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一
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ここは、男爵クレクス・マント様がおさめる領地ーー羊飼が多く住むルース村。
この村に住む人達は羊毛から紡ぎ毛糸を作り、そこから毛織物を織っている。
春には菜の花が咲き。
夏にはひまわり畑。
秋には紅葉。
冬には白銀の世界が一面に広がる。
大きな大陸の北の隅にある山間の長閑な小さな村。短い夏の時期が終わりを告げ、九月になる頃には、朝晩は肌寒く感じるようになってきた。
私の家は村の中央にある一軒の煉瓦造りの平屋建て。その一部屋で私は丸椅子に座り、黙々と押し寄せてくる疲れと眠気と闘い、針と糸を動かしていた。
最後のひと針を縫い終わり、布の裏を玉結びを留めて手を下ろした。
「や、やったー、やっと出来た。後は細かい箇所を手直しをすれば完成だわ!」
出来上がったばかりの真っ白なベールを胸に抱いて部屋の中で踊った。
明日の結婚式に着る、真っ白なワンピースはクローゼットの中。テーブルの上には造花の白い花とピンクの花を使用して、作ったブーケと花冠が置かれている。
「不器用な、私にしては上手く出来た方ね!」
自画自賛しつつ、ほっとひと息をついた束の間、部屋に掛かる柱時計の鐘の音が五回鳴った。
「あーーっ、もう時間だ! 早く、急がないとバイトに遅れちゃう!」
裁縫具箱を片付けて、バタバタと音を出しながら、家の中を駆け回る。
(帽子に、スカーフ後は靴下!)
この慌てふためく私は、この村に住むティーラ十七歳、村のみんなはティーと愛称で呼んでくれる。バイトに出る用意を済ませて、タンスの上に置いた写真立ての中の、両親に朝の挨拶をした。
「お父さん、お母さんおはよう! バイトに行って来るね」
寒さ対策の帽子に厚手の羊毛スカーフを首に巻き、破れた箇所を自分でほつった着古しのワンピース。毛糸のパンツに、厚手のストッキングにもこもこ靴下。
足元には履き慣れた革のブーツを履いて、舗装されていない道を足早に進む。
少し行くと手芸店が見えて来る。
「ティーちゃんおはよう。寒くなって来たね」
「おはようございます、サヤおばちゃん、ほんと寒くなりましたねぇ、温かくして風邪に気をつけてください!」
サヤおばちゃんはゆっくり頷き。
「はい、はい。ティーちゃん、あんたもだよぉ」
「おばちゃん、ありがとう。気をつけるね」
歩けば朝の挨拶が飛んでくる。小さな村だからみんなとは顔なじみ。
茶色のおさげ髪に薄茶色の瞳、私は何処にでもいる田舎娘だ。
「ティーちゃん、おはよう!」
「おはようございます」
村のみんなは優しくしてくれるお陰で、両親がいなくても平気になる事が出来た。
私の両親は十三歳の時に、二人共にお空で輝くお星様になった。
生前お父さんは毛糸や毛織物を他の国に売りに行く行商をしていた。その出向いた国で流行病に倒れた。お父さんを迎えに出たお母さんも、その国で流行り病に倒れて二人共に失った。
泣き喚き、悲しみに暮れる私の側にずっと寄り添ってくれた、大好きな彼のお嫁さんに明日なる。その日の為にダイエットをしたし、髪のお手入れにお肌の手入れもした、お化粧だって練習をした。
(リオン君、明日が待ち遠しいねー)
十五歳の頃から、彼の両親がこの村で営むパン屋でバイトをしている。去年彼と婚約してからはパン作りを習い。お店の経営の勉強も始めた。
この村一番の美味しいパン屋には、大勢のお客さんが買いにこの村にやって来る。
坂の上の煉瓦造りのお店に小走りに近くと、お店からは焼きたての香ばしいパン香りがした。
私はこの香りが大好き。お店の近くで足を止めて身体中で吸い込む。
