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第一章
25話
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私の肩に乗る、真っ赤なリボンをつけたアール君もおばさんを心配している。そして、いまアール君は普通の猫のふりをしているので、彼との会話は"覚えたて"の念話を使用していた。
[エルバ様、シュワシュワに驚いていますね]
[うん、うん、驚いてるね……飲んでくれるかな?]
おばさんは"シュワシュワ"する飲み物にちゅうちょしたけど、よほど喉が渇いていたのだろう。
私からコップをうけ取り一口飲んだ。
「な、な、なんじゃ、この飲み物はぁ?」
[フフ、僕もはじめはそうなりました]
[そうだね。アール君、毛が逆立ってまん丸になったものね]
よかった、おばさんは言葉にならないくらい驚きながらも、ごくごく喉を鳴らして、おいしそうにシュワシュワを飲んでくれた。
――博士の言う通り、おばさんの熱中症、よくなるかな?
「ぷふわぁ――喉を通るときの爽快感。こんな不思議で、美味しい飲み物は初めてだ……心なしか、体も軽くなったような気がするよ」
「ほんとうですか? ホッ、よかった……今日は暑いですから気をつけて下さい」
飲み干したコップを受け取った。
「お嬢さん、ありがとう。……すぐ畑仕事から帰るつもりが草刈りに夢中になっちまって……ほんとうに助かったよ」
「いいえ」
「それにしても……それ、シュワシュワ音がする不思議な飲み物だね」
きた。
[エルバ様、落ち着いて説明してください]
[わかってる]
「こ、これは私の村で採れる、シュワシュワの実を水に浸したものなんです。えーっと……村の名物なんです」
何かあったとき。人に聞かれたら、そう答えようとアール君と考えた説明をおばさんにした。
「お嬢さんの村の名物なのかい? へぇ、シュワシュワの実は聞いたことがないから。お嬢さんはここいらではない遠くから来たんだね」
「はい、私……相棒のアール君と古い建物をめぐる旅をしていまして……この近くにも古城があるんですよね」
おばちゃんに聞くと頷き、教えてくれた。
「この辺の古城? ああ、ここを収める領主リルリドル子爵様のお屋敷だね」
「リルリドル子爵様のお屋敷ですか……」
[ママ様が言っていた通りですね]
[……そうだね]
ママが調べたとおり……シュノーク古城にその人が住んでいるのか……これは勝手に入れないかな? ――さてさてどうする。
私はどうやって、お城に入るかアール君と悩んでいた。
おばちゃんは私に顔を近付け、コソッと話す。
「でも、お嬢さん、悪いことは言わない。あまり近付かない方がいいよ。子爵様のご令嬢アマリア様がね……さいきん黒魔術という変なものにハマったらしくてね。屋敷にひきこもって、これまた変な儀式をしているって噂だから……」
「ひきこもって、変な儀式ですか?」
「そうなんだよ。なんでも……「いとしのサタナス魔王様、そこからでてきてぇ~」『サタナス様、わたしと魔力供給しましょう』『愛しのサタナス様』と、だれかに話す声も聞こえるらしいんだよ。リルリドル子爵様は早くに奥様を亡くしていてね。跡取りになるアマリア様が……気がふれたと頭を抱えていると聞くよ」
「ハハ、そうですか……」
「子爵様は大金をはたいて、国中の医者をお屋敷によんでは、アマリア様を診てもらっているみたいなんだけどね……まったく、効き目なしって話だ」
[変わった、お嬢様ですね]
[ほんと、変わってるね]
その変わった行動の数々、アマリアはぜったい私と同じ転生者だとみた。
「せっかく、ここまで来たので"サッ"と、城の外見だけ見て帰ります」
「ああ、そうした方がいい。お嬢さん、おいしい飲み物ありがとうね」
おばちゃんはお礼をいって帰っていく。
その背中をみながら私はため息をひとつ吐き……あらためて小説の世界なんだと確信した。
――だって、ヒロインの名前は"アマリア"なんだもの。
[エルバ様、シュワシュワに驚いていますね]
[うん、うん、驚いてるね……飲んでくれるかな?]
