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第一章

8話

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 夕方になり、仕事から帰ってきたパパにも塩おむすびを出したのだけど、水分が飛び、おむすびは固くなっていた。

 コメはお米と違い、水分が意外に早く抜けてしまうようで、炊いたすぐに食べないとダメみたい。前世のよつにラップ、密封容器があればいいのだけど。

(もうすこし、水を多く入れて炊くといいかな?)

 コメを炊く実験はアイテムボックに入ってる、メスティンを使って。"エルバの畑"で採れたコメ草でやってみよう。
 

 ママはテーブルの塩おむすびをみて。

「残念だわ、炊いたすぐは柔らかくて美味しかったのに」

「そうなのか、残念だな」

 うーん。どうにかしてパパにも美味しいコメを食べてもらいたい。ああ、そうだ! キャンプで固くなったコンビニのおにぎりをクッカーにだしと一緒に入れて、お茶漬けにして食べることが流行っていなかった。

(それを応用すればいいのでは?)

「パパ、少し待っていて。ママは手伝って」

 ママにコンロに火をつけてもらい、お鍋に乾燥ピコキノコと塩少々、水を入れて煮込み。固くなったおむすびを潰しながら全部入れ暫く煮込んだ。
 コメがピコキノコのダシを吸い柔らかくなったら、ニワトリに似たコロ鳥の卵をとき回し入れる。

(んん、いい香り)

「ママ、味どう?」
「ピコキノコのダシがきいていて、おいしいわ」

 このピコキノコは高級品だけど、見た目と味は椎茸に似ている。椎茸好きの私はピコキノコがほしくて、畑に植えようとしたが――キノコは菌類なので、植物特化型の博士に"無理だと"言われた。

 卵が程よく固まり"雑炊"のできあがり。
 おむすびにあうかもと。作っておいた細切りダイダイコンの塩揉みもお皿にだした。

「パパ、出来たよ。熱いうちに食べてみて!」

 出来立ての"雑炊"を、食卓の真ん中にドーンと置いた。
 パパとママ、私はおたまで雑炊をお茶碗によそい、一口食べて口をニンマリさせ。
  
「おいしい!」
「うまい!」
「おいしいわ」


 美味しいの、言葉がかぶる。


「この雑炊……ピコキノコのダシがきいて美味しい! これなら、いくらでも食べれる」

 ダイダイコンの塩揉みも、いい塩梅。

「エルバ、ピコキノコのダシがコメとコロ鳥の卵に染みてうまい。サラサラと何杯でも食べられる」
 
「ほんと、炊きたての塩おむすびも美味しかったけど。これも、おいしいわ」

 パパとママは雑炊が気にいったみたい。
 このピコキノコの絶品ダシにうどんを打って、入れても美味しいだろう。




 ❀




 この日、ママにキッチンの使用許可をもらい。エルブ原っぱで新しく見つけた木と実を使い、実験していた。
 その私の足元をクネクネ、スリスリする黒いモフモフがいる。

「……ちょっとアール君! 尻尾を絡ませて邪魔をしないで、あやまって踏んじゃうって」

「エルバ様、これは邪魔をしているのではありません。危険な実験をするエルバ様を止めているんです」

 自分を"監視役"だと言い。私がする事に目を光らせて色々注意してくる……モフモフ黒猫さんである。
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