「はぁー、今日は朝ごはん抜きだからーお腹空いたなぁ」
早くお昼ご飯が待ち遠しい。お店で焼き立ての好きなパンを選んで、ミルクたっぷりカフェオレ。
ふわふわで、もちもちな食パンにはイチゴジャム。
あんこたっぷりのあんぱん。
クリームが滑らかクリームパン。
サクサクな、クロワッサンにもっちりロールパン。
お店の一番人気の手作りコッペパンにキャベツに、ぶ厚いソーセージが挟んであって、たっぷりのチーズとケチャップが掛かったホットドッグ。
シャキシャキ採れたての野菜と、ハムにチーズを挟んだサンドイッチ。
サンドイッチ使われる野菜は彼の両親の畑で作り、採りたてをサンドイッチにしている。ジャムだってもちろん手作りで、私もミリおばさんに作り方を教わった。
「さて、今日も頑張るぞ!」 と、お店の裏口に回り込み、元気よく扉を開けた。
「ヤナおじさん、ミリおばさん。おはようございます」
「ティーちゃん、おはよう」
パンの仕込みを厨房でする、ヤナおじさんとミリおばさん。
「おはよう、ティーちゃん。来て早々に悪いんだけど、裏の畑でレタスと人参二つずつ採ってきて」
「わかりました! 畑に行ってきます」
返事を返してエプロンを付けて裏口近くの大きな畑に向う。その畑では季節ごとに色んな野菜を栽培していてる。私もお店が休みの日には畑に来て、おばさんとおじさんと一緒に草むしりや、種植えのお手伝いをして余ったお野菜を貰っている。
ミリおばさんに言われた通り裏の畑でレタスと人参を収穫して、野菜に付いている土を近くの小川で洗い流して店に戻った。
「ミリおばさん! レタスと人参を採ってきました」
「ありがとうティちゃん。入り口近くのカゴに入れておいて、いまパンが焼きあがるからホールの準備をよろしくね」
「はーい、わかりました」
彼は十五歳から十七歳までの二年間。村から離れた街の料理学校に行っていた。
料理学校を卒業してからは、マント様のお屋敷で働く料理人見習をしているけど、私と結婚をしてからはパン屋を継ぐと言っていた。
彼の仕事が休みの日には、一緒にパン屋の手伝いしている。
私は彼が作るお菓子が大好き。ショートケーキにバタークッキーやビスケット、マカロンにガトーショコラを記念日にはいつも作ってくれた。
彼の事や明日の事を考えて、お店の準備の手が止まる。
そこに、ミリおばさんが焼きたてのパンにを持って、ホールやって来た。
「ティーちゃん! パンが焼き上がったからお店に並べていって…ほら、ティーちゃんぼーっとしない」
「あっ、すみません」
「まぁー浮かれちゃうのはわかるけど、しっかりねぇ」
「頑張りまーす!」
ミリおばさんから焼き立てのパンを受け取り、トングを握りカゴにパンを並べた。
今日の私は浮かれている。どうしても明日の結婚式の事を考えてしまう。
いまから一年前の私の誕生日の日に、ビシッと正装をした彼は、家の前で跪いて私にプロポーズをしてくれた。
『ティー、来年の今日の日に、俺と結婚をしてください』
『はい、喜んでリオン君』
花束と指輪を喜んで受け取った。近くのご近所さん達も出てきて、みんなは私達を祝福をしてくれた。
大好きな彼は「披露宴は次の日に村のみんなを呼んで盛大にやろう」と言い。
明日は教会で二人だけの結婚式となった。
「ティー」
彼は仕事が終わったのか、パン屋の前を掃き掃除する私の側に来た。
「あっ、リオン君お疲れ様」
「お疲れ様。ちょっといい? ティーに…話があるんだ」
「えっ、何? もう少しでお店の片付けが終わるけど…」
「そっかーいつもの場所で待ってる」
「うん。終わったら、すぐに行くね」
小さい頃からよく待ち合わせをした、村の東寄りにある、小さな小川の橋の上で会う約束をした。
(明日の結婚式の話かな?)
