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急募です

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婚約適齢期。それは貴族の令嬢ならば誰しもが通る道。
大抵の方達は既に婚約相手を見つけて婚約を結んでいる。
しかし、シュツェル伯爵家の娘である私、ミーリアム・シュツェルは適齢期を過ぎても尚、婚約には至っていない。
それは何故か。
理由は簡単。どの令息も私の好みじゃないから。

しかし、このままではお父様に無理やり婚約を結ばれそうなので、私は強行手段に出た。

「ミーリ!!ミーリアム!!これはどういう事!?」
「あら、お姉様」

物凄い勢いで部屋に飛び込んできたのは二つ上の姉、アネット・シュツェル。
その手には紙が握りしめられている。

「『あら』じゃないわよ!!何なのこれは!!」

バンッ!!と机に置かれたのは、私が数日前に発行したもの。その中身は……




『急募     

シュツェル伯爵家の令嬢ミーリアムの婚約相手を募集します。

筋肉質で大きな体格をお持ちの方、肉体に自信のある方、この機会にお待ちしております。

家柄、学歴、年収不問。
私を愛してくれるお方だと尚可。

※但し、年齢45歳以上に限る。

                            ミーリアム・シュツェル』




「見ての通り、婚約相手の募集ですが?」
「なに呑気に言ってるの!!貴方、貴族の令嬢なのよ!?婚約相手を募集するってどういう了見なの!!」
「仕方ないじゃないですか、私のお眼鏡にかなう相手がいないんですもの」

この募集を見て分かるように、私の好みはガチムチ体型の45のおじ様だ。

幼い頃から私の好みはガチムチのおじ様。
周りの令嬢達が王子様を目で追っている中、私は後ろで控えている騎士に目が奪われた。
初恋は鍛冶屋のおじさん。
汗だくで熱された鉄を打つ姿に一目惚れし足繁く通ったが、お姉様にバレてしまい暫く屋敷に軟禁された。
その軟禁中におじさんは結婚相手を見つけて、いつの間にか既婚者になっていた。

まあ、その結婚相手もきっとお姉様の差し金だろう。
お姉様は私の好みを中々理解してくれない。

「ミーリ、いい加減目を覚ましなさい」
「お姉様こそ、おじ様の素晴らしさを理解した方がいいわ」

お姉様は必死におじ様の好感度を下げようとしてくる。

「いい事、おじさんと一緒になったっていい事ないのよ?体臭は臭いし」
「体臭はフェロモンです。香水臭いそこら辺の殿方より余っ程素敵な匂いです」
「息も臭いのよ!?」
「口臭など、食べ物を食べている限り臭うのは当たり前のことです」
「一々説教くさいし」
「私の事をちゃんと見てくださってる証拠じゃないですか」

ああ言えばこう言うで、論破を繰り返した。

そろそろ止めないと、お姉様のおじ様批判の言葉に中年の使用人達がダメージを受け床に倒れ込み再起不能になりつつある。

「あぁ~~~もう!!分かったわよ!!そんなに言うなら、私を納得できるおじさんを連れてきなさい!!」
「お姉様に納得して頂かなくとも……」
「黙らっしゃい!!お父様とお母様はこの募集を見て泡を吹いて倒れちゃったのよ!?貴方の婚約者はわたくしがしっかり品定めさせていただきます!!」

それだけ言うとお姉様は部屋を出て行った。
お父様とお母様には悪い事をしたと思っているが、何も倒れることはなかったんじゃないだろうか。
私は幼い頃から散々おじ様と結婚すると断言していたのだから。

「しかし、まあ、こんな紙切れ一枚で集まるとも思えないけどね」

募集の紙をヒラヒラしながら呟いた。


※※※※※※


さて、やって参りました面接当日。
あまり期待はしていないが、一応おめかしだけはしておく。

そして、面接会場という名の応接間へと足を進めた。
いつもは何の気なしに開ける扉が、今日に限っては重く感じる。
ドキドキしながら扉に手をかけ、ゆっくり開けた。

「……………」

部屋の中は、ガラーンとした空間が広がっていた。人の気配はない。

そんな気はしてたけど、いざ目の当たりにするとちょっと凹む。

(お姉様の嘲笑う顔が目に浮かぶわね)

自らあんな紙を貼り出すってことはシュツェル家の令嬢わたしは訳あり令嬢だと思われたって事だよね。

確かにその通りなんだけどさ。

けど、この張り紙作戦が最終の砦だったのは違いない訳でその砦が崩れた今、私に残された
選択肢は二つ。
一つはお父様の決めた相手と婚約する。
二つ目は結婚そのものを諦めて修道院に入るか。

「究極の選択だわ」

お父様の決めた相手ならば家柄も顔も性格も申し分ないだろう。ただ、軟弱で歳も差程変わらない方を見つけてくるだろう。

(同年代なんて青臭くて絶対イヤ)

かと言って修道院は恋愛ご法度。
恋愛をしてみたい私にとっては地獄のような環境だ。

「う~~~ん」と唸っていると、ドタドタドタとこちらに向かってくる足音が聞こえた。

「すまない、面接会場はここか!?」

バンッと扉が開かれ、入ってきたのは騎士の制服を身にまとったおじ様騎士だった。

その体つきは服を着ていてもよく分かるほど筋肉質で、綺麗な逆三角形な肉体美。
歳は45~46だろうか。あまり歳を感じさせない容姿にも目を引かれた。
ざっくり言うと、私好みのイケおじが舞い込んで来たという事。

