31 / 166
第一章
28話
しおりを挟む
「《何百年ぶりだろか? ……ワタシの語りに反応した人に出会うのは――しかし、ここにいては危ないぞ》」
「危ない? やはり、お化けが出るのぉ?」
飛び上がり、嫌がるアール君に引っ付く。
「《いや、お化けは普通におるが、元の住み主達だからさほど怖くない。怖いのはここに住む娘――アマリアという女だ》」
アマリア? それって、小説のヒロインの名前だ。
ここシュノーク古城に住むアマリアを知っている……いま、頭に語り掛けてくる男性って、もしかして魔王サタナス様? そうだとすると、サタナス様はヒロインが怖い……
(ヒロインに恋に落ちるのはわかるけど……なぜ?)
「どうして、怖いのですか」
「《なぜ、ワタシが怖いか聞きたいか? よし話してやろう……あれは初めてアマリアとおうた日。アヤツ、ワタシの姿が見えて名前をフルネームで呼んだのだ。サタナス・ロザリオン3世と、魔王様と……昔は、人の世界にもワタシの名前を知っている者もいたが、表舞台から消えて何百年と経っている。もう、ワタシと名前を知るものは魔族以外におるまい》」
時がたち、魔族しか知らない名前を、初めての人が知っていたら……。
「怖いかも……絶対に怖い」
「《そうであろう……それで、お前たちはアマリアに会いに来たのか?》」
私が首を振る横で、アール君がこたえた。
「いいえ、僕達がここへ来た理由は魔王サタナス様に用があるからです。魔王様はいま、どこにいらっしゃるのですか?」
「《ほう、ワタシが……魔王がここにいると知っていて来たのか。して、なんのようだ?》」
いきなり来た私たちが魔王の居場所をなぜ、知っていると。
魔王様、変だと思ったかも。と、私が慌てる横で、アール君は淡々と話を進めた。
「いま、ここで僕達の願いを言うのは失礼になります。エルバ様、大切な願いです、魔王サタナス様の前でじかに願い事を伝えたいです」
「え? 会いに行くの?」
「はい」
なんでだろう? 魔王様も怖いけど。
いまのアール君に『はい』としか言えない、そんな彼の気迫を感じた。
「わかった、もう少し……日が暮れてから会いに行こう。魔王サタナス様はシュノーク古城のどの部分にいますか?」
「《ワタシはお前達が今いる、真上の塔の最上階にいる》」
「この塔の最上階。わかりました……では、のちほどお会いいたしましょう」
と、魔王様との話は一旦終わった。
私とアール君は日が暮れるまで、ここで休むことにした。
「アール君、お腹空いたね。夕飯を軽く食べちゃう?」
「いいですね……しかし、夕飯の材料は持ってきていないはず。いまから村に買い出しに行くのですか?」
私はアール君に首を振る。
「ううん、道具は私のアイテムボックスに入っているし、食べ物はキリ草をだした"エルバの畑"から収穫するから」
「エルバの畑で収穫ですか……(ボソッ。エルバ様はやはり面白いスキルをお持ちだ。それにアイテムボックス、マジックバッグといい、次から次へと楽しいことが起きますね)」
「ん、何か言った?」
「いいえ」
私は併用しているマジックバッグではなく、アイテムボックスを直に開いた。この中には前世、私の愛用していたキャンプ道具が入っているのだ。
まずは休憩するために愛用していたカーキ色のテントを取り出すと。ひとり用のテントがアイテムボックスの中から"ポン"と、目の前に原型のままでてくる。
「わっ、テントがそのままの形で出てきた? 面倒な組み立てがいらなくて、後はペグを打てばいいのかな?」
不思議に思いながら、アイテムボックスからペグとペグハンマーを取り出した。その横で、はじめてテントを見たであろうアール君は、2本の尻尾を小刻みにすらしながらテントの周りをまわり。
「エルバ様。なんとも可愛い家ですね。この中で休むのですか?」
と、興味津々だ。
「そうだよ。いま、ペグを打って動かないよう、テントを固定するから待っていて」
これまた愛用のペグ、ペグハンマーでテントを固定する、のだけど。硬そうな地面にハンマーひと振りでペグが簡単に入っていく。
「……え?」
いつもなら大変な作業なんだけど。と、思いながらテントを固定して。
なかに引くキャンプマットとラグを、アイテムボックスから取り出してテントの中に引いた。
「アール君、準備終わったよ」
待っていたアール君に入り口を開けて『どうぞ』と言うと、彼は2本の尻尾を立て、ウキウキした足取りでテントのなかに入っていった。
(フフ、アール君、楽しそうね)
「さてと、私は夕飯の支度でもしようかな」
袖をまくり、テントの外にテーブル、ポケットコンロ、調理器具をアイテムボックスから取り出した。
それらの前でいまから何を作る? とメニューを考える。
うーん。小腹がすいたからメスティンで、コメを1合炊いて塩おにぎり。さっき見つけたトマトマ、キャベンツ、レタススの塩もみサラダ……エダマメマメの塩茹で。
(あとはレンモンを浮かべた、シュワシュワかな)
水魔法で手を洗い、エルバの畑をひらきコメ草を収穫して袋の中で振る。もちろん収穫終えた茎は、アイテムボックスに入れて持って帰る。
次にメスティンを出して……と、夕飯の準備中にアール君がテントから何かを咥えて飛び出てきた。
「ア、アール君、どうしたの?」
そう聞くと、彼は少し震えた声で。
「エ、エ、エルバ様、テントに入った途端……真っ白な空間が目の前に広がり……その先に見知らぬ緑色をした鉄製の扉が現れ、入口にこんな物が落ちていました」
と、達筆な文字で"エルバ様"と書かれた、手紙を私に渡した。
「危ない? やはり、お化けが出るのぉ?」
飛び上がり、嫌がるアール君に引っ付く。
「《いや、お化けは普通におるが、元の住み主達だからさほど怖くない。怖いのはここに住む娘――アマリアという女だ》」
アマリア? それって、小説のヒロインの名前だ。
ここシュノーク古城に住むアマリアを知っている……いま、頭に語り掛けてくる男性って、もしかして魔王サタナス様? そうだとすると、サタナス様はヒロインが怖い……
(ヒロインに恋に落ちるのはわかるけど……なぜ?)
