異世界から本物の聖女が来たからと、追い出された聖女は自由に生きたい! (完結)

深月カナメ

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十三

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 私たちは国境近くのアスール街に来ている。
 アタッシュケースを売り、手に入ったお金を持って服屋に向かっていた。

「服屋は後でいいから、たこ焼き食べようよ。丸く焼いた、あのたこ焼き食べたい。隣の串に鶏肉をさして炭火で焼く、焼き鳥でもいいよ!」

「はいはい、後でな」
「ニュ、ニュ」

 駄々っ子中のヒーラギの意見を無視して、ブランとスラは私の手を引き服屋に連れて行く。

 貧相な体だ……いま着ている服は十歳の時に買ってもらった、当時では大きなサイズだった襟付きのワンピース。屋敷で自分の部屋を漁り見つけて、与えられていた服を脱ぎサイズがピッタリで着替えて出てきた。

(身長は八年経っても余り伸びす、胸もない)

「私は古着でいいし、なんならブランのお下がりでもいいよ」

「俺のか……俺のは殆ど尻尾穴が空いているから見えるぞ」

 え、尻尾穴? 下着が見えちゃうの。
 ブランのお尻を見て納得した。

「結構大きな穴だわ。下着が丸見えなのは恥ずかしいね。わかった、動きやすそうなワンピースを買うよ」

「そうしろ、色はグリーン色な。いまから向かう、森に溶け込める様にした方がいい」

「うん、そうする」

 服屋を探して街の中を歩いていた。
 ブランが何かに反応して後ろを振り返る……しばらく見ていたけど『ふうっ』とため息を付いた。

「ヒーラギ、何者かが俺たちの後に着いてきている」

「え、誰?」
「周りを見るな……質商の奥にいた用心棒の奴らかな?  ヒーラギ、あのアタッシュケースは何処で手に入れたんだ?」

「あれは王子が廃棄しようとしたのを持ってきたのだけど、売っちゃまずかった?」

「悪くはないと思うが。何処かに王族のマークが入っていたか、王族しか使えない高級生地で作られていたのかもな。着いてきているベール連中はヒーラギを王女と間違えているのかも」

 私が王女?

 ヒーラギ、走るぞ! と、ブランに手を引かれて賑わう街の中を走る。路地に入り込み、私を胸に抱き寄せた。

「【身消し】」

 ブランが魔法を唱える。数人の足音が近付いて来ている、私は怖くてブランの服を掴んだ。

「ヒーラギ、安心しろ魔法で俺達の姿を消した……俺の魔力が足らないから使いたくなかったが、いまは仕方がない……ん? ヒーラギ、スラは声を出すなよ」

 コクコク頷くと、後を追ってきた男達の話し声がした。どうやら私達のすぐ側にいるらしい。

「アイツら、こっちに来たはずなんだがな。お前、本当にあの貧相な女は前聖女なのか?」

 私を貧相と言って、一人の男が声を上げた。

「ああ間違いねぇ、オイラが騎士団にいた頃に顔を見たことがある。あの顔で間違いない」

 男達の中に騎士団にいた者がいたんだ……魔物と戦う戦場で、ベールは邪魔になって付けていなかったから、顔を見られていたのね。

「俺達にもとうとう運が回ってきたな。最近はどこの国でも魔物が暴れていると騎士団にいた頃に聞いた……あの女を捕らえて隣国に売れば大金が入る、俺たちは一気に金持ちだ!」

「はぁ、金持ちになりてぇ。早く女を見つけようぜ!」

『ここにはいないな?』『あっちを探そう』と男達は走っていった。男達の足音が聞こえなくなってから話出した。


「行ったみたいですね」

「そうだな、奴らは騎士団崩れでヒーラギの顔を知っていたのか。よかった王族の連中ではなくこの街のゴロツキだな。……なぁヒーラギ、この国の結界はアトどれくらい持つんだ?」

「結界ですか? えーっと昨夜、舞踏会を出るときに一度強化したきりなので……今朝、お昼、夜に祈りをしていないのならもっても。後、数時間かな? ここでも祈りは出来るけど強化する?」

 ブランは首を横に振る。

「いいや、しなくていい。ヒーラギはこの国の聖女じゃねぇ、聖女はアリカという女性なんだろ……この国の結界が夜には消えてしまうのか……まあ結界が消えても直ぐに魔物は襲ってこないとは思うが。念には念だ、直ぐにこの街を立つぞ」

「ニュ!」
「はい!」

 私は姿消しのままで、ブランは服屋により妹の服だと言って買ってきた袋を渡される。中身はワンピース二着と、ブランに乗るための乗馬服だった。

 次に屋台によりたこ焼き、焼き鳥、コロッケ、食材を買ってブランの国へと旅立つ。街の反対側から出れば、国境はすぐ目の前なのだけど。

 ブランは国境とは全く違う、場所に行こうとする。

「国境は直ぐそこだけど?」

「それは人族の国境だ、俺達の国境というか国への出入り口はこっちなんだ。たこ焼き食べながら行こう」

「う、うん」

 と甘辛いタレとカツオ節がかかる、カリカリに焼かれた丸いたこ焼き。それを串にさしてパクッと食べると、外はカリカリで中はトロトロ、おネギと生姜? 出汁の風味と大きなタコという食べ物がはい出ていた。

「美味しい、カリカリでトロトロ、ジュワーってお出しがきいてる」

「トロトロの中に入ってる、ポルポ(タコ)はコリコリで美味いな」

「ニュ、ニュ」

「スラも美味いか」

 たこ焼き、焼き鳥を食べながら十二分歩き、国境の壁の途中で足を止めたブラン。

「確かここに師匠が作った、ゲートがあったはず。ここだ、ヒーラギ俺たちの国に行こう」

「ニュ」

「えっ、ええ?」

 驚く私の手を二人は引き、壁の中に入っていった。






 ヒーラギ達が国境を越えた夜。国の付近の森から、魔物の鳴く声が聞こえた。その声は段々と国へと近付いているように感じた。

「魔物が近付いてきている。アリカ、貴方の祈りで結界を張ってくれ」

「結界を張る? そんなこと、ワタシにはできないよ」

「はぁ? 君は聖女なんだろ? 祭壇で祈りを捧げてくれ!」

「違う、ワタシは癒しの聖女よ。結界を張るなんてできないわ、やっていたヒーラギを探しなさいよ」

 アリカはうるさいと部屋に篭ってしまった。
 この日一晩中、森から魔物の叫び声は続いたのだった。

 翌日、国境近くのアースルにでヒーラギにいたと、書いた書面が質商店から早馬が早朝に届く。王子は直ぐに騎士団を派遣するが、ヒーラギは見つからなかった。
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