上 下
40 / 65

三十八

しおりを挟む
 私たちの元に飛んできた兎。このヒロインの兎ちゃん、王子の胸に飛び込むのだろうと、隣で見ていたのだけど……。

 兎ちゃんは「お前じゃない!」と王子を蹴り飛ばし、私の胸にすぽっと収まった。私は驚き手を出して、兎が落ちないようにぎゅっと胸に抱きしめた。  

「兎ちゃん、大丈夫?」

「大丈夫、ふかふか、やっぱり女の子はいいな」

 女の子がいい? 私の胸で、兎ちゃんはご満悦?

(ヒロインって女の子だよね?)
 
 胸にすりすりしてた。

「おい、このすけべ兎! それ以上、ミタリアにすりすりしてみろ! お前を食ってやる!」

 ガッチッと王子は兎の頭を掴み、私から強引に引き離した。

「うわっ、僕を食べないで! お、狼? 狼ということは、この国の第1王子リチャード様? となると、この可愛い子は婚約者のミタリア様? ……ごきげんよう、ミタリア様」

「ごきげんよう」

「なにが、ごきげんようだ! お前はなんで? 学園の道端で獣化なんているんだ!」

 それもそうだ。獣化は特別、人前ではなってはならないもの。
 舞踏会のとき、大勢の学生の前でなってしまってけど、あれは緊急だからと許可された。

 しかし、この兎ちゃんは知らないのか、慌てだした。

「え、えっと、なんで獣化したのか僕にもわからないんです。庭園で入学式が始まるまで寝ていたら、いつの間にか兎の姿になっていて。オロオロしていたら、誰かに声をかけられて、びっくりしてここまで逃げてきたんです!」

(ゲームだと、こんなに早くヒロインは獣化しない。学園が始まって数日経ち、偶然に指輪が取れてしまって獣化しちゃうのだけど……)

 これだと話が違う。

「君のいまの話だと。学園の警備員が獣化した君を見つけて、保護しようとしていたのかもしれないな」

「そうですね……リチャード様、入学式が終わってからにいたしましょう」

「そうです、リチャード様。そろそろ、入学式の会場に向かわないと、間に合わなくなってしまいますよ」

「わかっている、リル」

 今日の入学式には第1王子が入学するからと、国王陛下、大臣などもこの入学式に出席している。もちろん、隣国カーエン王子殿下も学園に入学すると、隣国の国王陛下と王妃様もいらしていると聞いていた。

 それに、王子は入学するみんなに祝辞を述べなくてはならないため、遅刻するわけにはいかないのである。

「わかった、入学式が終わってからだな。リルは側近だから俺に着いてこなくてはならない。嫌だ、が……こいつはミタリアに預ける、くっ、嫌だが預ける……お前、ミタリアに手を出すなよ」

「はい、わかっております」

 王子と側近リルは祝辞を述べるため、控室に向かい、私は新入生が集まる学園の会場に兎ちゃんを連れて向かった。







 入学式も無事終わり王子と私、側近リルで庭園に来ていた。兎ちゃんは入学式の間、ずっと私の腕の中で、ぷすぷすと気持ちよさそうに寝ていた。

(……羨ましい)

 獣化しと言っていた庭園に向かうと、兎ちゃんの服が一式落ちていた。

 拾うと男性物の服……あれっ?

(男装令嬢? 確かめるのは後でいいわね)

「ここで、あなたは獣化してしまったのね」

「はい、ミタリア様」

「獣化しないようにする、何かアクセサリー持っていなかったのか? 兎! いつまでミタリアにくっ付いているんだ!」

「きゃっ!」

 ガシッと、兎ちゃんの頭を掴む王子。王子の前でぷらーんとぶら下がった兎くん。王子が怖いのか顔を青くした。

「え、えっと……アクセサリーなら両親の形見の指輪を着けていました……そ、それですかね」

「形見の指輪! それは大変だわ、早く見つけないと」

「僕も見つけます……あの、リチャード王子殿下、頭を離してくださいませんか?」

「いいぞ、俺も探してやろう。ミタリアは俺の隣な」

「はい」

 探し始めも、ずっと不機嫌な王子。その隣に並んで、しゃがんだ。

「あの、リチャード様」

「なに、ミタリア」

「リチャード様の入学式での祝辞、素敵でした。カッコ良かったです」

「カッコ良かったか……ミタリアありがとう。少し照れるな」

 王子は照れ臭そうに笑った。

「でも、ずっと私を見て祝辞を述べるのは……嬉しかったですが、恥ずかしかったです」

「それは……」

 と言いかけて、王子は近くをぴょんぴょんと飛び、指輪を探す兎ちゃんの姿を見て。

「あの兎が気になってな。ずっとミタリアの胸の上で寝ていたろ? 俺の腹がズキズキ痛み、かなり苛立った」

 お腹がズキズキ痛んだ? それを聞き、無意識に王子のお腹を撫でていた。

「ミタリア、それは帰りの馬車の中でな」

「えっ、あ、リチャード様、すみません」

「俺は嬉しいが。ここだとみんなの目があるし、可愛いミタリアを見せたくない」

(うわっ、色々と恥ずかしい)

 指輪を探して、2人でいる所に。

「さっきから黒猫ちゃんと、リチャード王子はこのような所で、なにをしているんだい?」

 私を黒猫ちゃんと呼び、庭園にカーエン王子と側近の方が現れた。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります

結城芙由奈 
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

悪役令嬢は婚約破棄したいのに王子から溺愛されています。

白雪みなと
恋愛
この世界は乙女ゲームであると気づいた悪役令嬢ポジションのクリスタル・フェアリィ。 筋書き通りにやらないとどうなるか分かったもんじゃない。それに、貴族社会で生きていける気もしない。 ということで、悪役令嬢として候補に嫌われ、国外追放されるよう頑張るのだったが……。 王子さま、なぜ私を溺愛してらっしゃるのですか?

【完結】攻略を諦めたら騎士様に溺愛されました。悪役でも幸せになれますか?

うり北 うりこ
恋愛
メイリーンは、大好きな乙女ゲームに転生をした。しかも、ヒロインだ。これは、推しの王子様との恋愛も夢じゃない! そう意気込んで学園に入学してみれば、王子様は悪役令嬢のローズリンゼットに夢中。しかも、悪役令嬢はおかめのお面をつけている。 これは、巷で流行りの悪役令嬢が主人公、ヒロインが悪役展開なのでは? 命一番なので、攻略を諦めたら騎士様の溺愛が待っていた。

悪役令嬢ってこれでよかったかしら?

砂山一座
恋愛
第二王子の婚約者、テレジアは、悪役令嬢役を任されたようだ。 場に合わせるのが得意な令嬢は、婚約者の王子に、場の流れに、ヒロインの要求に、流されまくっていく。 全11部 完結しました。 サクッと読める悪役令嬢(役)。

拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様

オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。

平和的に婚約破棄したい悪役令嬢 vs 絶対に婚約破棄したくない攻略対象王子

深見アキ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢・シェリルに転生した主人公は平和的に婚約破棄しようと目論むものの、何故かお相手の王子はすんなり婚約破棄してくれそうになくて……? タイトルそのままのお話。 (4/1おまけSS追加しました) ※小説家になろうにも掲載してます。 ※表紙素材お借りしてます。

【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい

三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。 そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

処理中です...