バイトが終わり橋の上で待つ、彼の側に駆け寄った。
「リオン君お待たせ。おばさんに余ったパンを貰って来ちゃった」
「ティー…お疲れ様」
橋の上で待つ彼に近づくと、その表情はいつもより、沈んいるように見えた。
「リオン君?」
話があると言っていたのに何も言わない、どうしたのと聞こうとすると、彼はいきなり頭を下げた。
「ティー、ごめん。俺は君と結婚出来ない!」
「えっ、結婚出来ない? どうして? 明日、私達は結婚をするのでしょう?」
彼に詰め寄って聞くと、私から目をそらした。
「「ごめん、ティーの他に好きな人が出来たんだ!」」
彼は私を押し除けて帰って言った。
♢ ♢
その後にどうやって帰ったかは分からないけど、気付いたら家のベッドに寝ていた。
「十八歳の誕生日か…」
コンコン、コンコン。
朝早く誰かが来たのか玄関を叩く音がした。
いまは誰にも会いたくないと、居留守を使ったけど、何度も玄関を叩かれる。
(もしかしたら、リオン君が戻って来た?)
涙を拭き急いで扉を開けると、そこには青い顔をしたおばさんが立っていた。
私を見ると詰め寄りって来た、おばさんからはパンの匂いがした。
好きだった匂いがいまは辛い。
「ティーちゃん! ごめんね、うちの子が…こんなことをするなんて……ごめんなさい」
おばさんのこの表情を見てこれは、嘘ではなく本当のことなんだと再度、現実を突きつけられた…
「訳が分かりません。ミリおばさん…説明をして下さい」
「あの子何も言わなかったの? 訳も言わずにいきなりティーちゃんに、いきなり結婚を辞めるとを言ったの…」
私はゆっくり頷いた。
「訳が聞きたい。話してください」
「ティーちゃんには……辛い話になるけどいいの?」
「これ以上辛いことなんてないです。理由を知りたい…ただ、それだけです」
私の言葉にミリおばさんは頷きゆっくりと話し出した、彼の恋の相手はマント様の一人娘で同い年の十八歳。ふわふわピンクの髪に胸の大きなスタイルのいい子。
小さい時から私とリオン君が一緒にいると、割り込んできたうるさいお嬢様だ。
♢ ♢
おばちゃんの話ではセジールお嬢様は彼が通う、料理の学校がある街にまで会いに来ていた。
わたしの知らないうちに、二人は仲良くなっていたんだ。
そんなことを知らないわたしが彼にプロポーズされて、喜ぶ姿を見る為に二人で話し合い騙したの?
「酷いわ。好きな人が出来たのなら早く言えば良かったのに…わざわざ、プロポーズまでして騙すなんて」
「ティーちゃん、ごめんなさい」
「おばちゃんは謝らないで悪いのは二人だもの。そっか……わたしは騙されていたのかー。中途半端ですがバイトを辞めます、いままでありがとうございました」
私はおばちゃんに深く頭を下げた。
おばちゃんは私がそう言い出す事が分かっていたのか、胸元のポケットから茶封筒を取り出した。
「これ、少ないけど…ティーちゃんのバイト代」
それを受け取ると、いつも貰うバイトのお金よりも、多く入っているみたいだ。これからのこともあるし私は遠慮なく貰った。
帰り間際におばちゃんは、両親が写った写真立てを見て、悲しい表情をした。
「ああ、カリヤとシラカに顔向けができないよ。ごめんね」
「大丈夫、両親も仕方ないと言っていますよ。おばちゃんありがとう」
おばちゃんは何度も頭を下げて帰って行った。一人になると、ずっしりと心に重りがついた様だ。二人で騙すなんて酷い。
「もう、これもいらない」
今朝まで作っていた、ベールにブーケに花冠を棚から取り、ゴミ箱に投げ込もうとしたけど…
投げれず……胸に仕舞い、泣きじゃくった。
