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二十一

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 7月までのぽかぽか陽気を通り過ぎ、ジリジリと熱い庭園のテラスに私はいた。飲み物はアイスティーとひんやり桃のシャーベット。

「暑っ、もう8月か――夏が来るわね」

 後2ヶ月ーー10月頃に学園に入学する者を呼び集めて舞踏会が開催される。その後に訪れる冬ーーこの国では雪が降るため、みんなは領土に引っ込んでしまう。

 王妃殿下はいま妊娠3ヶ月。冬が明けて4月の学園の入学式には、お子様が生まれて約1ヶ月になっているはず。

 しかし、ゲームの王妃殿下に子供はいない。となると、必ず10月の舞踏会にのときに何か起きる。

 でも、ゲーム開始前だからまだ情報がない。
 キーワードは倒れた国王陛下と、妊娠していたはずの王妃。

 ――それと。

『あの日ーー誰も気付かなかった、誰に止められなかったのです。悔やんでいても前に進めませんわ』

 学園で王子に私が言うセリフ。これが何に対して言ってい事かが分かればいいのだけど。止められるなら止めたいし、忘れないように帰ったら手帳に書かなくっちゃ。

 王子が終わりに私を選ばなくても、いまのように笑っていて欲しい。

 今思えば――ゲームの中で王子は優しいのだけど作った表情をしていた。謳い文句が――常に冷静沈着、クールな美男子だったかな? 国王陛下の病気が思わしくなく、学園を卒業すれば婚約者と結婚して国王となることが決まっていた。

 人の上に立つものは、交渉相手に心を読まれてはならない。

(でも――私はもう少し、いまの、いたずらっ子の王子のままがいいな)


「ミタリア? なんだ、寝ていないのか」
 
 王妃殿下との話を終えたらしく、王子が庭園のテラスに現れた。

「私だって、いつも寝てませんわ。リチャード様、王妃殿下との話は終わったのですか?」

「あぁ終わった、久しぶりに母上とたくさん話したよ。もちろん、ミタリアの話もね」

 ――私のこと?

「まさか? リチャード様の前で、へそ天をご披露したことを言ったのですか?」

「――ご披露って、違うよ、母上としたのは別の話だ。それに、へそ天は俺だけの特権だから、誰にも言わないし、誰にも見せない」


(へそ天が王子の特権?)


 王子は私の反対側に座り、頂戴と、私のアイスティーを勝手に飲んでしまう。

「リチャード様! ご自分の飲み物が欲しいのなら、メイドに頼んでください。あ、シャーベットは嫌です」
 
「少しなんだよ――なんていうか、少しだけ食べたいんだ」

 ――少し?

「それ、分からないこともないですけど。本当に少しだけ欲しいんですよね」

 ポテチ数枚とか、アイス一口とか、相手のが少しだけ欲しくなる。やられた方はたまったちゃもんじゃないと、思うけど。

「おっ、ミタリアも分かるのか。だったら、そのシャーベットもちょうだい」

「うぅ本当に一口ですか? ……分かりました、一口ならいいですよ」

 仕方がないと渡した桃シャーベットは、美味いと素敵に笑った王子のお腹に、全部消えていった。
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