上 下
30 / 37

二十七

しおりを挟む
「……レオさん」

 私だけを一生涯、愛してくれるなんて嬉しい。
 その言葉が身に染みて、嬉しくって、にやけそうな顔を引き締めていた。そこにぷにっと、レオさんに頬を突っつかれる。

「……!」

 驚きで見上げると、目を細めて微笑むレオさんがいた。

「どうしたの? 照れた? ティーの頬があからんできたね。可愛いティーを君に見せたくないから、そろそろ街に戻ろうか?」

 もっと彼の指で、ぷに、ぷに、されて、ますます熱くなった頬で「はい」と頷いた。

「よし帰ろう! 今朝早く出たのにお昼過ぎちゃったね。街に戻ったら、食事にしょうか」

(もう、お昼過ぎ?)

 レオさんに言われるまで気付かなかった、早朝だった時刻はお昼を回っていた。

「そうしましょう、レオさん。男爵様、私たちはこれで失礼しますね」

 リオン君に礼をした。

 あっ、と彼の口元が何か言いたげに動き、私を見つめる彼の瞳の奥が哀しげに揺れた。何も知らない前の私だったら、手を伸ばしたかもしれないけど……

 リオン君への想いは吹っ切ってれいる。
 私はレオさんが好き、彼のお嫁さんになりたい。

「ティー、あのとき俺がちゃんとしていれば……君を失わずに済んだ、結婚だってしていたのに……ティー行くな、ティー俺の近くにいてよ」

 私をもう1度、掴もうと伸ばされた手と、絞り出した声。
 レオさんは渡さないと私の手を握り。

「今更、後悔してもあの日のティーは2度と戻らない。君は全てを受け止めて、前を向きなさい!」

「レオさんの言う通り、あの日には戻りません。セジール様と、生まれてくる子供を大切にしてあげて。……さようなら、リオン君」

「あ、あぁ、テ、ティー! 待って……待ってくれぇ!」

 行くなと叫び、泣き崩れるリオン君を家に置き外に出ると、外に村の人たちが集まっていた。村の人たちは私に何か言いだけだったけど……その人たちに挨拶だけをして、私とレオさんは村の門をくぐった。

「ティー、大丈夫?」

「大丈夫だよ。レオさん、行こっ」

 振り向かず、私たちは街に戻った。






 街に戻った私たちは昼食を軽く済ませた。夕食は戻って食べようと、街で色々買って宿屋に戻った。

 宿屋のテーブルに買ってきた、小麦粉の生地を薄く焼きお肉と野菜を巻いたもの、じゃがいもの丸揚げ、焼き鳥、ソーセージ、赤と白ワイン、エールを並べた。

 先にお風呂に入り、もふもふの姿に戻ったレオさんと、向かい合って座り。

「「いただきまーす!」」

 2人で乾杯して食事を始めた。私の両親のこと、村のこと、レオさんの両親の話。食事とお酒が進み、お酒に酔ってきた私たちは、お互いの何処が好きか言い始めた。

「私は……レオさんの全部好き、もふもふの姿も、お仕事に行く姿も!全部素敵。レオさんだーぁい好き、えへへ、言っちゃった」

「僕だって、ティーの全部好きだ! 僕を両手で抱きしめて下が見つめる顔が可愛い、寝ている顔も、寝起きも全部可愛い!」

 好きなところ言い合い合戦と、食事が終わり。紅茶を飲みながら結婚式の話、子供は何人欲しいか、など、たくさん2人で話をした。

 飲み終えたカップをテーブルに置き。
 並んで歯を磨いて。

「さて寝るか」

「寝ましょう」

 レオさんと同じベッドで眠る。
 眠りにつく前、レオさんは私を抱きしめながら。

「ティー、帰りはゆっくりいろんな国の景色や、美味しいものを食べて帰ろう」

「わぁ賛成、そうしましょう!」

「明日、何処を回るか決めよう」

「はい!」

 何処を回るか考えるだけでワクワクして、レオさんを見上げて笑った。
 私を見つめる彼の瞳が揺れて、彼の喉がゴクッと鳴る。

「ねぇ、ティー、キスしていい」

 ……はい、という代わりに瞳を閉じると、もふもふな、啄む、キスが降る。

「……んっ、レオ…さぁん」

「ティー……っ、可愛い。いますぐ、食べてしまいたい」

「レオさん……好き、ちゅっ、ちゅっ」

 私からのキスにピクッと、レオさんの動きが止まる。彼は息を吸い、深く吐いて、何かを堪える表情をした。

「はぁ、そんな可愛い顔をして僕を煽るなんて、はぁ……僕も好きだ、愛しているよティー。いまは我慢する、結婚したら毎晩覚悟してね」

 毎晩……レオさんに耳元で、甘く、囁かれた。

「お、お手柔らかにお願いします」

「なるべくそうするよ。ティーもっと側においで」

 彼の腕の中で、幸せを噛み締め眠った。



 次の日。

 ボーン、時刻を告げる鐘の音が聞こえる。
 ボーン、ボーン……鐘の音は12回鳴った。

「んー、もう、お昼?」

 隣のレオさんの慌てた声で目覚めた。

「レオさん?」

「ティー、寝坊した。僕たちはこの街をお昼前には出るはずだった……」

「えっ? あ、そうだった?」

「ふふっ、ティーはまだ眠そうだね。やっぱり、ここにきて旅の疲れが出たのかな? もう1日、この街で休んでから出発しようか」

「いいの? いいのなら、ふわぁ、もう少し寝てもいい?」

「うん、僕も寝る」

 緊張が解れたのか、それとも長旅の疲れがどっと出たのか、夕方過ぎまで2人仲良く寝ていた。

 目を覚ましたのは同時に、グウッーッと鳴ったお腹の音。
 時計を見れば、時刻は7時前。

「レオさん、お腹空きましたね」

「あぁ、お腹空いた……いまから街に食べに出るか? 宿屋の人に頼むか? ティーはどうしたい?」

「私ですか? 私は宿屋でレオさんとまったりしたいので、宿屋の人にサンドイッチと紅茶を頼みます」

「おぉ、それいいね」

「じゃ、私は宿屋の人にもう一泊分の料金と、夕飯を頼んできます」

 ベッドを抜けて、サンドイッチと紅茶を宿屋の人に頼みに向かった。







 宿屋に料金を払い。夕飯は部屋まで運ぶから待っていてと言われた。そして届いたサンドイッチは具たくさんな、バケットサンドイッチだった。

 テーブルに向かい合って、仲良くサンドイッチをかじる。このサンドイッチ、レオさんには良さそうな大きさだけど、私には大きく一口で具までかじれなかった。

「ティーの口は、小さな口だね」

「もう、レオさんが大きいだけです。んんっ、この燻製したハム美味しい! 野菜もシャキシャキ!」
 
「本当だ、美味しいね。帰りに燻製ハムとパンを買って帰ろう!」

「そうしましょう!」

 一つで満足なサンドイッチだった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

王家も我が家を馬鹿にしてますわよね

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:340pt お気に入り:189

使えないと言われ続けた悪役令嬢のその後

恋愛 / 完結 24h.ポイント:19,482pt お気に入り:51

異世界転生令嬢、出奔する

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:20,435pt お気に入り:13,930

義弟を虐げて殺される運命の悪役令嬢は何故か彼に溺愛される

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:85pt お気に入り:7,645

その骨には鎖がついていた(北海道開拓物語)

歴史・時代 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:0

処理中です...