この村に住む人達は羊毛から紡ぎ毛糸を作り、そこから毛織物を織っている。
春には菜の花が咲き。
夏にはひまわり畑。
秋には紅葉。
冬には白銀の世界が一面に広がる。
大きな大陸の北の隅にある山間の長閑な小さな村。短い夏の時期が終わりを告げ、九月になる頃には、朝晩は肌寒く感じるようになってきた。
私の家は村の中央にある一軒の煉瓦造りの平屋建て。その一部屋で私は丸椅子に座り、黙々と押し寄せてくる疲れと眠気と闘い、針と糸を動かしていた。
最後のひと針を縫い終わり、布の裏を玉結びを留めて手を下ろした。
「や、やったー、やっと出来た。後は細かい箇所を手直しをすれば完成だわ!」
出来上がったばかりの真っ白なベールを胸に抱いて部屋の中で踊った。
明日の結婚式に着る、真っ白なワンピースはクローゼットの中。テーブルの上には造花の白い花とピンクの花を使用して、作ったブーケと花冠が置かれている。
「不器用な、私にしては上手く出来た方ね!」
自画自賛しつつ、ほっとひと息をついた束の間、部屋に掛かる柱時計の鐘の音が五回鳴った。
「あーーっ、もう時間だ! 早く、急がないとバイトに遅れちゃう!」
裁縫具箱を片付けて、バタバタと音を出しながら、家の中を駆け回る。
(帽子に、スカーフ後は靴下!)
この慌てふためく私は、この村に住むティーラ十七歳、村のみんなはティーと愛称で呼んでくれる。バイトに出る用意を済ませて、タンスの上に置いた写真立ての中の、両親に朝の挨拶をした。
「お父さん、お母さんおはよう! バイトに行って来るね」
寒さ対策の帽子に厚手の羊毛スカーフを首に巻き、破れた箇所を自分でほつった着古しのワンピース。毛糸のパンツに、厚手のストッキングにもこもこ靴下。
足元には履き慣れた革のブーツを履いて、舗装されていない道を足早に進む。
少し行くと手芸店が見えて来る。
「ティーちゃんおはよう。寒くなって来たね」
「おはようございます、サヤおばちゃん、ほんと寒くなりましたねぇ、温かくして風邪に気をつけてください!」
サヤおばちゃんはゆっくり頷き。
「はい、はい。ティーちゃん、あんたもだよぉ」
「おばちゃん、ありがとう。気をつけるね」
歩けば朝の挨拶が飛んでくる。小さな村だからみんなとは顔なじみ。
茶色のおさげ髪に薄茶色の瞳、私は何処にでもいる田舎娘だ。
「ティーちゃん、おはよう!」
「おはようございます」
村のみんなは優しくしてくれるお陰で、両親がいなくても平気になる事が出来た。
私の両親は十三歳の時に、二人共にお空で輝くお星様になった。
生前お父さんは毛糸や毛織物を他の国に売りに行く行商をしていた。その出向いた国で流行病に倒れた。お父さんを迎えに出たお母さんも、その国で流行り病に倒れて二人共に失った。
泣き喚き、悲しみに暮れる私の側にずっと寄り添ってくれた、大好きな彼のお嫁さんに明日なる。その日の為にダイエットをしたし、髪のお手入れにお肌の手入れもした、お化粧だって練習をした。
(リオン君、明日が待ち遠しいねー)
十五歳の頃から、彼の両親がこの村で営むパン屋でバイトをしている。去年彼と婚約してからはパン作りを習い。お店の経営の勉強も始めた。
この村一番の美味しいパン屋には、大勢のお客さんが買いにこの村にやって来る。
坂の上の煉瓦造りのお店に小走りに近くと、お店からは焼きたての香ばしいパン香りがした。
私はこの香りが大好き。お店の近くで足を止めて身体中で吸い込む。
「はぁー、今日は朝ごはん抜きだからーお腹空いたなぁ」
早くお昼ご飯が待ち遠しい。お店で焼き立ての好きなパンを選んで、ミルクたっぷりカフェオレ。
