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第二章

第20話 南竜の森を進む

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瘴気が蔓延る暗い森の中をみんなで進む。
木々は枯れて真っ黒な瘴気によって黒く染まる。
先頭を行くリズ様やコッホ騎士団長の部隊は剣を抜き、長年この森に潜み、まるで意思を持ったかのように襲い掛かってくる瘴気を剣にて切り裂く。

切り裂かれた瘴気は細かくなり、またくっつき襲いかかる。

私は箒を持ち私達の所にも飛んでくる瘴気を魔力を使い消すシーラン様と、隣で剣を振るリオさんに挟まれながら暗い瘴気塗れの森の中を進む。

暗い、暗い森の中

「ひっ、シーラン様お願い、邪魔にならないようにしますからジャケットを掴ませて!」

暗闇にドロドロした瘴気を目にして、恐怖におののく私は両手で魔力を操るシーラン様にお願いをした。

「ああ、わかった。掴むならしっかりと俺から離れないように掴めよ」

「うん、ありがとう」

両手を手を伸ばしシーラン様のジャケットを掴ませてもらった。


「よし、掴んだな。そのまましっかりと掴んているように!」


森の中心まで剣を振り進んだけど、ここからまた瘴気の濃度が上がった。
体に纏わり付くように寄ってくる瘴気。

ここから先は木々の形状も変わっていた、解けたかのように木が彼方此方にくねくねっと曲がり、落ちた葉はドロドロに解けている。

「きゃっ」

「大丈夫か?シャルロット嬢」

「…ええ、大丈夫」

うへっ、足を踏み入れた途端に背中にゾゾゾっと寒気が走った。

(なんだか、黒いねちょっとした液体に足を入れたようだわ)

でも着実に竜人王に近づいているだろう。


しかし…休みなく前に出て剣を振っていたリズ様が疲れた声を上げる。


「くそっ、足が取られる。いくら瘴気を切り刻んでも分裂してらちがあかない…うわぁ!!」

「リズ!」
「リズ様!」

息が上がり瘴気に襲い掛かられたリズ様の前に、コッホ騎士団長が出て剣を振り瘴気を切ると、リズ様に声をかけた。

「リズ王子はおさがりください」

リズ様が後ろに下がったのを見届け、コッホ騎士団長や騎士達が前に出る「ウォォオーッ」とコッホ騎士団長が雄叫びを上げると騎士の人達も次々と雄叫びを上げた。

騎士達の雄叫びが森の中に響く、竜人の騎士達は赤や青、緑に黄色の闘志に包まれていく。

「これは、コッホ騎士団長達が魔闘志を上げ出したぞ!」

「俺の背に隠れて、シャルロット嬢!!」

「はい、分かりました」

シーラン様に言われて背中に隠れた、シーラン様の背中越しに燃え上がる闘志を感じてあまりの凄さにゴクリと喉が鳴る。

それを見て「これはねシャルロット嬢。竜人の騎士団に所属する者しか使えない、一時的に防御を下げ攻撃を上げ己の魔力を高め剣に乗せて戦うんだ」と私の前にいるシーラン様が教えてくれた。

「すげぇ、初めて見た」

「なんて魔力と闘志だ」

「リズ王子、シーラン王子、リオ、シャルロット様!私達に遅れないように来てください」

火の属性で赤い光りを放つコッホ騎士団長が声を上げ剣を振り上げ瘴気を切り刻み進む、騎士達の目に体は自分の属性に光を放つ。


「さあ、俺達も後に続こう!」

「ああ、シャルロットちゃんシーランとリオから離れるな」

「はい!」

額に汗をかき剣を構えたリズ様が前から私達の後ろに回った。

森を進むにつれて騎士達の息が上がっていく、剣に魔力を使い体力が消耗しているみたいだ。

でも剣を下ろさず戦う騎士を目の当たりにした。

(私はこれでいいの?ただ怖いと庇われてついて行くだけで?)

みんなが頑張っているのに…(よし私も!)と取り敢えずイメージを高め、私はシーラン様のジャケットから手を離し箒の柄を持ち構えた。

「あっち行け、あっちに行きなさい!」

ブンブンと箒を手に持ち振り回し瘴気を払う。

「うわぁ、シャルロットちゃん!」

「シャルロット嬢、やるな!」

「でも、余り前に出てはなりません」

前を進む騎士団の皆さんの邪魔にならないようにみんなに当てないように振り回した。

瘴気が溢れる森を抜け見えてきたのは緑の中に突如現れた、ゴツゴツした岩盤の露出した高い岩山が現れた。

上を見ても黒い瘴気に覆われ山頂までは見えなかった。

「シーラン様森を抜けました、ここで一旦休憩に致しましょう」

と、額の汗を拭きながら振り向きコッホ騎士団長がそう告げるとシーラン様は頷く。


「わかったここで休憩に入る、みんな俺を囲むように集まれ障壁で周りを囲む」


   ☆☆☆


シーラン様の声で皆が集まると「【障壁】」と唱えて真ん中に立ち手を上にあげた、唱えた後にシーラン様の手から放たれた透明な光は私達を守るように囲むように包んだ。

「これでいいだろう障壁を張った。さあ、しばらくここで休もう」

その声にみんなは座り汗を拭っていると、1人の騎士が出て来て背に背負っていたリュックを持ち、シーラン様の前に来る。


「シーラン王子、マリーさんからの差し入れです」

と、2つのバケットをカバンから出し開ける、中にはひよこ豆を使ったパンに一口サイズに焼かれたパンケーキ、クッキーそして、生地にひよこ豆のペースト状にしたものを挟んで焼いたひよこ豆パン!

