異世界から本物の聖女が来たからと、追い出された聖女は自由に生きたい! (完結)

深月カナメ

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十二

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「ブラン?」
「ん、甘いな。よしこれで魔力が回復した……さてと行こう、ヒーラギ背中に乗って!」  

「う、うん」

 彼に魔力回復と言われて仕舞えば、いまから背に乗せてもらう私は怒れない。いや怒っても良いのだけど……慣れないことに頬は熱く、鼓動はドキドキうるさい。

(毎回、こんな魔力回復の仕方だと、私の心臓が持たないよ)

「どうした、ヒーラギ、乗らないの?」
「の、乗ります」

 ブランは私が乗りやすいように、目の前に伏せてくれた。私はスラ入りマジックバッグを肩にかけて、ブランのもふもふな背中に横座りで乗る。

「背中に乗りました。ブラン、よろしくお願いします」

「よろしく、まかされた!」
「ニュ、ニュ」

 いつの間にかマジックバッグの隙間から、顔を出していたスラ。『ハハハッ、スラも行こうな!』タッと地面を蹴り、ブランはアタッシュケースを口に咥えて風のように走りだした。


 軽快に畑道をブランは駆けていくと、ちらほら畑で作業をする人を見かけた、しかし彼らは作業に夢中なのか、私たちには気付かない。

「え、?」

(いま、すれ違ってもこっちを見なかったのね)

「ブラン、もしかして周りの人は、私達の姿が見てえいない?」

「ああ見えていないよ。獣化したときに大騒ぎにならないよう、姿消しの魔法をかけといたから」
 
「姿消しの魔法?」

「そう、いまの俺たちは頬を撫でる、通り風みたいなものだな」

「凄い……」

 通り風かそうよね。畑道の真ん中を大きくて真っ白い狼が走っているのだもの、姿が見えたらみんなは声を上げるか、腰を抜かしちゃうわね。

「ふふっ、風がとても気持ちいいわ」

 自分の身長よりも高い目線で遠くまでお米が実る田んぼが見渡せた。黄金色に輝く稲たち……私がこの国を出る、ほんの少しの間は祈りを捧げよう。今年も美味しいお米が採れて、美味しいおにぎりが作れますように、と。

 えっ、嘘。祈りの光はいつもより辺り一面にキラキラと降り注いだ。もしかして私の祈り力が上がっているの。それならと、もう一度、もう一度と走るブランの上で祈りを捧げた。

 この祈りの光は魔力を持つものしか見えていない。だから王族、上流貴族、騎士達には辺りにキラキラ光る『祈りの光』は見えない。


 もしかしたら聖職者の中に、見えていた者はいたかもしれないけど……

 彼らも初めは優しい言葉をかけてくれた。
 しかし八年も経てば慣れなのか、当たり前になったのか。ただ飯を食らい、お前は祈っているだけ。

 癒しの力で治せるのだから傷を治せ。
 らくしている癖に金ばっかり要求しやがって……と、色々言われてきた。

 ブランにはキラキラが見えたのか、彼は移動のスピードを落としてくれた。あなたには私の『祈りの力』は見えているんだね。
 
「ありがとう、ブラン」

「いいや、国境を越えるまではヒーラギの好きなようにすればいい。ただし、使い過ぎるなよ」

「ええ、わかっているわ」

 祈りの光は田んぼ一面にキラキラ輝いた。



 彼は休みなく走り、ものの数分で国境手前の街に着いた。乗ったときと同じく伏せてくれて降りると、ブランは『待っていて』と言い。近くの木陰で獣化を解き、耳と尻尾を隠した人型になって現れた。

「ブラン?」

 ただ、耳と尻尾がないだけで変わって見えてしまい、確かめるように彼の名前を呼び、目を座らせた彼におでこを人差し指で突っつかれた。

「うっ!」
「俺はブランだが。ここはまだ人族国の街だからな、俺の耳と尻尾は目立つ」

 と、ニシシッと笑って言った。

「ヒーラギ、スラ、行こう」
「うん」
「ニュ!」

 手を出した彼の手に自分の手を乗せた。

『アースル街へようこそ!』と、書かれた垂れ幕が掛かる門を通り抜けて、ブランとスラ、私は街の中へアタッシュケースを売りに質商に向った。

「ニュ」
「そうだな、美味そうな匂いがするな」

 カバンの中のスラと小さな声で話、私の手を繋ぎ街を歩く。八百屋、お肉屋、魚屋の客引きの声が響き。出店の焼き鳥、コロッケ、たこ焼、国境を越えた近くの国から輸入された、珍しい食べ物とお菓子が多く売られている、豊かな街。

 人々は楽しげに笑い、日々を笑顔で過ごしているようだ。

「ヒーラギ、質商だ」

 ブランが指さした紺色の暖簾。その真ん中に白丸の中に白文字で質と書かれた暖簾をくぐり質商に入る。入ったすぐに見える木製の帳場に座る、店主の前にアタッシュケースを取り出した。

「いらっしゃいませ、ミゾレ質商へようこそ」
「これを売りたいのですが?」

「はい、アタッシュケースですね。査定しますので、いましばらくお待ちください」

 店主はアタッシュケースを見るなり、愛用の虫眼鏡を取り出して外側と内側を詳しく査定した。

「これは一流の職人が手がけた良い品だ、15000マス(15000円)でいかがでしょうか?」

 15000か、思いのほか高く売れたかも。

「それでお願いします」

 実はこのアタッシュケースは王子が買ったもの、だけど彼は色が気に入らないと言って、捨てようとしていたものを内緒て貰ったのだ。

「ご来店ありがとうございました」

 いままでの迷惑料と慰謝料ということで、質商に買い取ってもらった。質商を後にして街中に戻った私は。

「ブラン、このお金でいるもの買いましょう」
「だったら、先に買うのはヒーラギの服だな」

「服?」

「ニュ!」

 スラも賛成のようだ。
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