異世界から本物の聖女が来たからと、追い出された聖女は自由に生きたい! (完結)

深月カナメ

文字の大きさ
上 下
9 / 30

しおりを挟む
「お嬢ちゃん、ここになんか用かい?」


 …ウサギは絶対絶命の危機に直面していた。



ーー遡ること数時間前


 いつも通り家の掃除、洗濯、諸々の仕事と、マローネからもらった野菜の苗に水をあげ、そろそろ昼食にしようとリビングに向かうと、

「…書類?」

 ネロには全く理解出来ない内容の書類がテーブルに置いてある。そしてご丁寧に提出日の日付も記載されており…。

「今日…だな」

 何回確認しても本日提出日の書類。それが目の前にある。
 理解はできないが内容的にアルジェントのものであろう。

(…これも使用人の仕事だよね、うん)

 普段お世話になっているアルジェントの困り事を見逃すわけにはいかない。
 自分が生活できているのは誰のおかげだ?アルジェント(雇用主)だ!!


 ということで、先日教えてもらったアルジェントの職場にこうしてビビり散らかしながら来たわけで…それが冒頭である。

 アルジェントの職場はデート(仮)の時に絶対近づかないと心に誓ったはずが…フラグの回収がとても早いネロである。


「ひぇ…」

 アルジェントよりも逞しくガタイの良いクマ獣人を前に早くも帰りたい気持ちが強くなる。
 
 プルプルと震え涙目になったネロと、急に泣きそうになるウサギに困惑顔のクマ。とてもカオスな絵面である。

「あ、あの…、アルジェント・コルティの使用人で…。書類を届けに参りました…」
「おお!副隊長の使用人か!それは失礼した。…オッケーついて来い!」

 辿々たどたどしく必死に伝えるネロの声は果たしてちゃんと聞こえたのだろうか。「書類を受け取ってくれるだけで良いのですが…」と言いたくとも言えないチキンなネロは、仕方なくクマ獣人の後を追う。
 
(……ん?今、副隊長って言った?)

 ネロは噂話などにも疎いので知らなかったわけだが…ああ見えてアルジェントは警備隊の副隊長、剣も体術も優秀、侯爵家の三男、それでいて独身。

 クールな性格で女性からのアプローチに全く靡かないが、逆にそれがいい!と王都中の女性に人気のイケメンなのである。アルジェント目当てで街に出る女性も居るほどだ。



 警備隊の職場は殆どが王都の警備に出ているため人は少ないが、たまにすれ違う隊員に珍しいモノを見るような目で見られてしまい、ネロはタジタジである。

 しばらく歩いた後、立派なドアをノックしスタスタと部屋に入って行くクマ。
 「置いて行かないで!!」と泣きそうになりながら必死について行くウサギ。

「副隊長、お客さんですよ~」
「ん?」
 
 執務室らしいその部屋の奥、立派な椅子にアルジェントが座っている。
 そんなアルジェントはネロを視界に入れると吃驚する。

「ネロ!?どうしてこんな所に…な、なんで泣きそうに…  このクマに何かされたのか?」
「副隊長人聞き悪いですって…」

 なぜか泣きそうな顔のネロが職場にいるため、アルジェントはとても動揺する。

 一方で、とても心配した顔でネロを慰めている副隊長に対し、
 普段の鬼副隊長はどうしたんだ…とクマも動揺した。


「…そうか、書類を持って来てくれたのか。態々すまなかった。ありがとう、助かったよ」

 にこやかにお礼を言っているオオカミを見ながらクマは思う。これは誰だ…と。
 普段の何事にも容赦のない超絶無慈悲な鬼副隊長と同一人物なのか…と。
 あ、これ見てはいけないものだ…と察し瞬時に空気に徹する。

「お役に立ててよかったです…!」

 アルジェントの役に立てたのは嬉しいが執務室の異様な
 雰囲気(ほぼクマによる)を感じ、ネロは思う、もう早く帰りたいと。
 そしてネロは気づく、クマが虚無顔になっていることを。




「じゃあ気をつけて帰るんだぞ。今日は早めに帰れると思うから」
「はい、お仕事頑張ってください!」


 こうしてその後オオカミはご機嫌で仕事をし、
 クマは死にそうな顔をしていたのであった。
 
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!

沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。 それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。 失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。 アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。 帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。 そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。 再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。 なんと、皇子は三つ子だった! アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。 しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。 アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。 一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。

聖女じゃないと追い出されたので、敵対国で錬金術師として生きていきます!

ぽっちゃりおっさん
恋愛
『お前は聖女ではない』と家族共々追い出された私達一家。 ほうほうの体で追い出され、逃げるようにして敵対していた国家に辿り着いた。 そこで私は重要な事に気が付いた。 私は聖女ではなく、錬金術師であった。 悔しさにまみれた、私は敵対国で力をつけ、私を追い出した国家に復讐を誓う!

聖女解任ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私はマリア、職業は大聖女。ダグラス王国の聖女のトップだ。そんな私にある日災難(婚約者)が災難(難癖を付け)を呼び、聖女を解任された。やった〜っ!悩み事が全て無くなったから、2度と聖女の職には戻らないわよっ!? 元聖女がやっと手に入れた自由を満喫するお話しです。

【完】聖女じゃないと言われたので、大好きな人と一緒に旅に出ます!

えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
 ミレニア王国にある名もなき村の貧しい少女のミリアは酒浸りの両親の代わりに家族や妹の世話を懸命にしていたが、その妹や周囲の子ども達からは蔑まれていた。  ミリアが八歳になり聖女の素質があるかどうかの儀式を受けると聖女見習いに選ばれた。娼館へ売り払おうとする母親から逃れマルクト神殿で聖女見習いとして修業することになり、更に聖女見習いから聖女候補者として王都の大神殿へと推薦された。しかし、王都の大神殿の聖女候補者は貴族令嬢ばかりで、平民のミリアは虐げられることに。  その頃、大神殿へ行商人見習いとしてやってきたテオと知り合い、見習いの新人同士励まし合い仲良くなっていく。  十五歳になるとミリアは次期聖女に選ばれヘンリー王太子と婚約することになった。しかし、ヘンリー王太子は平民のミリアを気に入らず婚約破棄をする機会を伺っていた。  そして、十八歳を迎えたミリアは王太子に婚約破棄と国外追放の命を受けて、全ての柵から解放される。 「これで私は自由だ。今度こそゆっくり眠って美味しいもの食べよう」  テオとずっと一緒にいろんな国に行ってみたいね。  21.11.7~8、ホットランキング・小説・恋愛部門で一位となりました! 皆様のおかげです。ありがとうございました。  ※「小説家になろう」さまにも掲載しております。  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

偽りの家族を辞めます!私は本当に愛する人と生きて行く!

ユウ
恋愛
伯爵令嬢のオリヴィアは平凡な令嬢だった。 社交界の華及ばれる姉と、国内でも随一の魔力を持つ妹を持つ。 対するオリヴィアは魔力は低く、容姿も平々凡々だった。 それでも家族を心から愛する優しい少女だったが、家族は常に姉を最優先にして、蔑ろにされ続けていた。 けれど、長女であり、第一王子殿下の婚約者である姉が特別視されるのは当然だと思っていた。 …ある大事件が起きるまで。 姉がある日突然婚約者に婚約破棄を告げられてしまったことにより、姉のマリアナを守るようになり、婚約者までもマリアナを優先するようになる。 両親や婚約者は傷心の姉の為ならば当然だと言う様に、蔑ろにするも耐え続けるが最中。 姉の婚約者を奪った噂の悪女と出会ってしまう。 しかしその少女は噂のような悪女ではなく… *** タイトルを変更しました。 指摘を下さった皆さん、ありがとうございます。

偽聖女の汚名を着せられ婚約破棄された元聖女ですが、『結界魔法』がことのほか便利なので魔獣の森でもふもふスローライフ始めます!

南田 此仁
恋愛
「システィーナ、今この場をもっておまえとの婚約を破棄する!」  パーティー会場で高らかに上がった声は、数瞬前まで婚約者だった王太子のもの。  王太子は続けて言う。  システィーナの妹こそが本物の聖女であり、システィーナは聖女を騙った罪人であると。  突然婚約者と聖女の肩書きを失ったシスティーナは、国外追放を言い渡されて故郷をも失うこととなった。  馬車も従者もなく、ただ一人自分を信じてついてきてくれた護衛騎士のダーナンとともに馬に乗って城を出る。  目指すは西の隣国。  八日間の旅を経て、国境の門を出た。しかし国外に出てもなお、見届け人たちは後をついてくる。  魔獣の森を迂回しようと進路を変えた瞬間。ついに彼らは剣を手に、こちらへと向かってきた。 「まずいな、このままじゃ追いつかれる……!」  多勢に無勢。  窮地のシスティーナは叫ぶ。 「魔獣の森に入って! 私の考えが正しければ、たぶん大丈夫だから!」 ■この三連休で完結します。14000文字程度の短編です。

二周目聖女は恋愛小説家! ~探されてますが、前世で断罪されたのでもう名乗り出ません~

今川幸乃
恋愛
下級貴族令嬢のイリスは聖女として国のために祈りを捧げていたが、陰謀により婚約者でもあった王子アレクセイに偽聖女であると断罪されて死んだ。 こんなことなら聖女に名乗り出なければ良かった、と思ったイリスは突如、聖女に名乗り出る直前に巻き戻ってしまう。 「絶対に名乗り出ない」と思うイリスは部屋に籠り、怪しまれないよう恋愛小説を書いているという嘘をついてしまう。 が、嘘をごまかすために仕方なく書き始めた恋愛小説はなぜかどんどん人気になっていく。 「恥ずかしいからむしろ誰にも読まれないで欲しいんだけど……」 一方そのころ、本物の聖女が現れないため王子アレクセイらは必死で聖女を探していた。 ※序盤の断罪以外はギャグ寄り。だいぶ前に書いたもののリメイク版です

召喚から外れたら、もふもふになりました?

みん
恋愛
私の名前は望月杏子。家が隣だと言う事で幼馴染みの梶原陽真とは腐れ縁で、高校も同じ。しかも、モテる。そんな陽真と仲が良い?と言うだけで目をつけられた私。 今日も女子達に嫌味を言われながら一緒に帰る事に。 すると、帰り道の途中で、私達の足下が光り出し、慌てる陽真に名前を呼ばれたが、間に居た子に突き飛ばされて─。 気が付いたら、1人、どこかの森の中に居た。しかも──もふもふになっていた!? 他視点による話もあります。 ❋今作品も、ゆるふわ設定となっております。独自の設定もあります。 メンタルも豆腐並みなので、軽い気持ちで読んで下さい❋

処理中です...