上 下
7 / 65

しおりを挟む
「殿下、私のペンダントと服は何処にありますか?」

「テーブルの上に開いてあるよ。……ミタリア、急いだほうがいいぞ」

「意地悪……着替えるので、こちらを見ないでください」

 楽しそうにわかったと背を向けた王子。私はペンダントを着けて元に戻り着替えた。

 着替えてスカートを持ち会釈した。

「リチャード殿下、私、ミタリア・アンブレラは用事を思い出しましたので、帰らせていただきます」

「また明日な、ミタリア」

(王子は、ほんとうに意地悪だ!)

 べーっ!

「そんな可愛いことをしていたら、間に合わなくなるぞ」

「うっ、リチャード殿下の意地悪イケメン狼!」

 子供の様なことを言い残して。私は王子とのデートを終わらせて従者に馬車を飛ばしてもらい、屋敷に大急ぎで戻っていた。
 王子は私を婚約者だと言ったけど、まだ書類のやりとりを終えたわけではない。

(私が先に書類を受け取れば、まだ間に合う!)



 従者に飛ばせる速度で帰ってもらった。
 頑張ってくれた従者と馬にお礼を言って、馬車を飛び降りて、急いで屋敷の中に入った。

「お父様、お母様!」

 両親を急いで探すと、お父様の書斎に二人はいた。
 
「ミタリア、お帰りなさい。先程、リチャード殿下から婚約申し込みの書類が、早馬で届いたわ」

「ミタリア、良かったな。書類にサインと判は押したからな」

(えっ、ええ⁉ 書類に判とサイン?︎)

 私の馬車よりも早く、早馬は婚約の書類を両親に届けていた。
 その書類を見た両親は大喜びしたもよう。

 間に合わなかった……王子、仕事が早すぎ。
 書類には両親の名前と、保証人の名前が書いてあった……保証人はご近所の虎叔父様に頼んだみたい。

 あとは私のサインと判子を待つ、のみになっていた。

(もう、婚約を断りたいなんて言えない)

「さぁ、ミタリア」

「書類のここに名前を書くのだぞ」

「……はい」

 大いに喜ぶ、二人に見守られながら書きました……とほほ。


 書類を折り返しの早馬に渡して、夕食は婚約祝いのためか豪勢だった。両親は滅多に飲まない高級なワインを開けていた。

「ミタリア、幸せになるのよ」

「リチャード殿下に沢山愛してもらいなさい」


「う、うん、殿下が私を愛してくれるなら……ははっ」


(はぁーーお父様、お母様ごめんなさい。王子にはヒロインいるから、私が王子に愛されることはない……学園最後には婚約破棄されるわけだし)

 ムズ……ムズムズする? ポリポリ……さっきから、お腹がむず痒い。

 ポリポリ

(リチャード王子まさか? ノミで飼ってる? 俺がそんもん飼うか! て言いそう。常に澄まし顔で僕って言っていたのに、急に態度と俺に変わっていたし、笑っていた)

 いつもは猫を被っていたのか、彼は王子だからかな。

「いやぁーめでたい、めでたい!」

「ほんと、めでたいわ!」

 食事の終い頃に両親はワインを一本、仲良く飲み干して、食堂でダンスを踊りだした。

(いつまでも仲良いなぁ。私も結婚するなら、お父様の様な猫化で優しい人がいいなぁ)

 ダンスとワインを楽しむ両親に「疲れたから、先に寝ます」と部屋に戻り。ナターシャにお風呂の準備をしてもらった。







 脱衣所でドレスを脱いで驚いた。

「なっ、なに、これ?」

 姿見に映る、自分のお腹の右下に赤いアザの様なものができていたーーこれが、むず痒いもと?

(いつ出来たの?)

 このアザがどこで出来たのかもやもやして、お風呂もあまり楽しめずにあがった。ドレッサーの前で髪をナターシャに乾かしてもらっていた、鏡に映る彼女もまた私の婚約が嬉しそうだ。

「ミタリアお嬢様、ご婚約おめでとうございます」

「ありがとう、ナターシャ」

「専属メイドを選ぶとき、私を選んでください」

(年頃に結婚もせず私の面倒ばかり見ていたんだ。ナターシャは結婚はいいですと言わず、王都でいい旦那様を見つけて欲しい)

「分かったわ、専属メイドはナターシャにするわね」

 絶対ですよと、ナターシャと寝る前の挨拶を済ませて。ふかふかオフトゥンに転がり枕を胸に抱きしめた。

「まだ、お腹のアザがむず痒い」

 ポリポリ……ふうっ私のあほな行動で――獣化とへそ天を王子に披露したばかりに。王子に気に入られたて、回避したかった婚約者になってしまった。

 でも、あんなに喜ぶ両親の顔を見たら、婚約を無しにしたいだなんて言えないし。王子から婚約の申し込みだもの、突っぱねることは不敬罪にあたる。

「婚約者か……」
 
 そう呟いた時。唇がプルプルして、涙がポロポロ溢れだした。それは私の中に芽生えた小さな感情が原因だ。

 だって、思っちゃったんだもん。

 獣化した狼王子の姿が余りにも素敵で、カッコ良かった。
 前世、一番に推していた王子なんだもの。

「このまま好きになってしまったら、どうしよう?」

 けして、実らない恋をすることになる。

 私は前世の記憶で、婚約破棄されるって知っている。
 自分の終わり方も勿論知っている。ほんとうは陰から二人を応援するつもりでいた。

 いまもそう思っている。

(……そうだ、王子に学園に入学する前に嫌われよう。こんな奴とは婚約破棄したいと思われよう、それしかない)

 王子を好きになる前に諦めよう。
 大好きな、ふかふかオフトゥンの中で、そう決めたのだけど、

 ……む、むず痒い、ポリポリ。
 ……なんだろうコレ?
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

婚約者と親友に裏切られたので、大声で叫んでみました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:56pt お気に入り:157

転生した悪役令嬢の断罪

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:12,057pt お気に入り:1,673

野草から始まる異世界スローライフ

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:184pt お気に入り:913

【本編完結】貴方達から離れたら思った以上に幸せです!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:54,706pt お気に入り:9,979

【完結】あなたは知らなくていいのです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:38,261pt お気に入り:3,836

田舎娘をバカにした令嬢の末路

恋愛 / 完結 24h.ポイント:49pt お気に入り:2,884

処理中です...