マリーさんお城に貯蔵されていた小麦粉でみんなにと沢山作ってくれたんだ。

(ありがとうマリーさん)

少し離れた所では魔法で火を起こしポットと鍋に魔法で水を出し沸かしている、どうやらひよこ豆のスープを作り、紅茶を淹れてくれるみたいだ。

彼の背負って来たリュックの中からはポットと鍋の他には、人数分の銀の器と銀のカップも入っていてそれを出して並べていた。

器用に水魔法で鍋とポットに水を出す騎士の人を眺めていた。

(私も水魔法で飲水を出せたらお手伝いを出来たのにな…でも、いつか私も使えるようになるわ)

その騎士の人が料理を手際よく進め、最後にスープに入れるひよこ豆を出した時に思い出す。

そうだ、私は背中に背負っていた布を下ろしてバケットの開いた所に「これも食べてください」と持ってきた焼きひよこ豆を出した。

それを近くで見ていたリズ様はその焼きひよこ豆を取り私の横に座った。シーラン様はコッホ騎士団長とこれから登る岩山を地図と交互に見て話しをしていた、リオさんは騎士達に混じりお手伝いをしている2人の姿を見て

「シャルロットちゃん聞いてよ。シーランにリオったら俺には休めだってさ」

シーラン様とリオさんは前に出て戦ったリズ様を思って、休みなさいと言ったのね。

「リズ様はたくさん動かれたのでいまは早めに体を休めてください、次も頑張ってもらいますからね」

微笑んでリズ様に言うと彼も微笑み

「そうか…そうだな俺また頑張るよ。ところでシャルロットちゃん背中に何か背負ってると思ったら、焼きひよこ豆を持って来てたんだね…ん、美味い!」

「でしょ、みんなで育てたひよこ豆も、ちゃんとここに持って来てるからね」

背中に背負い直した肩掛けをリズ様に見せた。リズ様は頷き目を細めて

「みんなで願いを込めて育てたひよこ豆を、ちゃんと竜人王に食べさせたいね」
「ええ、食べてもらいましょう」

リズ様と一緒に頷いた。

「そうだシャルロットちゃん、俺食べ物を取ってくるけど何がいい?」

と立つリズ様の後に私も立って

「リズ様にお任せします、私はスープを貰ってくるね」

「うん、わかった」

そこに話の終わったシーラン様が来て、お手伝いの終わったリオさん、食べ物を持ってきたリズ様にスープを持ってきた私。

みんなで向かい合って座り食べた。
食後の紅茶を飲んでいるとシーラン様はみんなの前に立ち岩山に登るルートを説明した。

「左は道がなく絶壁のため右から回るように岩山に登ることにする、ゴツゴツした石が積み重なり足を取られ登りにくいが崖をいきなり登るよりはいいだろう」

みんなは頷き後片付けをして岩山に登る準備を始めた。

この頂上に竜人王がいるんだ。
私はそびえる岩山を見上げたけと、やはり瘴気で上までは見えなかった。

   
      ☆☆☆


「シャルロット嬢足元に気を付けろ」

「はい、シーラン様」

休憩の後、岩山に登り始める周りは異様な形の木々に覆われて足元は小さな小石や大きな石がゴロゴロひしめく道を登る。動きやすく革靴を履いているけと底が薄くゴツゴツした岩や小石が足裏に刺さる感じがして痛い。

でも順調に岩山を登るだいたい半分くらい登った所で状況が変わる。

「…くっ」

騎士達が魔闘志で瘴気を切り裂き進む中、前線に立つ1人の騎士が声を上げた。

「シーラン王子、コッホ騎士団長!!すみません、私は限界にたっし……」

シーラン様とコッホ騎士団長に最後まで話すことが出来ずにゴロンと、その騎士はチビドラちゃんの姿に変わった。

えっ、騎士の1人がチビドラちゃんに変わったわ!!

シーラン様の時と同じで魔力を使い果たしたと言う事?

直ぐに後ろの騎士の人がそのチビドラちゃんを抱えて慣れた手つきで、チビドラちゃんが落ちないようにもうひとりの騎士が手伝い背中に紐でくくると、剣を抜き何事もなかったかなように前線に戻り剣を振る。

それを見たシーラン様は後ろから声を上げる。

「皆も限界が来たらこの様に声をあげるようお願いします、決して無理はなさらないでください」


「「はい!」」


しかし、瘴気が濃い中で剣を振り魔闘志のまま、岩山に登る騎士達はかなり体力に魔力を消耗をしてしまうらしく。

岩山を上に登るにつれて次々と体力と魔力を消耗し、チビドラちゃんに変わる騎士達が増えてくるのだった。

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