上 下
42 / 171
第一章

39話

しおりを挟む
 どこかで魔物を狩ってきたサタナス様は、明かり魔法(ライト)の下にいた私を見て笑った。

「お前ら、ワタシがいない間につまみ食いはいいが、エルバの唇が真っ暗に染まっているぞ」

 サタナス様に言われて、マジックバッグから手鏡を取り出して確認する。
 隣のアール君は黒猫だから染まっていても見えない……だけど、私の唇はブラックベリリー色に染まっていた。

「真っ黒だ、ブラックベリリーが美味しくて気づかなかった……(フフ、サタナス様も同じ目にあわそう)甘酸っぱくて美味しいですよ、食べますか?」

「ほう、ブラックベリリーという果物か」

 サタナス様にシェラーカップに採ったブラックベリリーを進めた。彼は嫌がらず一粒取り優雅に食べ、私の真っ暗な唇を見てまた大笑いした。

「クク、これは美味いな。フフ、先程エルバの作ったもち鳥の雑炊も美味かったが、魔力が回復してひさびさに狩りと美味い肉が食べたくなった」

 散歩の途中に見つけた、もち鳥、オオトカゲ、ビッグベア、飛竜ワイバーンを狩って、血抜きしてアイテムボックスに入れてきたと言う。それら全ての魔物たちが入ってしまう、サタナス様のアイテムボックスの容量に驚くしかない。

「ブラックベリリーは後で食べる。さて、肉を焼くか」

 私の魂胆(こんたん)は見透かれ、サタナス様は狩ってきたオオトカゲをアイテムボックスから取り出し、ナイフで器用に捌きはじめた。私のナイフがいいのもあるけど、サタナス様は手際がよくオオトカゲの肉をさばき、お肉、皮と牙、骨になっていく。

 食べられない内臓類は火の魔法で燃やしていた。
 手際の良い、サタナス様の手元を見つめる私に。

「エルバ、このオオトカゲの皮と牙、骨は素材として人の世で高く売れるぞ。捌いたオオトカゲの肉は少し硬めだが、噛めば噛むほど味がでる」

 凄い、サタナス様は人の里にいる魔物の場所も熟知していて、やけに魔物の素材にも詳しい。

「不思議ですか、エルバ様? サタナス様はひととき、人々の食事、生活を知るために人の世で冒険者をしていた時があります。僕もよくお供をして魔物と戦いました」

「ええ、サタナス様とアール君が冒険者? 魔物と戦った?」

「うむ。勇者が住む人の世を知りたくなった。暮らしてみて分かったが、ワタシ――魔王は存在するだけで害になるらしい」

 ――魔王様がいるだけで害?

「ほんと、おかしいです。僕たち魔族も人と同じように畑を作り、食物を育ている。まあ、人とは食べるものはちがうかもそれませんが……暮らしはさほど変わらないのに、人は僕達を害とみなします」

 魔族は人にとって害か……ツノ、翼、尻尾など人には無いものを持つからかな? ママも言っていた……私達魔女、魔法使いも異なる珍しい魔法を使うから、人に見つかると捕まり、ひどい目に遭うと。

 そんなの変だと思う。

 何もしていないのに、存在するだけで嫌われてしまうなんて。――前世の私もそうだった、知らないうちに両親、妹、妹の周りの人達に嫌われていた――悲しいより、寂しかったかな。

 今はパパ、ママ、サタナス様、アール君がいて幸せ過ぎる。

 

 私は、ふと思ったことをサタナス様に聞いた。

「あの、一つ質問なんですが。サタナス様が狩ってきた魔物と魔族は違うのですか?」
 
 ファンタジーゲームだと大体、両方敵だったような気がする。私は魔族と魔物の違いが、よく分からなかったのだ。

「魔族と魔物の違いか……魔族は魔物と違い理性と知性があるため、むやみやたらに人族に襲い掛かることはないし、主に人型をしていて魔族語、人語などの言葉を話す。中には人型をしていない魔族もいるがな。――そして魔物の中には念話なので会話できるものもいるが、殆ど会話ができないものが多く、魔物の多くは人に害をなす。凶暴化しなければ大人しい魔物もいるぞ」

「サタナス様、教えてくれてありがとうございます」
 
「うむ、年の功だ。わからないことがあれば聞くと良い」

 フムフム魔族は知能が高く人を襲わない。
 魔物の多くは人に害をなすのか。

「あと、魔族でも襲ってきたものは誰とで容赦なく、叩きつぶす」

「ええ、不届きものは全力で叩きのめします」

 と、拳を握る2人にウンウン頷いた。

 ――戦わないと、やられてしまうもの。
 
   


 
 

