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 走り出した馬車の中は、なんと、以前とは変わっていた。
 この、馬車のベンチシートに敷いてあるのは、

「ふかふかオフトゥンだ!」

 登城を嫌がる私のために、両親が考えたのだろう。

 馬車の中でも寝られるようになっていた。すぐざま、もみもみ、すりすりを楽しみ、ふかふかオフトゥンにくるまり眠った。

 馬車に乗ってから三時間――ふかふかオフトゥンとゆったり馬車に揺られて、私は時刻通り王城に着いた。従者に外鍵を外してもらい馬車を降りて、城内への出入り口に向かうと、先月と同じく王子の側近――犬族リルが待機していた。

 又の名を忠犬リル……。ゲームだと婚約破棄後、王子に命令された彼にミタリアは足音なく捕らえられる。

 かなり腕が立つ、王子の忠犬だ。

 彼に近付き挨拶をすると「リチャード様は庭園でお待ちになっておられます」と庭園のテラス席に案内された。

 庭園。彼が座るテラス席にはゲームと同様。好物のアールグレイの紅茶とたまごのサンドイッチが置かれていた。彼は時折、庭園に吹く風に白銀の髪と耳、尻尾を揺らし、紺色のジュストコールを身につけ優雅に本を読んでいた。

 流石は乙女ゲームのヒーロー。
 本を読む姿も様になる。

「リル、案内ありがとう」

「いいえ、ごゆっくりリチャード様とのデートをお楽しみください」

「えぇ、楽しむわ」

 令嬢らしく、忠犬側近と会話を交わして、私はテラス席にいる王子に近付き会釈した。

「ごきげんよう、リチャード王子殿下」

「今日はミタリア嬢か、よろしく。本日のデートは何をする?」

 王子も五年の間、毎月同じことをしているためか、彼もなれたものだ。

「そうですね。テラス席か庭園のベンチ、書庫で、ご一緒にお昼寝をしませんか?」

 そう告げれば王子は目を細めて、またかといった表情をした。それも、そうだろう毎年同じなのだから。

「ミタリア嬢。この五年間の間ずっと君とはお昼寝デートだ。他の候補者のように、僕と別のことをしたいと思わないのか?」  

「えっ?」

 他の候補者と同じこと? 候補者との自慢会という名のお茶会で聞いた。王子と乗馬デート、庭園手繋ぎデート、王都デート、遊覧船デート、花見デート……をしろと、無理!

「そんな嫌……恐れ多いこと。リチャード殿下、私とお昼寝……いいえ読書デートにすれば、デート時間の間、殿下はお好きな本を読めますわ」

 笑顔を絶やさず答えた。

「好きな本を読めるか……最近忙しかったな、良い、息抜きになるか」

 乙女ゲームで王子は読書好きだと知ってるから、デート時間を読書の時間にすれば、私は王子を気にせずお昼寝ができる、一石二鳥!

「えぇ、殿下は読書もできて、息抜きにもなりますわ」

 微笑んだままで言えば、王子はじっと私を見た後にため息をついた。

「はぁ、それでいいよ。場所は書庫で僕は本を読むから、君は書庫で本を読んでいても、昼寝でも好きなことをしていればいい」

「はい、喜んで!」

 と、始まった王子との読書デート。そこで私はとんでもない、失態を犯してしまうのだった。
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