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二十六

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 リオン君に手首を掴まれた。
 ここで感情的に声を上げてはダメ、彼が逆に感情的になるかもしれない。落ち着け、冷静に、冷静に、対処しないと。

 彼は私の左手の薬指にはまる、指輪を見て声を上げた。

「ティー、この指輪はなんだ!」

「これは旦那様から貰った指輪です」

「くそっ、こんな指輪なんて嵌めやがって! ティーに俺という婚約者がいるだろう? そんな指輪は捨てろ!」

「嫌っ!」

 彼に取られないように、私は指を握り締めて、嫌だと首を振った。

「私の大事な指輪に触れないで! 手首を離してください!」

 しかし、彼は手首を離す気がないらしく。
 爪が肌に食い込むくらいに、私の手首を力強く握った。

「……い、痛っ! 男爵様、お願いします。手首を離してください」

 何度、訴えても彼は手首を離さない。

(それは何故?)

 全部、全部、あなたのせいなのに! ……って、言ってしまいたいけど。言葉を飲み込み「離して!」と、だけ訴え続けた。

「ティー、こんな奴より俺が1番だろ?」

 そんなわけない……あなたは私を裏切っていた。
 両親のパン屋を継ぐため、街の料理学校に通っていたとき。私の知らないところで、セジールお嬢様と頻繁に会っていたのでしょう? 

 私の18歳の誕生日に結婚を破棄をした、あなたなんかを。
 いつまでも、好きでいるなんて思わないで!
 嫌い、嫌い、嫌い、リオン君なんて大嫌い。

 隣から……グルルルルッと小さく唸る音が聞こえた。

「失敬、男爵。僕の奥さんが嫌がっている、腕をそろそろ離してくれないかい?」

 それは怒気を含んだ声……レオさんは冷静にしながらいかっていた。
 彼を見つめれば、いつもは優しい琥珀色の瞳を細めて、リオン君を冷たく睨んている。

 リオン君も負けず、レオさんを睨み返して。

「はぁ? 奥さんだと? ティーはずっと俺のだ! ティーは俺以外を、好きになんてなるもんか!」


「お前、いい加減にしろ! 君はさっきから奥さんの話を聞かず、自分の都合の良いことしか言っていない。奥さんから君の話は聞いているよ。結婚の約束をしながら、他の女性と関係を持ち、奥さんの目の前で結婚したんだろ」


 レオさんの怒りの声に、たじろぐ、リオン君。

「あ、あ、あれは仕方がなかったんだ……ティーと会えなくて寂しいときに『大丈夫黙っている』からって、セジールは俺に体、胸をくっつけてきたんだ、男だったら仕方ないだろ! お前だって、そうなるに決まってる!」

 魅力的なセジール様。その女性からアプローチそれたら、男だから仕方がないというリオン君。私が女だからかもしれないけど、そのリオン君の言い訳はわからない。
 結婚を考えるほど愛する人がいるのに、誘われたからって、黙ってるからバレないって、他の人と体の関係を持つなんて……わからない。

 私は2年間ーーううん、もっと前から純粋に、あなただけが好きだった、愛してもいた。

 リオン君に結婚しようとプロポーズされたとき、どんなに嬉しかったか、どんなに舞い上がったか、あなたは知らないでしょう!

(……あ、ダメ)

 ぐっと歯を食いしばり力を込めた。
 この力を抜いたら涙が溢れてしまうから……

「こんな奴のために泣くな、ティー」

 レオさんを見つめれば。彼の瞳は呆れているような、信じられない、とリオン君を見下ろしていた。
 
「あのさ、それは君だけの考えだよね。浮気者の君と僕を一緒にしてもらっては困る。僕は絶対にならない、奥さん一筋だ、僕が愛しているのはティーだけだ!」

 私だけ……なんて、嬉しい言葉。私もレオさんだけを愛しています。優しく私を見つめるレオさんの琥珀色の瞳を見つめ返して、背伸びをして、彼の鼻と鼻を擦り合わせた。

「嘘だ、嘘だ、そんな事はない! お前もおれと同じだ! 絶対に同じなんだ! ティー、ごめん。行かないで……俺が悪かった」

 リオン君の掴んでいた手の力が緩まり、私はその手からするりと抜けだした。
 レオさんはすぐに、私を腕の中に引き寄せた。

「ティー!」

「レオさん!」


 リオン君は抱き合う私たちを見て、足元を崩して、床に膝をついた。 


「嫌だ、ティー……」


「もう、無理なの。あの日……あなたから離れてしまった心はもう戻らない。リオン君、私はあなただけが好きだった。あの時は悲しくて、辛くて、心はズダズダに引き裂かれた……そんな私を救ってくれたのがレオさんなの。見知らぬ私を側に置いてくれて、優しくしてくれた。優しい人から、気になる人……そして好きな人に、愛する人に変わったの」

「僕もだよ、ティー」

 レオさんはフード取り。
 自分は、人とは異なる種族だと、リオン君に明かした。

「僕は誓う。この僕の命を賭けてティーを守り、大切にする。君も奥さんと子供を大切にして欲しい」

 リオン君は、レオさんの姿を見て、瞳を大きく開いた。

「お、お前……その姿は獣人族か! ……セジールの父に習った、他の国には色んな種族がいると。そうか……ははっ、ははは、はははっ。くそっ……ティーなんて、いい人と巡り会ってんだよ。父は教えの中で言っていた。獣人族の愛は一つ、一生涯、番だけに注がれると……」

 ガクッと項垂れる、リオン君に。

「そうだ、僕の愛は一生涯、ティーだけに注ぐ」

 ティー、ただ1人に。
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