異世界から本物の聖女が来たからと、追い出された聖女は自由に生きたい! (完結)

深月カナメ

文字の大きさ
上 下
18 / 30

十八

しおりを挟む
「ブラン、この密封瓶に入った茶色い液体は何?」

私の質問に嬉しそうにニィーッと笑うブラン。
彼は教えてくれず茶色の液体を見せびらかして、もったいぶった。

「意地悪しないで」

「ククッ、わかった。ヒーラギ聞いて驚け、これはな焼き肉の肉、野菜を数倍うまくする焼肉のタレだ!」

「焼肉のタレ?」

「俺がニンニク、ショウガ、酒とみりん、いくつもの野菜を煮込み、果物を加えて作り出した極上の焼肉のタレだ。……まあ、最初は魔物の肉を美味しく食べたくて、試行錯誤して作ったんだけどな」

「ニュ!」

密封瓶を取ろうとスラがニューッと手を伸ばす。

「おーっとスラ、やはり狙ってきたな。この液体好きスライムめ。だけど、これはダメだ……いまからヒーラギと美味い肉を食べるんだから」

「ニュ……ニュー」

「おい、そんなに残念がるなよ。残ったら後でやるからな、なぁ!」

「ブラン、僕に任せて。スラ、僕の特性果実水あげるから、こっちにおいでよ」

「ニュ?」

特性果実水と聞き"キラリン"と、目を光らせたスラはロンの水筒に飛びついた。ロンはスラを撫でて、コップに果実水を入れてあげた。

「ニュ、ニュ」
「ハハッ、美味いだろう」

「スラはロンに任せて、俺達は肉を焼こう」

ブランは薪を並べカマドを作り魔法で火をつけた。作ったカマドの上に鉄板を置いてしばらく待ち。火で熱した鉄板にブランはお肉の筋切りをして、とったお肉の牛脂を置いた。

鉄板の上で"ジュッ"といい音を出して、筋のお肉が鉄板の上で溶けていく。

「ブラン、美味しい匂いがする。この匂いでご飯食べられるよ」

「早まるなヒーラギ、肉はもっと美味いぞ」

綺麗な色のお肉を持つ、ブランにコクリと頷く。

その横でロンはブラン特性ドレッシングでレタス、キャベツ、キュウリ、トマト、チーズ、硬いパンをちぎった特大野菜サラダを食べて、スラはロンが作った特性果実水を飲み、何故かデロンデロンに溶けていた。

