上 下
51 / 65

四十八

しおりを挟む
 私たちに検査結果を渡し終え、所長の横にいた助手さんは、私たちに頭を下げた。

「リチャード様、ミタリア様お疲れ様でした。デンス所長、私はこれで研究に戻ります」

「わかった、手伝いありがとう。リチャード様、ミタリア様、特殊能力検査はこれで終わりです。何かわからないことがありましたら、気軽に獣化研究所までおいでください」

「デンス所長、今日はありがとうございました」

「ありがとうございました」

 私たちは所長にお礼を言って獣化研究者を後にした。
 私は帰りの馬車の中で、ボーッと検査結果の封筒を手に考えていた。ヒロインの手紙に書いてあった通り、私の特殊能力が闇属性だったら、かっこいいと思っていたけど。
 実際の特殊能力ーーオフトゥン召喚て変わってるけど、可愛いっちゃ可愛いかも。

 名付けて、どこでもオフトゥン! 

 まだ誕生日前で特殊能力は使えないけど。
 オフトゥン召喚とオフトゥンの上限定だけど『癒し』は結構役立つと思う。
 王子の訓練帰りとか、王子の執務疲れとか、王子としての習い事の疲れを取る……って。全部、王子のことばかりだった。

「なぁ、ミタリア」

「はひっ!」

 王子のことを考えていたから、急に話しかけられて変な声が出ちゃった。

「ぷっ、はひって驚かせたな。……で、ミタリアの特殊能力はあの兎の手紙の通り、闇属性だったのか?」

「えっ? 闇属性?」

「さっきから、その封筒ずっと見ているから……」

 研究所からの帰り、馬車に乗ってから封筒片手に考え事をしていたせいか、王子は私を心配そうに見つめていた。しかし、トラブルの原因になってしまうから、特殊能力は人には教えてはならない。

(でも、私の特殊能力ってオフトゥン召喚だし。婚約者の王子になら見せてもいいかな?)

 なーんてことを教えていた。
 もし、この検査結果を王子に見せたら「なんだ、この特殊能力は!」って笑う? それとも変に思う? どうするかを悩んでいたら、スーッと横から手が伸びてきて、私の封筒を取り上げた。

「あっ。リチャード様、見ないで!」

 と、止めたのだけど。時は遅く、王子は封筒を開けて、私の検査結果の紙を見ていた。

「もう、リチャード様!」

「許せ。ミタリアの特殊能力は誰にも口外しない。しかし、これは……」

 私の特殊能力を見て瞳を大きくして、口元が功を描いた。
 なんだか王子、嬉しそうなんですけど。

「ミタリアの特殊能力……クックク、クク。まじか。これが、ミタリアの特殊能力なのか……はははっ!」

 王子の大笑い。むっ、こんなに笑うなんて。
 王子はオフトゥン召喚を、変な特殊能力だと思ったのね

「……見ないでって言ったのに、紙を返してください」

「あぁ? わかった返すよ。ははっ、可愛い……ミタリアらしい可愛い特殊能力だな……ククッ」

 また、笑った。でも、いま可愛いらしい特殊能力だとも言った。

「リチャード様、私の特殊能力を見たんだから、リチャード様の結果を見せてください!」

 王子の隣に置いてある、封筒を奪おうとしたのだけど、サラリと交わされた。

「ごめん……ミタリアのを見といて悪いけど、俺のは見せないというより、見せられないんだ」

 と言い、自分の封筒を背に隠してしまう。

「あぁ! リチャード様は私の特殊能力は見たくせに、いじわる」

 私の言葉に、王子は、また瞳を細めて大笑いした。

「はははっ、俺がいじわるか……くくっ、ごめん、ミタリア。俺は王族で第1王子だから、デンス所長たち以外に、特殊能力を知られてはダメなんだ。母上も父上の特殊能力は知らない」
 
「えっ?」

 王妃様も国王陛下の特殊能力は知らない。……王子の特殊能力はそう易々と、見てはいけないものなんだ。長所にもなって、弱点にもなる、よく考えればそうだ……。

 でも、偶然だけど……火属性は知ってしまった。

「すみません、リチャード様。それと、火属性は誰にも教えません」

「んっ、そうしてくれると嬉しい。はぁ、良かった……ミタリアの特殊能力が闇属性ではなくて。あの、手紙の通りにはならない。だが、カーエン王子のことは、これからも気を引き締めて見張はるよ。大切なミタリアをアイツにはやらない」

「リ、リチャード様!」

 引き寄せられて、たくましくなった王子の胸に抱きしめられた。
 その途端に、お腹のアサもポッと熱くなる。

「俺の愛する、ミタリア……」

 王子の腕の中で幸せを感じたていた。
 くっと、私を抱きしめならが体を揺らして、王子がまた笑いだす。

「くくっ、ミタリアの特殊能力を見てから、ずっと考えていたんだけど。その特殊能力『オフトゥン召喚』と『癒し』って、どう考えも俺専用だよな。……そう考えたら。俺、嬉しくって、顔がにやけて、笑っちまう」

 と、私を抱きしめたまま、王子はオフトゥンの上に寝転がった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

婚約者と親友に裏切られたので、大声で叫んでみました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:56pt お気に入り:157

転生した悪役令嬢の断罪

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:12,447pt お気に入り:1,672

野草から始まる異世界スローライフ

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:198pt お気に入り:913

【本編完結】貴方達から離れたら思った以上に幸せです!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:60,074pt お気に入り:9,971

【完結】あなたは知らなくていいのです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:34,200pt お気に入り:3,827

田舎娘をバカにした令嬢の末路

恋愛 / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:2,884

処理中です...