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三十九

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 正直。厄介な人が来たと思ったのは、私だけではないはず。隣にいるリチャード様は私の手を握り、側近のリルは私たちの側に待機して、兎ちゃんは疾風が如く庭園の端に逃げていた。

 カーエン王子は相変わらず、わっているのか、わかっていないのか糸目をさらに細めていた。

 それは当たり前だ。彼は人族で、この前の舞踏会のこともあるから、みんなは余計に警戒してしまう。兎ちゃんなんて、さらに離れて、米粒くらいにしか見えない。  

 カーエン王子はクスッと笑い。

「なんだか、お邪魔だったかな? みんなが探し物をしているみたいだったから、私も手伝おうと思って来たんだけど……ねぇ黒猫ちゃん、あの兎ちゃんって獣化しているの?」

「えぇ、そうですけど……」

「そっか……庭園近くの廊下で、いま指輪を拾ったんだけど」

「指輪ですか?」

「そう、これなんだけど、探し物はこれかな?」

 カーエン王子は赤い石がはまった、シルバーの指輪を私に見せようと、笑顔で近付いて来た。
 彼は糸目で、笑顔で、何を考えているのか分かりずらいけど……前に外そうとした、私の腕輪を見てる様な気がする。


「ミタリア!」


 王子が私の手を引き、カーエン王子から離した。

「カーエン王子、失礼。だが、その指輪をミタリアが見ても、獣化専用の魔導具の指輪かどうか分かりませんよ。俺ならわかるので、その指輪を見せてください」

 ピクリと、少しだけ眉をひそめたカーエン王子。

「え、そうなの? 黒猫ちゃんはわからないのか……残念。あれ? リチャード王子と黒猫ちゃんって、お揃いの腕輪を着けてるんだ」

「あぁ、この腕輪は俺が婚約者のミタリアに、プレゼントした物ですからね……その指輪を渡してもらえるかな?」

「はい、どうぞ」


 王子はカーエン王子から渡された指輪を確認した。


「うむ。この指輪は獣化専用の魔導具だね。おい、兎!」

「な、な、なんですか?」

 声を裏返して、どうしてなのか私たちの近くに来ない兎ちゃん。ピンと耳を立て、庭園の端で、警戒している様な素振りを見せていた。

「この指輪はお前の探し物か? こっちに見に来い!」

「……わかりました」

 兎ちゃんの緊張が伝わってきた。ぴょんぴょん跳ねながら、私たちに近付いてくるのだけど。兎ちゃんは警戒を解かないままだった。

(何かに怯えている……それは私たち? それともカーエン王子に?)

 兎ちゃんが側に近付くと、王子は前にしゃがんで、指輪を見せた。その指輪を見た兎ちゃんは、どこかホッとした表情を見せて頷いた。

「兎の、物の様だね」

「はい、これです。僕が探していた指輪だ、よかった見つかって。拾っていただき、ありがとうございました」

「お礼は見つけてくれた、カーエン王子に言ってくれ。兎、獣化を解く魔導具は俺たちにとって、大切なものだ今度からは無くすなよ」

「……はい皆さん、ありがとうございました」

 兎ちゃんは私たちにお礼を言い、指輪をはめて獣化を解こうとした。その姿を見た途端「見るな!」と、私だけ王子に目隠しされた。

(えっ、ちょっと待って、兎ちゃんは女の子だよ。私よりも王子たちが見ちゃダメなんじゃ……)

 とは言えなかった。王子に目を隠される前に少し見えたんだ……兎ちゃん(乙女ゲームのヒロインなのに)男の人だった。
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