異世界から本物の聖女が来たからと、追い出された聖女は自由に生きたい! (完結)

深月カナメ

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 ヒーラギはいま行商帰りのおじさんが操縦する、荷馬車の従者席に乗せてもらい、ゆったり畑道を移動していた。ちなみにアタッシュケースはおじさんのご好意で、荷車に乗ってせもらっている。

 どうしてこうなったのかは遡ること、数時間前――屋敷を出てアタッシュケースを手に持ち畑道を歩いていると、道端で荷馬車を脇に止めてうずくまるおじさんがいた。

 大丈夫かと近付き、ヒーラギはおじさんに声をかけた。

「どうかされました?」
「ん? あぁ腰をやっちまってね、痛みが引くのを待っているんだ」

 イテテと、顔を顰めて痛そうなおじさん……見捨てることができず、ヒーラギは辺りを見渡した後におじさんに話しかけた。

「よろしければ、私が治しましょうか?」
「え? あんた、そんなことができるのか?」
「少し前まで、王都で治療師をやっておりました」

「治療師? じゃーお願いします」

 治療師とはいい言葉だ――それにおじさんは私が元聖女だとは知らないだろう、聖女パレードの時は顔が貧相だとローデンに言われて、常にベールをかけられていた。

「ヒール」

 回復魔法の"ヒール"でおじさんの腰を治した。すぐに痛みがひき、動けるようになったおじさんにお礼だと、おじさんの村まで荷馬車に乗せてもらえることになった。

「ありがとうございます」
「お礼を言うのはオラの方だよ、ありがとう。お礼と言っちゃなんだが、母ちゃんが朝飯にって握ってくれたおにぎり食うかい?」

「おにぎり?」
「なんだ嬢ちゃんはおにぎりを知らないのか? 王都ではまだお米は食べられないのか……うまいのにな」

 おじさんにお米というものを炊いて、握ったおにぎりを貰った。

 ――この艶々した真っ白な食べ物はなに?

「いただきます」

 おにぎりはパン以外の主食なんだって知らなかった。
 城での食事は聖女は慎ましくとか言われて、硬いパンと少しの野菜、味の薄いスープだけだった。

 このお米、噛めば噛むほど甘くモチモチ食感で美味しい。おにぎりの中から出てきた赤いものはなに? う、すっ、酸っぱいけど美味しい。こっちはしょっぱいお魚? この茶色いものは噛めば噛むほど味がでて美味い。

「ハハハッ、無我夢中でおにぎりを食べているな。そんなに美味いか?」

「はい、とても美味しいです。このおにぎりの中からでてきた赤い食べ物は何ですか? あとしょっぱいお魚と、茶色い物も」

「ああ、それはな東の大陸で採れた梅を漬けた梅干しで、魚はシャケの塩漬けで、鰹節を醤油で和えたおかかのおにぎりだな」

「梅干し、シャケ、おかか……初めて聞くものばかり。どれも美味しくて、おじさんのおにぎりを三つも食べてしまいました」

 おじさんは笑って"いいよ"と言ってくれたけど。
 何かな足しになればと持ってきた、ローデンから貰った悪趣味なアクセサリーをお礼に渡した。おじさんは初めは高そうだからと驚いていたけど、母ちゃんへのプレゼントにすると言って受け取ってくれた。

「嬢ちゃん、オラの村に着いた。ちょっと、そこで待っていてくれ」

 おじさんは外に私をまたせて家に入っていき、次に出てくる時には手に大きな肩掛け鞄を持っていた。

「これ母ちゃんからのお礼だ、このまま持っていってくれ」
「こんなに沢山の食べ物と鞄まで貰っていいんでか? ……あの、おじさん……私にできる事ないですか? 癒ししかできませんが」

「うーん、それなら村のみんなにも声かけてくる」
 
 集まった村の人達を癒せば癒すほど、お礼にとお野菜、パン、おにぎり、果物を貰い革製の肩掛け鞄は終わる頃にはパンパンに膨らんだ。

「たくさんの食べ物、ありがとうございました」
「こちらこそ、みんなの怪我を癒やしてくれてありがとう、気を付けて行くんだぞ」

「はい、ありがとうございました」

 荷物は増えたけど平気だ。騎士団の遠征について回っていたから体力には自信がある、回復薬などの荷物を自分自身で運んでいたもの。

 村を出たけどだけど国境付近の別邸までは程遠い。運良く次の荷馬車か馬車が通るのを待ちながら、貰ったチーズを挟んだバケットを丸かじり畑道を歩いていた。

「王城、王都の外はこんなにも綺麗なんだ」

 黄金色に実るお米が採れると言っていた、田んぼを眺めていたら歩いていた。そんな足元に"ムニッと、柔らかくて、白いふんわりした物が落ちていた。
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