おばさんは"シュワシュワ"する飲み物にちゅうちょしたけど、よほど喉が渇いていたのだろう。
私からコップをうけ取り一口飲んだ。
「な、な、なんじゃ、この飲み物はぁ?」
[フフ、僕もはじめはそうなりました]
[そうだね。アール君、毛が逆立ってまん丸になったものね]
よかった、おばさんは言葉にならないくらい驚きながらも、ごくごく喉を鳴らして、おいしそうにシュワシュワを飲んでくれた。
――博士の言う通り、おばさんの熱中症、よくなるかな?
「ぷふわぁ――喉を通るときの爽快感。こんな不思議で、美味しい飲み物は初めてだ……心なしか、体も軽くなったような気がするよ」
「ほんとうですか? ホッ、よかった……今日は暑いですから気をつけて下さい」
飲み干したコップを受け取った。
「お嬢さん、ありがとう。……すぐ畑仕事から帰るつもりが草刈りに夢中になっちまって……ほんとうに助かったよ」
「いいえ」
「それにしても……それ、シュワシュワ音がする不思議な飲み物だね」
きた。
[エルバ様、落ち着いて説明してください]
[わかってる]
「こ、これは私の村で採れる、シュワシュワの実を水に浸したものなんです。えーっと……村の名物なんです」
何かあったとき。人に聞かれたら、そう答えようとアール君と考えた説明をおばさんにした。
「お嬢さんの村の名物なのかい? へぇ、シュワシュワの実は聞いたことがないから。お嬢さんはここいらではない遠くから来たんだね」
「はい、私……相棒のアール君と古い建物をめぐる旅をしていまして……この近くにも古城があるんですよね」
おばちゃんに聞くと頷き、教えてくれた。
「この辺の古城? ああ、ここを収める領主リルリドル子爵様のお屋敷だね」
「リルリドル子爵様のお屋敷ですか……」
[ママ様が言っていた通りですね]
[……そうだね]
ママが調べたとおり……シュノーク古城にその人が住んでいるのか……これは勝手に入れないかな? ――さてさてどうする。
私はどうやって、お城に入るかアール君と悩んでいた。
おばちゃんは私に顔を近付け、コソッと話す。
「でも、お嬢さん、悪いことは言わない。あまり近付かない方がいいよ。子爵様のご令嬢アマリア様がね……さいきん黒魔術という変なものにハマったらしくてね。屋敷にひきこもって、これまた変な儀式をしているって噂だから……」
「ひきこもって、変な儀式ですか?」
「そうなんだよ。なんでも……「いとしのサタナス魔王様、そこからでてきてぇ~」『サタナス様、わたしと魔力供給しましょう』『愛しのサタナス様』と、だれかに話す声も聞こえるらしいんだよ。リルリドル子爵様は早くに奥様を亡くしていてね。跡取りになるアマリア様が……気がふれたと頭を抱えていると聞くよ」
「ハハ、そうですか……」
「子爵様は大金をはたいて、国中の医者をお屋敷によんでは、アマリア様を診てもらっているみたいなんだけどね……まったく、効き目なしって話だ」
[変わった、お嬢様ですね]
[ほんと、変わってるね]
その変わった行動の数々、アマリアはぜったい私と同じ転生者だとみた。
「せっかく、ここまで来たので"サッ"と、城の外見だけ見て帰ります」
「ああ、そうした方がいい。お嬢さん、おいしい飲み物ありがとうね」
おばちゃんはお礼をいって帰っていく。
その背中をみながら私はため息をひとつ吐き……あらためて小説の世界なんだと確信した。
――だって、ヒロインの名前は"アマリア"なんだもの。
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