当の本人はさっさと見向きもせず冒険者登録していた。

 そんな、サタ様の隣にいる私に。

「ねえ、あの子……だよね」
「そうだね」
「うらやましい」

 アール君は魔法で姿を消しているけど、サタ様と一緒についてきた私はギルド内で『誰あの子?』『あの人のパーティー?』『使えなさそう』『まさか、あの人の恋人?』『あんな子が? 似合わない』と、ヒソヒソ話す声が聞こえていた。

(イケメン青年のサタ様だもの、みんな気になるよね)

 それにしても、ギルドにいる女性冒険者って綺麗な人が多い。美丈夫な騎士、胸が大きくスタイルがいい魔法使い、可愛い武道館、ほとんどの女性がサタ様をみているけど、彼はまったく気にしていない様子。
 
 私は足元にいる、アール君にコッソリ話しかけた。

(「ねえ、アール君、サタ様って周りの女性の反応に気付いてる?」)

 アール君は首を横に振り。
 
(「エルバ様、サタ様はあの様に昔から魔族、人族、亜人族に昔からオモテになられるのですが、本人にはまるっきし気付いておられません」)

(「やっぱり、そうなんだ」)

 ――うん、そんな気がしてた。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく

霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。 だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。 どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。 でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!

異世界転生したのだけれど。〜チート隠して、目指せ! のんびり冒険者 (仮)

ひなた
ファンタジー
…どうやら私、神様のミスで死んだようです。 流行りの異世界転生?と内心(神様にモロバレしてたけど)わくわくしてたら案の定! 剣と魔法のファンタジー世界に転生することに。 せっかくだからと魔力多めにもらったら、多すぎた!? オマケに最後の最後にまたもや神様がミス! 世界で自分しかいない特殊個体の猫獣人に なっちゃって!? 規格外すぎて親に捨てられ早2年経ちました。 ……路上生活、そろそろやめたいと思います。 異世界転生わくわくしてたけど ちょっとだけ神様恨みそう。 脱路上生活!がしたかっただけなのに なんで無双してるんだ私???

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

異世界に召喚されたけど間違いだからって棄てられました

ピコっぴ
ファンタジー
【異世界に召喚されましたが、間違いだったようです】 ノベルアッププラス小説大賞一次選考通過作品です ※自筆挿絵要注意⭐ 表紙はhake様に頂いたファンアートです (Twitter)https://mobile.twitter.com/hake_choco 異世界召喚などというファンタジーな経験しました。 でも、間違いだったようです。 それならさっさと帰してくれればいいのに、聖女じゃないから神殿に置いておけないって放り出されました。 誘拐同然に呼びつけておいてなんて言いぐさなの!? あまりのひどい仕打ち! 私はどうしたらいいの……!?

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

器用貧乏の意味を異世界人は知らないようで、家を追い出されちゃいました。

武雅
ファンタジー
この世界では8歳になると教会で女神からギフトを授かる。 人口約1000人程の田舎の村、そこでそこそこ裕福な家の3男として生まれたファインは8歳の誕生に教会でギフトを授かるも、授かったギフトは【器用貧乏】 前例の無いギフトに困惑する司祭や両親は貧乏と言う言葉が入っていることから、将来貧乏になったり、周りも貧乏にすると思い込み成人とみなされる15歳になったら家を、村を出て行くようファインに伝える。 そんな時、前世では本間勝彦と名乗り、上司と飲み入った帰り、駅の階段で足を滑らし転げ落ちて死亡した記憶がよみがえる。 そして15歳まであと7年、異世界で生きていくために冒険者となると決め、修行を続けやがて冒険者になる為村を出る。 様々な人と出会い、冒険し、転生した世界を器用貧乏なのに器用貧乏にならない様生きていく。 村を出て冒険者となったその先は…。 ※しばらくの間(2021年6月末頃まで)毎日投稿いたします。 よろしくお願いいたします。

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

処理中です...