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幸せの帰り道

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 マント領ルース村からの帰り、私とレオさんは美味しいものを食べて、多くの国と街を見て回った。

 今日、泊まるのは歴史建造物が多く残る、古都ランシュ国の宿屋。荷車を宿屋に預けて、部屋のベッドでレオさんとまったりしていた。

「そうだ、レオさん。お昼に前を通った王都の中央に建つ古い時計台。あの時計台って幸せのパワースポットと言われているんだって。なんでも大昔、この国の王子様と平民の娘がお忍びで、愛を育んだ場所と言われているらしいの」

「愛を育むか。その王子と平民の娘は結ばれたの?」

「えぇ、2人の愛の深さに国王陛下が認めて、2人は祝福されて結婚したって宿屋の女将さんに聞いたわ」

「物語として残っているから、少し大袈裟に言っているかもしれないけど、最後は結ばれたのか良かった……」

 夕食と宿屋の料金を払いに行った時に、ここ王都で有名な時計台の恋物語だと宿屋の女将さんが話してくれた。王都ランシュ国の名物だから、時間があったら、見に行くといいよとも言ってくれた。

「それで……あの時計台の周りは人が多かったんだね。幸せのパワースポットか。ティーも登りたい?」

 そう聞かれて、隣に寝転ぶレオさんに首を横に振った。

「ううん、私はすでに幸せだから、時計台に登らなくてもいいよ。好きなレオさんが側にいるもの」

「ティーがそう言ってくれるのは嬉しいけど。女の子はその手の話好きだよね。同じ年代の子とそんな話しなかった?」

 同じ年代の子か……

「……レオさん、ルース村を見たよね。両親がいた頃も、今も、村の特産品の羊毛を売りに各国に出ていて、村に若い人が少ないの。唯一の幼馴染と言えば……男爵家のセジールお嬢様と、リオン君だけだった」
 
「えっ!」

「セジールお嬢様はお茶会など、貴族の集まりがあったらしいのだけど。私とリオン君はいつも2人で過ごしていたわ」

 だから、私がリオン君と仲が良いから。リオン君を好きな、セジールお嬢様にいつも目の敵にされていたなぁ。
 
『わたしのリオン君に近寄らないで!』

 昔を思い出して苦笑いをしていた。隣に寝転んでいたレオさんにティーと呼ばれて、ガシッと両手を掴まれた。

「レオさん?」

「明日、僕とあの時計台に登ろう! 少しの時間になるかもしれないけど……」

「レオさん、無理しなくていいよ。お土産屋さんで時計台の置物でも……買えばいいし」

「いや登る、国に帰るまでに、たくさん僕と思い出を作ろう」

「ほんと? ありがとうレオさん」

 本音を言うと少し気になっていた。女の子達が頬を赤らめ、恋人と手を繋いで、時計台に登っていたから。







 次の日。王都ランシュ国は雨が降っていた。そのおかげか時計台は人がまばらで、私たちが登ろうとしたとき人がおらず、2人きりの貸し切りになった。

「レオさん、見て! 王都全体に霧がかかって、とても神秘的だわ」

「そうだね。ティー、ランシュ国の城が見えるよ」

 時計台からは、城の石垣門が見えた。

「ほんとうだ。ねぇ、レオさん、なんだか私たちって王子と平民の娘のお忍びデートみたいだね」

 大昔、娘さんも好きな人と、この景色を眺めたのね。

「えぇー僕が王子か……ちょっと無理がある設定だ」

「そんな事ない、レオさんは私の王子様だよ」

 彼の手を取り、指を絡めて、人前だとまだ恥ずかしい恋人繋ぎをした。そのときローブのフードから見えた、レオさんの口元が嬉しそうにこうを描いていたの。
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