異世界から本物の聖女が来たからと、追い出された聖女は自由に生きたい! (完結)

深月カナメ

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「祈りを終えるとその聖女は城から馬車に乗り去っていった。跡を追おうとしたが、肝心な時に傷が開き動けなかったんだ」

 と、腹をさする彼に傷を治すだけで、瘴気を払う力が残っていなかった。そして私を闇雲に探して道端で力尽きた。私があなたを見つけられなかったら、どうする気だったのだろう。

「もし、私が見つからなかったらどうしての?」

 その問いに、彼はあっけらかんと笑って答えた。

「いやぁ俺はついてる。こうして聖女に会えて運がよかった」

「運が良かったって……」

「だってそうだろう? 俺の傷が治って聖女には会えた……いやぁヒーラギが人々を思いやれる聖女でよかったよ」

「私が人々を思いやれる聖女? 王城から役目を放り出して逃げできたのに?」

「役目を放りだしてか……クックク、それは置いといて。お前、ここに来るまでゆっくり移動しているだろ?」

(私がゆっくり移動していた? 彼はそれまで気付いたの)

「た、たまたまよ。たまたま移動手段がなかっただけよ」

「嘘だな、魔力を持つ俺にはわかる。倒れて傷で動けなくなった俺は温かな魔力を感じた。土地の浄化と作物の実りの願う、温かな魔力が移動してるってな」

 温かな魔力? そんな大したものじゃない。

「私は偽善者よ。自分が悪者になりたくないの、私が祈りを止めたせいで、この土地が枯れて欲しくないの。王族、上級貴族たちはどうなってもいいけど、悪者になりたくないじゃない」

「ケッ! その想い上がりが偽善者だヒーラギ。この国には何年も祈りを捧げ、癒し、怪我を治してきたお前ではなく、ポッとでの異世界人のアリカを次の聖女だと王族、聖職者、騎士団が決めたんだ。国民に何があったらヒーラギのせいではなく、そうした王族たちのせいた。聖女という肩書きがなくなったヒーラギは既に一市民だ。貴族だろうがなんだろうが王族に守られる立場だ、お前が一人で国民を心配して体を張らなくていいんだよ」

 えっ。体を張らなくていいんだと言った彼の言葉が心に響く。私はずっと逃げたいと思っていた"でも、私がいま祈りをやめたら?"と思うだけで怖かった。

 聖女でなくなった私は国王陛下、王妃、王子が決めた、聖女アリカに役目を任せていいんだ。

「私は自由になってもいいの?」

「いいんじゃね、なってもいいんじょねぇか? あっちにはあちらが決めた聖女がいる。その女性に任せて、ヒーラギは自由になればいい……まっ、俺の国は助けて欲しいけど」

 私は彼の国に行って彼の国を助けたい。

「わかった、あなたの国に行くわ。その前にあなたの名前を教えて」

「あ、そういや俺の自己紹介してなかったな。俺はゴルバック国の第三王子ブラン・ゴルバックだ、ブランと呼んでくれ」

 ゴルバック国の第三王子……王族。

「ブラン様、私の力がどれくらいお役に立てるかわかりませんが。よろしくお願いします」

 スカートを持って、彼にカテーシーをした。
 それを見たブランは口を尖らせて、もふもふな尻尾をブンブン振る。

「ヒーラギはかたっ苦しいな、ブランでいいよ。それも呼び捨てじゃないと俺は返事しねぇ。さて行くか」

「はい」

 と、返事したのだけど"キュルルルル"と私のお腹が盛大に鳴った。
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