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二十二 (手直し)

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「ミタリア悪かったって、そう怒るなよ」

「食べちゃうなんて酷い」

 あの後。王妃殿下に「また、来ます」と挨拶をして、馬車に乗り込み帰路に着いている。当然、シャーベットを全て食べてしまった王子は向かいの席で反省中で。

 私はというと、ふかふかオフトゥンの上にいた。

「ごめん……」

 ――謝った、王子の目尻と耳がしょんぼり垂れた。見た目は狼なのに子犬のようなしょんぼり瞳。

「……ふふっ、もう怒ってないよ」

「本当か? もう怒っていない?」

 怒っていないと頷いた。シャーベットを食べた王子の、美味しい顔が余りにも可愛いったのだ。しかし――食べたことの反省はしてもらった。

「あまり王子を怒ったらバチが当っちゃう。私の屋敷にいらしたとき、たくさんお菓子をお土産に用意してくれたもの――私もだけど、家族とナターシャたちメイドが喜んだわ。すごく美味しかったって、お礼を言わなくっちゃって思っていたから」

 本当か! と、体を乗り出して、下がった耳を上げて嬉しそうに笑った。

「そんな、また買って行くよ」

「リチャード様がいらっしゃるのはいいけど。10月に行われる――学園入学する貴族たちの舞踏会が終われば時期に冬が来るわ。雪が降ると、リチャード様に春まで会えなくなるね」

 降りしきる雪の中、馬車で走るのは危険だ。だから、雪が降り始めたら王子に会いに行けないし、王子も会いに来られない。

「それなら心配いらない。冬に使用する雪馬は雪の上でも寒くても平気だ。それでも猛吹雪の中と凍てつく氷の上を馬車で駆けるのは危険だが。火属性の魔法が使える者を引き連れていれば問題ない……一般で魔法が使える者はあまりいないから、貴族たちは冬になると出歩かないのだろう」

 ーー魔法?

「すごい、火の魔法で雪と氷を溶かすのですね。知らなかった」

「俺たち王族が使用する雪馬はガタイが良く、足腰が、がっしりしている。俺に時間ができれば雪馬に跨り、ミタリアに会いに行くよ」

「もう、リチャード様は執務とか習い事が忙しいのにいいです。私も刺繍とかダンス、同じように習い事が始まると思います」

 一応は王子の婚約者になったんだから、教養は身に付けないといけない。直ぐにお役御免になると思うけど。

「ダンスなら、相手がいた方がいいだろ?」

「それは、そうだけど――」

「なら、ミタリアの両親を説得して冬の間は王城に住ませるか。そうすればダンスも習い事も俺と一緒にできる」

 ――王子が恐ろしいことを言いだした。

 そのような王子からの申し出があったら両親は喜び、いってらっしゃいと送りだされる。高級なふかふかオフトゥンでのお昼寝は魅力的だけと、王城でのお昼寝は働く人が多くてしにくい。

「あ、でも無理だな――10月になったら、嫌な客が来ると父上が言っていた」

「嫌な客?」

「俺もあまり詳しくは知らないんだけど。どうも、先代ローランド国王と友好関係にある人族の国の王子みたいだ。その王子は俺たちと同じ学園に入学するらしいく、10月の舞踏会にも参加するだろう」

 ――人族? もしかして金髪碧眼。ゲームの隠しキャラで攻略対象ハーロス国の第2王子カーエン? ヒロインに一目惚れをして、リチャード王子に必要以上に突っ掛かる人族の王子。

 カーエン王子はヒロインにベタ惚れで――ヒロインをいじめるミタリアのことを嫌っていた。

 ――できれば、お会いしたくない人物の1人だ。
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