異世界から本物の聖女が来たからと、追い出された聖女は自由に生きたい! (完結)

深月カナメ

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 ふわふわ、もふもふな物を軽く踏んだ。踏まれた白いふわふわは"キュウン"と力無く鳴いた。

「え、ええ、あ、ごめん。……大丈夫? え、小さな子犬?」

 この子犬はお腹に怪我をしているようで、グッタリして苦しげに息をしていた。犬同士の争いに負けたのか、はたまた猫にでも負けたのかな。
 触ろうとしたヒーラギに子犬は唸り声をあげ威嚇した。だけど、この道はいつ馬車、荷馬車が通るわからない畑道だ。

「お願い、私にあなたの怪我を直させて」
「キュー、キュー」

 嫌がる小さなモコモコを抱き上げて、道外れの木陰で癒しの力を使いお腹の怪我を癒やした。この子の怪我は酷い、鋭い爪で小さなお腹は引き裂かれていて、かすかに瘴気を感じた、この子は犬や猫ではなく魔物と戦ったんだ。

 こんな小さな子が魔物に襲われた……もう国の結界が薄れたの。空を見上げて結果を払うとして首を振る。もう私の役目ではないわ。大丈夫、私の代わりに聖女アリカがいるもの。

「キュ?」
「傷を癒してあげるね。お願い、この子の傷を癒して『ヒール』」

 私の力で徐々に塞がっていく引っ掻かれ傷。ヒールの魔法が終わり、傷が治った子犬はクリクリな瞳でキュンと鳴いた。

 これで安心だね。

「他に痛い場所ない?」
「キュン」
「ないのか、よかった。お腹すいていない? チーズを挟んだけどパン食べる?」
「キュン、キュン」

 食べると鳴いたのでバケットをちぎって渡すと、美味しそうにかぶりつき一瞬に平らげた。おお、この子は私と同じ食いしん坊かもしれない。食いしん坊仲間発見に喜んでいたら、子犬は残りのパンにもかぶりついた。

「あ! 君もよく食べるね。私にも少しちょうだい」
「キュン」

 残りのパンは半分こにして仲良く食べて、次におじさんに貰った桃をカバンから取り出して、携帯用のナイフで切って渡すと美味しそうに食べてくれた。

「桃、美味しい?」
「美味い、もっとくれ!」

「えっ、この子、人の言葉をしゃべったわ!」

 子犬が言葉を話した……もしかすると、この子はもしかしたら精霊か魔物かもしれない。この子に帰る家がなかったら私の話し相手に別荘に連れて行きたい。その為にこの桃をたらふく食べさせて……と思っていたのだがよく食べる、子犬。

 全部で五個あった桃のうちの三個では足りなかったみたいで、子犬は私の桃も欲しがった。

「これは私の桃です!」
「いいや、俺のだ」

 取り合いの末、一口残った桃を食べようとした私と、子犬の口と口がくっ付く。うわっ、初めてを子犬に奪われた……子犬は焦る私の口元をペロッと舐めた。

「お前の唇、桃のように甘いな。なぜだかわかないが俺の魔力も回復する」
「魔力? って、こら口を舐めないで、離れて!」

 と出した手もペロッと舐めて、子犬は徐々に大きくなり人型に変わった。百五十五センチの私よりも高い男性で、彼は自分のお腹の傷をペタペタ触った。

「魔物に受けた傷がどこにもない、傷痕もなしに綺麗に治っている」

「人の姿になった……」

 この子は獣人なの。そういえば魔族国の他に隣国には狼が収める、獣人の国があると本で読んだことがある、しかし彼らは人間を嫌い、憎み国境は開いていないから図鑑でしか見たことがなかった。ふわふわな耳とふんわりな尻尾可愛いけどこの人裸だ。全裸だ。青空の裸……

 彼の裸を見ないように後ろに向いた。でも私は成人男性の裸は騎士団達で慣れてる。騎士の彼らは全然気にせず天幕を張ったキャンプ地では鎧を脱ぎ裸で歩く。最初は子供だった私が大人になっても彼らは同じだった。

「俺の傷を魔法で治したな?」
「は、はい、治療師をしていましたから……」

「嘘つけ! あれは魔物に受けた瘴気を纏った傷だ……普通の癒しでは治らないはずだ」
 
 そうだった。

「え、えーっと」

 私が聖女だったことがバレた。
 私は捕まるの。
 また祈れと王城に閉じ込める。
 騎士団の遠征に着いて行け怪我を治せと言う。

 どれだけやっても周りは、聖女なのだから当たり前だと言ってやらせるの。

 私は文句を言わずにやってきた、でも新しい聖女が来て……私の力は要らないと言われて、私の役目が終わった。やっと外に出られて自由にもなれた、なにをしてもいいし、好きな物だって食べてもいい。

「顔色が悪いが平気か?」
「いや、近寄らないで!」

 私は戻らない。

「怖がらないでくれ、俺はあなたの力を借りたいんだ……お前が本物の聖女なんだろう?」

 男はそう言った。
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