悪霊令嬢、渋々生まれ変わったら悪霊になるきっかけになった元婚約者の孫に溺愛されました

甘寧

文字の大きさ
上 下
16 / 17

想い……そして、別れ……

しおりを挟む
あの大雨から数十日後。
街もようやく落ち着きを取り戻しいつもの風景に戻ってきた。
アイザックの傷は医者も驚くほどの大怪我だったらしく、生きているのが不思議だと言われたとイアン伝いに聞いた。

(ライがいなきゃ死んでいた)

いつものように自分のベッドの上でヨダレを垂らしながら眠る肥満スズメに感謝しながら頭を撫でた。

そんなアイザックだが、一向に私の元に姿を現さない。
聞いたところによると、騎士団には復帰しているらしい。

(何なの?傷が治ったら礼をするって言ってなかった?)

別に待ってなんかいないけど、貰えるものは貰っときたいじゃない……

悶々とした気分を晴らそうと外に出た。
そして、いつもの木に登り街を眺めていた。

そよそよと風を気持ちよく、思わず木の幹に体を預け目を瞑った。
しばらく目を瞑って風を感じていると、人の気配がした。

「──そんな所で眠っていると危ないですよ?」

木の下から声がかかった。
その声は、待っていた人の声。
私は飛び起き下を見ると、その姿を捉えた。

「……アイ……ザック……?」

「全く、お転婆なのは結構ですが、程々にしてくださいね。私の心臓が持ちません」

優しく微笑むのは紛れもなく、アイザックその人だった。

私は目頭が熱くなったがグッと堪え、気づいたら飛び降りてた。

「──うわっ!!」

私を慌てて受け止めてくれたアイザックと共に地面に転がった。

「大丈夫ですか!?どうしたんです!?いきなり飛び降りて……」

何も言わずにアイザックの胸に抱かれている私が心配になったようで、アイザックが問いかけていた。

(本当にアイザックだ……)

その温もりを感じ、生きていることを確かめた。
ゆっくり顔を上げると、私の顔を見たアイザックが驚いているのがわかった。

何をそんなに驚いているのかと疑問だったが、頬を伝う感触に私が泣いていることに気づいた。

「……あれ?」

堪えたはずなのにおかしいな。と思いながら必死に目を擦るがとめどなく溢れる涙は止まらない。
すると、必死に擦っている手をアイザックが止めた。
そして、優しく目尻にキスをしてきた。

「──なっ!!!」

一瞬で涙が止まった。その代わり一瞬で顔が沸騰した。

「──すみません。可愛らしくてつい」

クスッとイタズラに笑ったアイザックだがその顔を見ても、もう闇には呑まれない。

ムッと膨れている私に、すぐに来れなかった理由を教えてくれた。

「すみません。もっと早くに来たかったのですが、街の被害が大きくて復興に時間がかかってしまいました」

「寂しかったですか?」と微笑みながら付け加えられた。

「そ、そんな事ないわよ!!煩いのがいなくて清々していたところよ」

「ふふっ。シンシアは本当に嘘が下手ですね」

顔を背けて機嫌の悪いように振舞っている私の頬に優しく手が添えられた。

「──シンシア。祖父と同じ顔をしている私を嫌っているのは分かっています。それでも、私は貴方から目が離せない。いっその事死んでしまえば貴方が喜んでくれるだろうかと思いましたが、泣いている貴方を見てその考えが愚かな事だと知らされました。私は貴方を笑顔にしたい。生涯貴方だけを思うと誓います。ですから、どうか私と同じ道を歩んでくれませんか?」

真剣な顔で伝えられたアイザックの想い。
私はダロンの時の事が思い出された。
あの時、あいつも私を生涯愛すると誓っていた。
しかし、その愛は偽物だった。
じゃあ、目の前のこの人は?

また私を裏切る?愛なんて都合のいい言葉並べれば女なんてイチコロだって思ってる?

(ううん。この人はそんな人じゃない……)

正直、信用していいのか分からない。……けど、信用したい自分もいる。

(もう一度、人を信じてみようかしら……)

これで裏切られたらライにお願いして魂を消滅してもらおう。
二度も裏切られたら、人として生きる事が辛い。

(もう一度だけ……)

私は差し出されていたアイザックの手を取った。
アイザックは喜び、私を持ち上げそのままキスを交わした……


◆◆◆


「遂に……お前が結婚……ズビッ……」

「ちょっと、鼻水で汚さないでよ?」

今日は私とアイザックの婚礼式。
目の前には涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃの肥満スズメ。

「……ねぇ、わたしの婚礼式が終わったらライは天界に戻るの?」

ずっと思っていた。
ライは私が悪霊になるのを防ぐ為にやって来た。
だけど、その私がこうして本当に信じ合える人と出逢えた。
きっと、もう大丈夫……だと思う。
そうなれば、元々神様のライは人間界にいる必要はなくなる……

(ヤダな……)

随分と長い付き合いになったからか、離れるのが寂しいと思ってしまった。

「……あぁ。仮にも私は神だからな……」

分かってた。分かってたけど、やっぱり寂しい。
自然と涙が込み上げてきた。

(最近の私は涙脆いな)

「そんなに泣くな。私はいつも天界からお前の事を見ている。……だから悪霊なんぞになるなよ?」

いつの間にか本来の姿に戻ったライに優しく頭を撫でられた。

「──ふふっ。今度はちゃんと人生を全うしてから天界に行くわよ」

その言葉を聞いたライは安心したのか、優しく微笑み光と共に姿を消していった。

消える間際、最後に「結婚おめでとう。幸せにな」と私に伝えていった……

「……式の最後までいなさいよ。バカスズメ……」

天に向かって呟いた。



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
【本編完結・番外編不定期更新】 エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

【完結】勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野
恋愛
 難病に罹り、15歳で人生を終えた私。  だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?  でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!  ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?  1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。  ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!  主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!  愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。  予告なく痛々しい、残酷な描写あり。  サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。  小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。  こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。  本編完結。番外編を順次公開していきます。  最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!

美杉。祝、サレ妻コミカライズ化
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』  そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。  目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。  なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。  元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。  ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。  いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。  なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。  このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。  悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。  ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

処理中です...