 肉をさばき終えて、私は神様仕様のおひとり様パーツを丸ごと収納して持ち運べちゃう、トランク型の卓上コンロを取り出して、キャンプテーブルの上にひらいた。

「コンロのへこんだ所に火だねを入れて、この網の上でお肉を焼くんだよ」

「小さくて、可愛いコンロですね」

「そうでしょう、一目惚れして買っちゃったの。あと硬いお肉なら、筋切りをしてシュワシュワ(炭酸水)に15分から30分漬け込むと柔らかくなるから」

 これはキャンプ雑誌に載っていたやり方。試しに安いお肉でやってみたら、本当にお肉が柔らかくなったのだ。
 私はシュワシュワ入りの水筒と、大きめの鍋をとりだして、一口に切ったオオトカゲの肉をシュワシュワに浸した。

 それに興味を持ったのか、サタナス様とアール君はオオトカゲのお肉を、シュワシュワに浸した鍋を覗き込み。

「ワタシの知らない、面白い調理法だな……どれどれ、やってみるか」

「はい、是非やってみましょう」

 と言い。

 2人は食べやすく切ったオオトカゲのお肉を、シュワシュワに漬けはじめた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく

霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。 だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。 どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。 でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!

器用貧乏の意味を異世界人は知らないようで、家を追い出されちゃいました。

武雅
ファンタジー
この世界では8歳になると教会で女神からギフトを授かる。 人口約1000人程の田舎の村、そこでそこそこ裕福な家の3男として生まれたファインは8歳の誕生に教会でギフトを授かるも、授かったギフトは【器用貧乏】 前例の無いギフトに困惑する司祭や両親は貧乏と言う言葉が入っていることから、将来貧乏になったり、周りも貧乏にすると思い込み成人とみなされる15歳になったら家を、村を出て行くようファインに伝える。 そんな時、前世では本間勝彦と名乗り、上司と飲み入った帰り、駅の階段で足を滑らし転げ落ちて死亡した記憶がよみがえる。 そして15歳まであと7年、異世界で生きていくために冒険者となると決め、修行を続けやがて冒険者になる為村を出る。 様々な人と出会い、冒険し、転生した世界を器用貧乏なのに器用貧乏にならない様生きていく。 村を出て冒険者となったその先は…。 ※しばらくの間(2021年6月末頃まで)毎日投稿いたします。 よろしくお願いいたします。

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

空間魔法って実は凄いんです

真理亜
ファンタジー
伯爵令嬢のカリナは10歳の誕生日に実の父親から勘当される。後継者には浮気相手の継母の娘ダリヤが指名された。そして家に置いて欲しければ使用人として働けと言われ、屋根裏部屋に押し込まれた。普通のご令嬢ならここで絶望に打ちひしがれるところだが、カリナは違った。「その言葉を待ってました!」実の母マリナから託された伯爵家の財産。その金庫の鍵はカリナの身に不幸が訪れた時。まさに今がその瞬間。虐待される前にスタコラサッサと逃げ出します。あとは野となれ山となれ。空間魔法を駆使して冒険者として生きていくので何も問題ありません。婚約者のイアンのことだけが気掛かりだけど、私の事は死んだ者と思って忘れて下さい。しばらくは恋愛してる暇なんかないと思ってたら、成り行きで隣国の王子様を助けちゃったら、なぜか懐かれました。しかも元婚約者のイアンがまだ私の事を探してるって? いやこれどーなっちゃうの!?

異世界に来ちゃったよ!?

いがむり
ファンタジー
235番……それが彼女の名前。記憶喪失の17歳で沢山の子どもたちと共にファクトリーと呼ばれるところで楽しく暮らしていた。 しかし、現在森の中。 「とにきゃく、こころこぉ?」 から始まる異世界ストーリー 。 主人公は可愛いです! もふもふだってあります!! 語彙力は………………無いかもしれない…。 とにかく、異世界ファンタジー開幕です! ※不定期投稿です…本当に。 ※誤字・脱字があればお知らせ下さい (※印は鬱表現ありです)

異世界に転生したら狼に拾われました。

チャン
ファンタジー
普通の会社員だった大神次郎(おおがみじろう)は、事故に遭い気付いたら異世界に転生していた。転生して早々に死にかけたところを狼に救われ、そのまま狼と暮らすことに。狼からこの世界のことを学ぶが、学んだ知識は異世界では非常識なことばかりだった。 ご指摘、感想があればよろしくお願いします。

おいでませ異世界!アラフォーのオッサンが異世界の主神の気まぐれで異世界へ。

ゴンべえ
ファンタジー
独身生活を謳歌していた井手口孝介は異世界の主神リュシーファの出来心で個人的に恥ずかしい死を遂げた。 全面的な非を認めて謝罪するリュシーファによって異世界転生したエルロンド(井手口孝介)は伯爵家の五男として生まれ変わる。 もちろん負い目を感じるリュシーファに様々な要求を通した上で。 貴族に転生した井手口孝介はエルロンドとして新たな人生を歩み、現代の知識を用いて異世界に様々な改革をもたらす!かもしれない。 思いつきで適当に書いてます。 不定期更新です。

処理中です...