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十九

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 ウェディングドレスの試着が終わり。後には午後に仕事が終わると言っていた、レオさんをリコさんの店で待つだけとなった。

 時刻は10時過ぎ、リコさんのお店が開店する。
 リコさんの周りの他の店は早朝から出稼ぎに出ていたり、ギルドの依頼を受け冒険に出ていたりと、午後を過ぎだあたりから開くことが多い。

「リコさん、私もお手伝いします」

「あら、ティーちゃん助かるわ。この布を赤い棚にしまって、この花柄は青い棚にしまってね」

「分かりました」

 注文の商品を仕立てるリコさんの指示で、店の奥で布をしまっていた。11時過ぎチリリンとドアベルが鳴り、店にお客さんがいらっしゃった。

「お客様ね、私、接客に行ってくるから。ティーちゃんは休憩していて。キッチンに置いてあるものは、なんでも好きに使っていいからね」

「はい、お茶をもらいます」

「どうぞ。このお客様がお帰りになったら、お昼にしましょうね」

 彼女はそう言い残して店に出て行った。私はキッチンでお湯を沸かして、紅茶を2人分と軽く摘めるものを作っていた。


 ガシャン!


 ガラスの割れる音の後。「きゃぁー! やっ、あなた達なんですか? やめてください」お客様の対応に出て行った、リコさんの叫び声があがった。

(リコさん?)

 私はすぐさまお茶の準備をやめて店に出た。その私の目に飛び込んできた衝撃に、驚くしかなかった。

 ショーウィンドウのガラスは割れて、落ちて踏まれた手作りの服たち。そして複数の黒ずくめの男がリコさんを襲っていたのだ。

 こんな真っ昼間に強盗? 


「やめて! リコさんを離して!」


「ティーちゃん、来てはダメ!」


 そのリコさんの私を止める声は、私の耳に届かなかった。

「いたぞ!」

「アイリスお嬢様が連れてこいと、言っていたあいつだ! あの女だ!」

「捕まえろ!」

(アイリスお嬢様?)

 男達はリコさんを離して、今度は私に向かって手を伸ばした。この人たちの狙いは私? この人たちに捕まる。


「いやっ、離してぇぇ!」

 いくら暴れても男の太い腕からは逃れられない。黒ずくめの中1人の男が捕まる私に近付き。


「田舎娘が、お嬢様の想い人に手を出すからいけない」


 お嬢様の想い人?


「何、あなたは馬鹿な事を言っているの? レオとティーちゃん――2人は番なのよ! 愛し合う2人を邪魔しないで!」


「何が番だ! 愛し合うだと? うるさい亜人め、黙れ!」

 男はリコさんに酷い暴言を吐き、頬を平手打ちした。でも、リコさんはその男を睨みつけて。

「本当のことよ!」

「番だと愛だと、そんな事はどうでもいい! 貴様、殺されたいのか!」


 リコさんが男に胸ぐらを掴まれた、私は必死に動かせた手を動かし、男を止めようとした。

「やだ、やめて、リコさんに触らないで……リコさんは関係ないわ! 着いて行くからリコさんを離して!」

「ケッ! 前に言われなくてもそうするよ! 少し眠ってな!」

「……ぐっ、はぁっ!」


 私はみぞおちに拳をくらい気絶した。





 



「くそっ、離せ!」 


「お願い、お願いだから、ティーちゃんを連れて行かないで!」


 リコは男の足にしがみ付いたが、その腕を強引に離され、蹴られた。

「ぐっ」


「気持ち悪い亜人め! 邪魔だ、どけ! アイリスお嬢様はコイツだけ連れてくれば、いいと言っていた、行くぞ!」


「テ、ティーちゃん」


 男達はティーを連れて店を出て行く。
 荒らされた店に残されたリコ。彼女は重い体を動かして、奥路地にある雑貨屋モコの店に向かった。

 開店前の雑貨屋の扉を叩き、店主を呼んだ。

「モコ、いる? もおォォ!」

 奥で寛いでいた雑貨屋店主モコは、仲間リコの悲痛な声に、慌てて店を開け出てきた。

「ど、どうした? は? リコ?」

 頬を赤く腫らして、服は破けてボロボロなリコがいた。これは一大事だとモコはリコに近付いた。

「どうした? また人間にやられたのか?」

「うん、人間にやられた……私、守れなかった……あ、あぁ、ティーちゃんが……あ、アイリスに連れて行かれたの……この事を早く! レオに知らせて」

 アイリスにレオの番が拐われた!

「わ、分かった、ちょっと待っていろ」

 モコはリコを片手に抱きながら指笛をピィーッと鳴らした。その指笛を聞き、小さな動物たちが彼のもとに集まる。

「みんな集まってくれてありがとう。君たちに仕事だ、いま仕事に出ているレオと他の仲間を探して伝えて、ティーちゃんがアイリスに攫われたと! 集合場所は雑貨屋モコの店だ!」

 モコの周りに集まった、様々な動物達は鳴き声をあげて、王都の中を走りだした。

「リコ、すぐにレオがここに来る。いま、ヒールをかけるね」

「ありがとう。あんたが頼もしいよ。モコ」

「こういう時に僕の忌々しい力が役立って良かった、ティーちゃんをみんなで助けよう!」

 モコが放った動物達は様々な仲間に声をかけて走った。そして1番に伝えなくてはならないレオの元にも。この時、彼はギルドで受けた特殊雑草集めに屋敷近くの森に来ていた。

「ん? どうしたの? あぁ、モコのお友達のネズミくん」

 ネズミくんはレオの体を駆け上がり、彼に伝えた。

「チュ、チュチュ」

 その内容に毛を逆立て、レオの気が一挙に膨れ上がる。

「僕のティーがアイリスに拐われた? そして、仲間のリコも怪我をしただと……奴ら、僕の番に手を出すなんて、許せない」

 グルルルルッ、ガォォォーーン!

 その声は森の木々を揺らし、地響きを引き起こす、獣の声。レオの声は王都の仲間たちにも聞こえた。

「ふうっー……ネズミくん、伝えに来てくれてありがとう。君は僕のたてがみの中で捕まっていて、モコの店に急ごう!」

 モコのお友達は、雑貨屋モコの店に多くの同志を呼んでいた。その仲間の1人が震え上がり、みんなも口々に言う。

「いま、レオがキレたぞ」

「そんなのあたりまえだ、大切な番が拐われたんだ」

「だけど俺たちでは、キレたレオを抑えきれない」

 その中にいたレオの親友、狼のルフ。

「まあまあ、レオはキレちゃいるが何処か冷静だ。しかし、ことと次第ではアイリスの屋敷を破壊するかもな」

 みんなは顔を青くしてそうだなと頷く。たが、大切な嫁が拐われれば俺たちもそうなるさと、ルフは言った。
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