ふわふわで、もちもちな食パンにはイチゴジャム。
あんこたっぷりのあんぱん。
クリームが滑らかクリームパン。
サクサクな、クロワッサンにもっちりロールパン。
お店の一番人気の手作りコッペパンにキャベツに、ぶ厚いソーセージが挟んであって、たっぷりのチーズとケチャップが掛かったホットドッグ。
シャキシャキ採れたての野菜と、ハムにチーズを挟んだサンドイッチ。
サンドイッチ使われる野菜は彼の両親の畑で作り、採りたてをサンドイッチにしている。ジャムだってもちろん手作りで、私もミリおばさんに作り方を教わった。
「さて、今日も頑張るぞ!」 と、お店の裏口に回り込み、元気よく扉を開けた。
「ヤナおじさん、ミリおばさん。おはようございます」
「ティーちゃん、おはよう」
パンの仕込みを厨房でする、ヤナおじさんとミリおばさん。
「おはよう、ティーちゃん。来て早々に悪いんだけど、裏の畑でレタスと人参二つずつ採ってきて」
「わかりました! 畑に行ってきます」
返事を返してエプロンを付けて裏口近くの大きな畑に向う。その畑では季節ごとに色んな野菜を栽培していてる。私もお店が休みの日には畑に来て、おばさんとおじさんと一緒に草むしりや、種植えのお手伝いをして余ったお野菜を貰っている。
ミリおばさんに言われた通り裏の畑でレタスと人参を収穫して、野菜に付いている土を近くの小川で洗い流して店に戻った。
「ミリおばさん! レタスと人参を採ってきました」
「ありがとうティちゃん。入り口近くのカゴに入れておいて、いまパンが焼きあがるからホールの準備をよろしくね」
「はーい、わかりました」
彼は十五歳から十七歳までの二年間。村から離れた街の料理学校に行っていた。
料理学校を卒業してからは、マント様のお屋敷で働く料理人見習をしているけど、私と結婚をしてからはパン屋を継ぐと言っていた。
彼の仕事が休みの日には、一緒にパン屋の手伝いしている。
私は彼が作るお菓子が大好き。ショートケーキにバタークッキーやビスケット、マカロンにガトーショコラを記念日にはいつも作ってくれた。
彼の事や明日の事を考えて、お店の準備の手が止まる。
そこに、ミリおばさんが焼きたてのパンにを持って、ホールやって来た。
「ティーちゃん! パンが焼き上がったからお店に並べていって…ほら、ティーちゃんぼーっとしない」
「あっ、すみません」
「まぁー浮かれちゃうのはわかるけど、しっかりねぇ」
「頑張りまーす!」
ミリおばさんから焼き立てのパンを受け取り、トングを握りカゴにパンを並べた。
今日の私は浮かれている。どうしても明日の結婚式の事を考えてしまう。
いまから一年前の私の誕生日の日に、ビシッと正装をした彼は、家の前で跪いて私にプロポーズをしてくれた。
『ティー、来年の今日の日に、俺と結婚をしてください』
『はい、喜んでリオン君』
花束と指輪を喜んで受け取った。近くのご近所さん達も出てきて、みんなは私達を祝福をしてくれた。
大好きな彼は「披露宴は次の日に村のみんなを呼んで盛大にやろう」と言い。
明日は教会で二人だけの結婚式となった。
「ティー」
彼は仕事が終わったのか、パン屋の前を掃き掃除する私の側に来た。
「あっ、リオン君お疲れ様」
「お疲れ様。ちょっといい? ティーに…話があるんだ」
「えっ、何? もう少しでお店の片付けが終わるけど…」
「そっかーいつもの場所で待ってる」
「うん。終わったら、すぐに行くね」
小さい頃からよく待ち合わせをした、村の東寄りにある、小さな小川の橋の上で会う約束をした。
(明日の結婚式の話かな?)
