上 下
119 / 177
墓荒らし

1

しおりを挟む
エンバレク国に戻って二週間ほど経ちました。

着いてすぐに私は殿下に呼び出され、荷解きも程々に殿下の元へ参りますと「連絡が遅い」と文句を言われました。
どうやらルーナはしっかり殿下に届けてくれた様です。

しかも書かれた内容にまでケチを付け出し、最終的にはオスカー様に「わざわざ報告をくれたマリーに何たる態度だ!!」と怒鳴られておりました。

まあ『あと二日したら、そちらへ向かいます』としか書きませんでしたし、名目は家族旅行なので下手な事は言えなかったのも事実。

「……で、どうだったの旅行とやらは?」

「えぇ、大変充実した日々でした」

まあ、変わったことと言えば家族仲間が増えて帰ってきた事ぐらいですね。

「……変な虫付けてこなかったでしょうね?」

「は?」

殿下の言葉で不意にユリウス様の事を思い出し、顔が熱くなりました。
目ざとい殿下は当然、気づきました。

「マリー!!何があったの!!貴方が顔を赤らめるなんて相当の事よ!!」

飛び掛りそうな殿下をオスカー様が必死に止めてくれています。

──まったく、思い出したくない事を思い出させてくれましたね……

「マリー!!早く言いなさい!!」

「……特に何もありませんよ。まあ、敢えて言うならちょっと格の高い犬に噛まれた事ですかね?」

そう伝えても納得しない殿下はギャーギャー煩いです。

「いい加減にしろ!!マリーだって子供じゃないんだ!!男の一人二人はいるだろ!!」

オスカー様の一言で、殿下はフラフラと机に突っ伏してしまいました。
すると、オスカー様が私に目配せで「今の内だ」と伝えてきたので、お辞儀で返し執務室を後にしました。

一悶着ありましたが、無事殿下に帰国の挨拶を終えたました。
次に私はテレザ様の元へ行き、長期休暇のお礼を伝えお土産を渡し侍女復帰を果たしました。

そして、本日。
いつもの様に中庭で大量の洗濯物を干している最中です。
空を仰ぐと元気よく飛び回るルーナの姿が目に映り、思わず頬が緩みます。

──平和ですね……

「あれ?マリーじゃん」

木の上から声がかかりました。

──久しぶりに聞く声ですね。

「……お久しぶりです。エルさん」

「家族旅行行ってたんだって?楽しかった?」

エルさんは木にぶら下がりながら私に問いかけてきました。
相変わらず、この方は暇なようです。

「えぇ。それなりに楽しかったですよ」

「あ~あ、僕も行きたかったなぁ」

ピョンッと木から下り、地面に横たわりながら仰いました。

「それは無理ですね」

「分かってるよ。家族水入らずな所を邪魔するほど常識外れじゃなあからね」

一応の常識は弁えているみたいで少し安心しました。

「──……そう言えばさ。毒蜘蛛って知ってる?結構有名な暗殺集団なんだけど。確かグロッサ国が本拠地なんだよ。マリーもグロッサ国行ってたんだよね?」

エルさんの口から毒蜘蛛と言う単語が発せられ、ドキッとしました。

「……いえ?確かにグロッサ国に行っておりましたが毒蜘蛛と言うのは、知りませんね」

疑われないよう冷静を装う事に必死ですが、内心ドキドキです。

「……ふ~ん。その暗殺集団がついこの間、壊滅させられたらしいんだよねぇ。……門に落ちてた毒蜘蛛の奴に何を聞いても喋らないし、僕らもお手上げだったんだけどさ」

門に落ちていた毒蜘蛛とは、ネリさんのお母様を助け出す際に捕まえた方ですね。
すみません。忘れてました。

「ぶっちゃけ。アイツらを壊滅させれるなんて、普通の騎士じゃ無理だね。皆一流の殺し屋だから。そうなると、一体何処の誰だろうね……?」

チラッとこちらを見ながら言われるので、気が気じゃありません。
ここは、知らぬ存ぜぬを貫き通すまで。

「──さあ?私は、騎士でもなければ隠密でもありません。ただの侍女です。そんな私が知りえる情報など、朝昼晩の献立ぐらいですよ?」

──ですからこの話は終わりして、どこかへ行ってください。

「……ふ~ん……」

未だに目を逸らさずこちら見ているので、心臓に悪いです。
私はできるだけ目を合わせないように、洗濯物を干すのに集中します。

「──……まあ、そうだよね。マリーに聞いても分かんないか……」

そう口にするとエルさんは飛び起き、伸びをした後屈伸をし「じゃあ、僕そろそろ行くよ」と手をヒラヒラ振ってこの場を離れようとしました。

「──あっ、そう言えば。最近墓荒らしが出没してるらしくて、危ないから墓には近寄らない方がいいよ~」

最後に一言言われると、すぐに姿を消してしまいました。

──墓荒らしですか……

死人眠る方を掘り起こすとは、悪趣味にも程がありますね……
まあ、私には関係ありませんが。

そう思いながら、まだまだ籠いっぱいにある洗濯物に手を伸ばしました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

【完結】壊死回生〜寝てたら異世界に転移しちゃってた!?ならここでスローライフ始めます~

都築稔
ファンタジー
瑞田明里は現代社会に疲れ果て、逃げ出す気力もなく毎日を過ごしていた。いつもの如く眠りについて、目が醒めると・・・ここはどこ?!知らない家に知らない青年。もしかしてこれは、第二の人生を始めるにはいいチャンスかも?のんびり、たまに刺激的に、スローライフ始めます!

冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます

里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。 だが実は、誰にも言えない理由があり…。 ※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。 全28話で完結。

ひめさまはおうちにかえりたい

あかね
ファンタジー
政略結婚と言えど、これはない。帰ろう。とヴァージニアは決めた。故郷の兄に気に入らなかったら潰して帰ってこいと言われ嫁いだお姫様が、王冠を手にするまでのお話。(おうちにかえりたい編)

華都のローズマリー

みるくてぃー
ファンタジー
ひょんな事から前世の記憶が蘇った私、アリス・デュランタン。意地悪な義兄に『超』貧乏騎士爵家を追い出され、無一文の状態で妹と一緒に王都へ向かうが、そこは若い女性には厳しすぎる世界。一時は妹の為に身売りの覚悟をするも、気づけば何故か王都で人気のスィーツショップを経営することに。えっ、私この世界のお金の単位って全然わからないんですけど!?これは初めて見たお金が金貨の山だったという金銭感覚ゼロ、ハチャメチャ少女のラブ?コメディな物語。 新たなお仕事シリーズ第一弾、不定期掲載にて始めます!

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます

今野綾
ファンタジー
住んでいた村が襲われ家族も住む場所も失ったアリシャ。助けてくれた村に住むことに決めた。 アリシャはいつの間にか宿っていた力に次第に気づいて…… 表紙 チルヲさん 出てくる料理は架空のものです 造語もあります11/9 参考にしている本 中世ヨーロッパの農村の生活 中世ヨーロッパを生きる 中世ヨーロッパの都市の生活 中世ヨーロッパの暮らし 中世ヨーロッパのレシピ wikipediaなど

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

処理中です...