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第一章

10話

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 可愛い、黒猫ちゃんに怒られた……。

 いや、それよりも。

「……ね、ね」
「ね?」

 

「「猫が人の言葉をしゃべったぁ!」」


  
「え? ……知らないのですか? きょうびの動物、猫だって言葉くらい話しますよ」

「うそ? 黒猫ちゃん以外にも言葉を話す動物がいるの?」

「ええ、おります」


 ――おお、さすが異世界!

 
 今度、お隣のカトリーナお姉さんが飼っている"チビドラゴン"と、ナナばぁーの"子トラ"に話しかけてみよう。

「(ボソッ)……まあ、嘘ですけど」
「ん? なにか言った?」

 黒猫ちゃんは目を細め。

「いいえ、何も言っておりません。……ところで、あなたのお腹の具合はどうなんですか?」

「私のお腹の具合?」

 意味がわからず首を傾げると、黒猫ちゃんは長い尻尾をパシパシ地面に叩きつけて。

「気持ち悪くないか? 痛くないか? 聞いているのです。そんな得体の知れない"シュワシュワ"する不思議な物を飲んで、お腹が痛くないかを伺っているのです」

 得体の知れないシュワシュワ?
 
 あ、そうか……この黒猫ちゃんは私の心配してくれているんだ。
 なんて、優しい黒猫ちゃん。

「ありがとう、黒猫ちゃん。この赤い実は食用だから食べても平気なんだよ。……そうだ、あなたも気になるのなら"シュワシュワ"飲んでみる? ぜったい、びっくりすると思うよ」

 と、私は黒猫ちゃんの返事を待たず。マジックバッグからコップを取り出し、シュワシュワをそそいで足元に置いた。
 目の前――地面におかれシュワシュワ音がなる、コップの中身を黒猫ちゃんはいぶがしげに見つめた。

「フゥ、未知なる体験――(ゴクッ)大丈夫、僕に毒は効きにくい。なにごとも体験あるのみです! ……摩訶不思議(まかふしぎ)なシュワシュワ……いただきます!!」

 オズオズ、ピンク色の舌でシュワシュワをペロリ舐めた。その、とたん――頭から猫ちゃんの毛が"ぶわあっ"とふくらむと、それはいっきに尻尾まで走り抜けた。

 猫ちゃんは瞳を大きくして。

「お、おお――こんなの初めてです! 面白い、舌と喉がシュワシュワいたします!」

(おお。なんて、いい反応!)

 シュワシュワが気に入ったのか。黒猫ちゃんはシュワシュワを一気に飲んでくれた。そして、ペロペ口舌で口の周りの舐め毛繕いをはじめた。

(か、可愛い、スマホに撮りたい! ……猫の仕草って可愛い。私、前世で猫を飼いたかったんだぁ……鳴き声も、モフモフは見てるだけで癒される)
 
 今、この子を撫で回したい。
 家に連れて帰って、一緒のベッドで眠りたい。
 朝になったら、ぷにぷにの肉球で起こしてもらいたい。

 出来たら、どんなに幸せだろう。
 
「フフ。……エルバ様、えんりょせず僕を撫でてもいいのですよ」
「エルバ様?」

(え、今、私の名前を呼んだ?)

「どうして、名前を知っているの?」

「名前? エルバ様は知らないのですか? 今、この魔法都市サングリアであなたの事を、知らない人はいません。なにせ、エルバ様はコメ草の食べ方をみつけた有名人です」

 私が有名人? コメ草の食べ方は見つけたというか……博士が教えてくれたんだけど。

「ちまたで"エルバコメ"と名前のついた商品が配られました」


「「え、エルバコメ!」」


 だから、さいきん外出するとみんなが……優しい瞳でみてきたんだ。
 おむすび食べる? とか、お団子どう? とかもあった。

「……でも、そのネーミングは照れちゃうなぁ」

「フフ、実に面白い……エルバ様、僕は"かれこれ"暇を持て余しておりました。実によい暇つぶ……いいえ、エルバ様とお知り合いになりたいです」

 今、私のことを"よい暇つぶし"と言ったな。
 まあ、黒猫ちゃんは可愛いから、いいけど。

「そうです! 手始め、僕に名前をつけてみませんか?」

「黒猫ちゃんに名前?」
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