バイトが終わり橋の上で待つ、彼の側に駆け寄った。
「リオン君お待たせ。おばさんに余ったパンを貰って来ちゃった」
「ティー…お疲れ様」
橋の上で待つ彼に近づくと、その表情はいつもより、沈んいるように見えた。
「リオン君?」
話があると言っていたのに何も言わない、どうしたのと聞こうとすると、彼はいきなり頭を下げた。
「ティー、ごめん。俺は君と結婚出来ない!」
「えっ、結婚出来ない? どうして? 明日、私達は結婚をするのでしょう?」
彼に詰め寄って聞くと、私から目をそらした。
「「ごめん、ティーの他に好きな人が出来たんだ!」」
彼は私を押し除けて帰って言った。
♢ ♢
その後にどうやって帰ったかは分からないけど、気付いたら家のベッドに寝ていた。
「十八歳の誕生日か…」
コンコン、コンコン。
朝早く誰かが来たのか玄関を叩く音がした。
いまは誰にも会いたくないと、居留守を使ったけど、何度も玄関を叩かれる。
(もしかしたら、リオン君が戻って来た?)
涙を拭き急いで扉を開けると、そこには青い顔をしたおばさんが立っていた。
私を見ると詰め寄りって来た、おばさんからはパンの匂いがした。
好きだった匂いがいまは辛い。
「ティーちゃん! ごめんね、うちの子が…こんなことをするなんて……ごめんなさい」
おばさんのこの表情を見てこれは、嘘ではなく本当のことなんだと再度、現実を突きつけられた…
「訳が分かりません。ミリおばさん…説明をして下さい」
「あの子何も言わなかったの? 訳も言わずにいきなりティーちゃんに、いきなり結婚を辞めるとを言ったの…」
私はゆっくり頷いた。
「訳が聞きたい。話してください」
「ティーちゃんには……辛い話になるけどいいの?」
「これ以上辛いことなんてないです。理由を知りたい…ただ、それだけです」
私の言葉にミリおばさんは頷きゆっくりと話し出した、彼の恋の相手はマント様の一人娘で同い年の十八歳。ふわふわピンクの髪に胸の大きなスタイルのいい子。
小さい時から私とリオン君が一緒にいると、割り込んできたうるさいお嬢様だ。
♢ ♢
おばちゃんの話ではセジールお嬢様は彼が通う、料理の学校がある街にまで会いに来ていた。
わたしの知らないうちに、二人は仲良くなっていたんだ。
そんなことを知らないわたしが彼にプロポーズされて、喜ぶ姿を見る為に二人で話し合い騙したの?
「酷いわ。好きな人が出来たのなら早く言えば良かったのに…わざわざ、プロポーズまでして騙すなんて」
「ティーちゃん、ごめんなさい」
「おばちゃんは謝らないで悪いのは二人だもの。そっか……わたしは騙されていたのかー。中途半端ですがバイトを辞めます、いままでありがとうございました」
私はおばちゃんに深く頭を下げた。
おばちゃんは私がそう言い出す事が分かっていたのか、胸元のポケットから茶封筒を取り出した。
「これ、少ないけど…ティーちゃんのバイト代」
それを受け取ると、いつも貰うバイトのお金よりも、多く入っているみたいだ。これからのこともあるし私は遠慮なく貰った。
帰り間際におばちゃんは、両親が写った写真立てを見て、悲しい表情をした。
「ああ、カリヤとシラカに顔向けができないよ。ごめんね」
「大丈夫、両親も仕方ないと言っていますよ。おばちゃんありがとう」
おばちゃんは何度も頭を下げて帰って行った。一人になると、ずっしりと心に重りがついた様だ。二人で騙すなんて酷い。
「もう、これもいらない」
今朝まで作っていた、ベールにブーケに花冠を棚から取り、ゴミ箱に投げ込もうとしたけど…
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