「採用!!!!!!」
「は?」

面接するまでもない。こんなイケおじ早々お目にかかれない。この機会を逃してなるものか。

「貴方にします!!いえ、貴方と是非結婚がしたいです!!」
「ははは、まさか私が選ばれるとは思ってもなかったな……」

目の前のおじ様は戸惑ったように笑いながら言っていた。
その笑顔も素敵。

「しかし、そんな簡単に結婚相手を決めるものじゃない。私が悪いやつだったらどうする?」
「貴方になら騙されてもいい」
「参ったな……」

これは本気でそう思った。
私の言葉に再び戸惑った表情を見せたが、私の本気度が伝わったのか、溜息を吐き履歴書なるものを見せてきた。

「まずは私の事を知ってから考えてくれ」

履歴書なんて見たところでこの気持ちは変わらないと言うのに……と思いながら履歴書に目を通した。
名はアイヴァン・ウェブスター。歳は48歳だった。経歴もいい。

(……ん?)

経歴を見ていて、ある場所で目が止まった。
そこには、騎士団長就任の文字が……

思わず顔を上げ、おじ様の顔をまじまじ見た。
私の視線に気がついたおじ様はニカッといい笑顔を返してくれた。

思わず頬が熱くなり顔を背けてしまったが、間違いない。この人は団長様だ。

団長様と言葉を交わしたことは無いが、何度か姿を見たことはあった。
凱旋パレードや、国王陛下の後ろで護衛に付いている姿などを見ていた。
その都度、お近付きになりたいと思っていた。
しかし、伯爵位の令嬢には団長様との接点を持つことは難しく、いつしかその想いも諦めていた。
まさか、こんな出会いが訪れるとも知らないで。

「採用!!!!」
「……その言葉、二度目だな」

こんなの断る理由がない。
団長様の気が変わらない内に婚約を結んでしまいたい。

「さあ、さあ、早く誓約書にサインしましょう」
「ちょっと待ってくれ」

腕を掴み、婚約の誓約書を書かせようとしたらまさかのストップがかかった。
もしかして、もう気が変わってしまったのだろうか?こんなにがっつく令嬢は嫌い?

「貴方は本当に私でいいのか?」
「え?」
「私はこの歳まで仕事一筋で恋愛をしたことが無い。その……募集には貴方を愛してくれる方がいいと……」

確かに、私を愛してくれる方がいいに決まっている。
けど逆に相手も少しは私に興味を持ってくれるはず。
何より、目の前のこの人を逃がす訳には行かない。

「私はアイヴァン様を愛する自信ありません」
「自分の親よりも上の男を?」
「ええ。アイヴァン様は私に愛されればいいのです。そして、愛されるとはどういう事なのか、愛するとはどういう事なのかを知ればいいのです」

私はアイヴァン様の手を取り、目を見ながら伝えた。
アイヴァン様はほんの一瞬だけ驚いた表情をしたが、すぐに優しい微笑みを浮かべながら「参った」と白旗を上げた。
この瞬間、私の婚約者が決定した。

その場では平静を装っていた私だが、内心どれだけ嬉しかったことか。
脳内では花火が打ち上がりお祭り騒ぎだ。

アイヴァン様の気が変わらぬ内に誓約書を書かせ、後に引けない状況にしてからお姉様と両親にアイヴァン様を紹介した。

寝込んでいた両親は再び気を失い、お姉様は空いた口が塞がらないほど驚いていた。
流石のお姉様も団長様が相手では何も言えず、唇を噛み締めながらも承諾してくれた。




※※※※※※




「ミーリ、どうしたんだい?」
「いえ、貴方と出会った時の事を思い出してて」

数年後、アイヴァンは婚約者から夫になった。

私は婚約者になった次の日からしつこいぐらいにアイヴァンの元を訪れ、その分厚い胸板に抱きついたり鍛え抜かれた上腕二頭筋を触りまくるという婚約者の特権をフルに利用した。
恋愛初心者のアイヴァンは私の奇行に最初は戸惑っていたが、次第に慣れていきアイヴァンから抱きしめてくれることもあった。

そうして、少しずつ柔軟されたアイヴァンは今ではすっかり私の虜りになった。

「あの時は本当に運が良かった。部下の奴が面白半分で持ってきたものが自分の人生を大きく変えるとはな」
「ふふ、それを言うなら私だって運が良かったわ。貴方と出逢えたんですもの」

アイヴァンに寄り添いながらそう伝えた。
アイヴァンは私のお腹に手を当てて愛おしいそうに優しく微笑んでいる。

「これからも、私に愛を教えてくれるかい?」
「勿論よ。貴方は私に愛されてればいいのだから」
「私の愛も受け取って貰わなければ困るな」
「ふふふっ。この子にあげる愛も取っておかなきゃでしょ?」
「私の愛は溢れるほどあるから大丈夫だ」

優しく微笑む最愛の夫に私も自然と頬が緩む。
正直、こんなにも愛してくれるとは思いもしなかった。
けど、アイヴァンの愛に嘘偽りない。真っ直ぐとした愛を私に注いでくれる。
その愛が心地よくて愛おしい。

「これから先も、君とこの子を生涯愛すると誓おう……愛してる、ミーリ。私の愛しい人」
「私もよ。愛してるわ、アイヴァン。私の可愛い人」

因みに、この私の婚約者探しは伝説となり何年にも渡り語りつがれたのは言うまでもない……

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