「スラ、新鮮な野菜って美味しいね」
「ニュー……ヒック、ニュ???」

スラの動きが横に伸びたり、デロンデロンに溶けたり、縦伸びになったり、そして陽気に歌いだした。

「ロン師匠……また、スラにお酒を飲ませたな」

「へへッ、僕が作った特性果実水、スラが毎回美味しく飲んでくれるからさ」
「ニュー、ニュ、ニュ」

「スラ、あんまり飲むなよ。溶けてなくなっちまうぞ」

「ニュ!」

わかったと、スラがユラユラ揺れながら答える。

「まったく、面白いな」
「ええ、面白いね」

私たちの、たのしい夕飯の時間は続くのだった。





時刻は夕暮れときになり辺りは薄暗くなってきた。
森の開けた場所で、かまどの炎が私達を照らしている、それよりも暗くなってくると、ロンは魔法で明かりを出してくれた。

「師匠、ありがとう。ヒーラギ、肉を焼くぞ!」
「はい、焼きましょう」

私は手にタレと、フォークを持った。

ブランが鉄板にお肉を乗せたとたんに、お肉の焼けるいい音、いい香りをヒーラギに届けた。これまた初めての匂いに私の口の中は大洪水、お行儀悪く何度も喉を鳴らした。

それは肉を間近くで焼くブランもだった。
彼の口はハンバーグのときと同じく、涎でてかっている。グルルッと喉を鳴らして今にも獣に戻りそうな勢いだ。

「ヤベェ、いい肉の匂いが俺を襲う……絶対に美味い!」

「ほんと、いい匂いだね」
「ヒーラギ、もう食べれるぞ」

ブランは焼けたお肉を木のお皿に山盛りに乗せた、私は「いただきます」と皿のお肉を一枚取りタレにつけてパクリと食べた。

「ん、ンン!」

舌が喜ぶ甘い肉汁と油、箸でも切れそうな柔らかなお肉とブランが作ったタレの相性は抜群。口に入れた一瞬にお肉は溶けてなくなってしまった。

「……お肉が消えた? 美味しい、なんなのコレ?」

「クックク、なんなのコレって肉だろ? どれ俺もいただきます……モグモグ、モグモグ、何なんだこれ! やわらけぇ、口の中に旨みを残してすぐに消えちまった」

「なによ、ブランも同じじゃない。もっとお肉を焼いて食べよう」

「そうだな、炊き立てのご飯とも合うぞ」

私のお皿に真っ白な炊き立てのご飯を、ブランはてんこ盛りに乗せてくれた。

「ヒーラギ、肉をタレにくぐらせてご飯の上でバウンドさせるんだ、ご飯にタレと肉汁が染み込んでさらに美味い」  

「どれどれ? ……ほんとだ、タレと肉汁最高!」
 
噛めば噛むほど甘いご飯……に絡む肉汁。タレをたっぷり浸けて、お肉をご飯に巻いて食べても美味しい。

「ヒーラギ、タレに飽きたら塩で食べると、さっほりして肉がまだまだ食える」

「ほんと、やってみる。……ほんとうだ、塩で食べるとサッパリするけど私はタレが好きかも」

「そうか? 俺が作ったタレを気に入ってくれて嬉しい」

その後は焼いて、食べてと、気付けば二合炊いたご飯もほとんど食べて、貰った牛肉もペロリと二人で平らげていた。

「ヒーラギ、鉄板に残った肉汁でご飯を炒めると絶対に美味いよな」

「ええ、ブラン、絶対に美味しいと想うわ」

鉄板に残った肉汁とカリカリに焼いた脂身と、ご飯を炒めて、最後にお皿に残ったタレと塩胡椒をかけた。

タレの焦げた香ばしい香りが、辺りに立ち込めた。

「できた! ヒーラギ食べよう」
「うん」

二人でスプーンを持って見合った。

「「いただきます!」」

肉汁を吸ったご飯とピリリと効いた塩胡椒。 
ご飯のおこげがこれまた香ばしくて美味しくて、二人で無我夢中で食べた。

お肉、ご飯、全て食べきり、残ったのは綺麗になった鉄板だけ。

「はぁ、美味かった」
「ほんと、美味しかったね」

「ブランとブラン嫁、すごい勢いだった……若いってすごいね。僕たちもおいしかったね、スラ」

野菜を全部食べたロンと、溶けた酔っ払いのスラ。

「ニュー、ニュー」

みんなの笑顔はキラキラしていた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!

沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。 それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。 失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。 アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。 帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。 そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。 再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。 なんと、皇子は三つ子だった! アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。 しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。 アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。 一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。

【完結】追放された元聖女は、冒険者として自由に生活します!

蜜柑
ファンタジー
レイラは生まれた時から強力な魔力を持っていたため、キアーラ王国の大神殿で大司教に聖女として育てられ、毎日祈りを捧げてきた。大司教は国政を乗っ取ろうと王太子とレイラの婚約を決めたが、王子は身元不明のレイラとは結婚できないと婚約破棄し、彼女を国外追放してしまう。 ――え、もうお肉も食べていいの? 白じゃない服着てもいいの? 追放される道中、偶然出会った冒険者――剣士ステファンと狼男のライガに同行することになったレイラは、冒険者ギルドに登録し、冒険者になる。もともと神殿での不自由な生活に飽き飽きしていたレイラは美味しいものを食べたり、可愛い服を着たり、冒険者として仕事をしたりと、外での自由な生活を楽しむ。 その一方、魔物が出るようになったキアーラでは大司教がレイラの回収を画策し、レイラの出自をめぐる真実がだんだんと明らかになる。 ※序盤1話が短めです(1000字弱) ※複数視点多めです。 ※小説家になろうにも掲載しています。 ※表紙イラストはレイラを月塚彩様に描いてもらいました。

稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています

水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。 森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。 公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。 ◇画像はGirly Drop様からお借りしました ◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から「破壊神」と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

姉の陰謀で国を追放された第二王女は、隣国を発展させる聖女となる【完結】

小平ニコ
ファンタジー
幼少期から魔法の才能に溢れ、百年に一度の天才と呼ばれたリーリエル。だが、その才能を妬んだ姉により、無実の罪を着せられ、隣国へと追放されてしまう。 しかしリーリエルはくじけなかった。持ち前の根性と、常識を遥かに超えた魔法能力で、まともな建物すら存在しなかった隣国を、たちまちのうちに強国へと成長させる。 そして、リーリエルは戻って来た。 政治の実権を握り、やりたい放題の振る舞いで国を乱す姉を打ち倒すために……

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

処理中です...