「どうして、怖いのですか」
「《なぜ、ワタシが怖いか聞きたいか? よし話してやろう……あれは初めてアマリアとおうた日。アヤツ、ワタシの姿が見えて名前をフルネームで呼んだのだ。サタナス・ロザリオン3世と、魔王様と……昔は、人の世界にもワタシの名前を知っている者もいたが、表舞台から消えて何百年と経っている。もう、ワタシと名前を知るものは魔族以外におるまい》」
時がたち、魔族しか知らない名前を、初めての人が知っていたら……。
「怖いかも……絶対に怖い」
「《そうであろう……それで、お前たちはアマリアに会いに来たのか?》」
私が首を振る横で、アール君がこたえた。
「いいえ、僕達がここへ来た理由は魔王サタナス様に用があるからです。魔王様はいま、どこにいらっしゃるのですか?」
「《ほう、ワタシが……魔王がここにいると知っていて来たのか。して、なんのようだ?》」
いきなり来た私たちが魔王の居場所をなぜ、知っていると。
魔王様、変だと思ったかも。と、私が慌てる横で、アール君は淡々と話を進めた。
「いま、ここで僕達の願いを言うのは失礼になります。エルバ様、大切な願いです、魔王サタナス様の前でじかに願い事を伝えたいです」
「え? 会いに行くの?」
「はい」
なんでだろう? 魔王様も怖いけど。
いまのアール君に『はい』としか言えない、そんな彼の気迫を感じた。
「わかった、もう少し……日が暮れてから会いに行こう。魔王サタナス様はシュノーク古城のどの部分にいますか?」
「《ワタシはお前達が今いる、真上の塔の最上階にいる》」
「この塔の最上階。わかりました……では、のちほどお会いいたしましょう」
と、魔王様との話は一旦終わった。
私とアール君は日が暮れるまで、ここで休むことにした。
「アール君、お腹空いたね。夕飯を軽く食べちゃう?」
「いいですね……しかし、夕飯の材料は持ってきていないはず。いまから村に買い出しに行くのですか?」
私はアール君に首を振る。
「ううん、道具は私のアイテムボックスに入っているし、食べ物はキリ草をだした"エルバの畑"から収穫するから」
「エルバの畑で収穫ですか……(ボソッ。エルバ様はやはり面白いスキルをお持ちだ。それにアイテムボックス、マジックバッグといい、次から次へと楽しいことが起きますね)」
「ん、何か言った?」
「いいえ」
私は併用しているマジックバッグではなく、アイテムボックスを直に開いた。この中には前世、私の愛用していたキャンプ道具が入っているのだ。
まずは休憩するために愛用していたカーキ色のテントを取り出すと。ひとり用のテントがアイテムボックスの中から"ポン"と、目の前に原型のままでてくる。
「わっ、テントがそのままの形で出てきた? 面倒な組み立てがいらなくて、後はペグを打てばいいのかな?」
不思議に思いながら、アイテムボックスからペグとペグハンマーを取り出した。その横で、はじめてテントを見たであろうアール君は、2本の尻尾を小刻みにすらしながらテントの周りをまわり。
「エルバ様。なんとも可愛い家ですね。この中で休むのですか?」
と、興味津々だ。
「そうだよ。いま、ペグを打って動かないよう、テントを固定するから待っていて」
これまた愛用のペグ、ペグハンマーでテントを固定する、のだけど。硬そうな地面にハンマーひと振りでペグが簡単に入っていく。
「……え?」
いつもなら大変な作業なんだけど。と、思いながらテントを固定して。
なかに引くキャンプマットとラグを、アイテムボックスから取り出してテントの中に引いた。
「アール君、準備終わったよ」
待っていたアール君に入り口を開けて『どうぞ』と言うと、彼は2本の尻尾を立て、ウキウキした足取りでテントのなかに入っていった。
(フフ、アール君、楽しそうね)
「さてと、私は夕飯の支度でもしようかな」
袖をまくり、テントの外にテーブル、ポケットコンロ、調理器具をアイテムボックスから取り出した。
それらの前でいまから何を作る? とメニューを考える。
うーん。小腹がすいたからメスティンで、コメを1合炊いて塩おにぎり。さっき見つけたトマトマ、キャベンツ、レタススの塩もみサラダ……エダマメマメの塩茹で。
(あとはレンモンを浮かべた、シュワシュワかな)
水魔法で手を洗い、エルバの畑をひらきコメ草を収穫して袋の中で振る。もちろん収穫終えた茎は、アイテムボックスに入れて持って帰る。
次にメスティンを出して……と、夕飯の準備中にアール君がテントから何かを咥えて飛び出てきた。
「ア、アール君、どうしたの?」
そう聞くと、彼は少し震えた声で。
「エ、エ、エルバ様、テントに入った途端……真っ白な空間が目の前に広がり……その先に見知らぬ緑色をした鉄製の扉が現れ、入口にこんな物が落ちていました」
と、達筆な文字で"エルバ様"と書かれた、手紙を私に渡した。
応援ありがとうございます!
14
お気に入りに追加
909
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる