上 下
9 / 11

認めた気持ち

しおりを挟む
「──なっ!?」

掴まれた手の先を見ると「ヒュッ」と思わず息を飲む程殺気めいたジークの姿があった。

しかし、そのジークを恐れずエリックは私の手をジークから離し、私の肩を抱きしめた。

「団長様ともあろうお方が、無闇に女性に触れるとは如何なものでしょうかね?それに、貴方は今殿下の護衛中では?」

この人強いなぁ。
ジークの殺気を受けて、平然としているんだもの。

ジークは相変わらず殺気を隠そうとはせず、エリックを睨みつけている。

「──護衛の件は殿下に了承を得ております。私はそこのイレーナ嬢に話があるのですが、宜しいでしょうか?」

「それは無理ですね。今私はイレーナ嬢に求婚しているところなんです。答えを聞くまではイレーナ嬢は渡せません」

二人とも笑顔でやり取りをしているが、挟まれている私からすれば、虎と龍が睨み合っているようにしか見えない。

(余所でやってくれませんかね?)

私が溜息を吐いていると、はっと気づいた。
私達の周りには野次馬の人集りができ始めていたのだ。
こんな所で注目を浴びたくない私はエリックに「すみません!!求婚の話は少し考えさせて下さい!!」と伝え、ジークの手を取り会場から足早に去った。
後ろからエリックが私を名を叫んでいた様だが、あんな針のむしろな場所にいられるわけが無い。

ジークは私の手を振りほどこうとはせず、黙って付いてきてくれている。
そして人気ない中庭に着くとジークの手を解き、睨みつけた。

「一体何なんです!?嫌がらせですか!?」

「嫌がらせなんて心外ですね。元はと言えば貴方が悪いのですよ?」

いつもの笑みはなく、真剣な表情で私に語りかけてきた。

「最初に貴方に求婚したのは私のはずです。なのに、私の求婚を断ったあげく、あんな男の元に嫁ぐのですか?」

「いや、貴方にはニーナがいるでしょ?」なんて、そんな事は言えない。

「──……あぁ、それとも……イレーナ嬢はあの様な軟弱な男が好みなんですかね?」

クスッと嫌味ったらしく言われた。
流石の私でもカチンとくる。

(三ヶ月も音沙汰の無かった男が今更なんなのよ!!)

「あら?ご存知ないんですか?エリック様って結構人気があるのですよ??」

エリックを庇った挙句、ジークを実名で呼んだことで機嫌が悪くなり、苛立った様子が見て取れた。

「そもそも、三ヶ月も連絡をよこさない貴方にエリック様のことをどうこう言われる筋合いはありませんわ」

私がそう続けると、ジークは苛立っているのも忘れて目を見開いて驚いた様子だった。

(え?なに?)

「……それは、私の連絡を待っていたと言う事ですか?」

(しまった!!)

失言だと気づいた時にはもう遅い。
ジークの方を見ると、ジークは手で顔を覆いながら指の隙間からこちらを見てくる。
心做しか顔が赤いように見えるが、気のせいだろうか?

「い、いえ、待っていたと言う訳ではなく……そ、それよりも!!私はエリック様とのお話がありますから戻りますね!!」

慌ててこの場から立ち去ろうと、踵を返した所でパシッと手を掴まれた。

「──……私よりもあの男を取るのですか?……そんなにあの男を気に入っているのですか?」

気に入るも何も、今日初めて会った人間にその様な感情は持てない。
ただ、当たり障りない人だから結婚するなら丁度良いと思ったぐらいだし。

まあ、多少は令嬢達から何か言われるだろうが、ジークよりはマシだと思う。
ジークの人気は桁外れだから、一緒にいただけでも大事だ。

そんな事を考えていると、何も喋らない私に痺れを切らしたジークが私の肩を掴んだ。

「私の何が気に入らないんです!?この見た目ですか!?この装いですか!?」

何を言っているんだこの人は?

「えっと……まあ、敢えて言うなら貴方と一緒にいると、この世のご令嬢を敵に回す事ですかね?」

「……は?」

(あれ?答え間違えた?)

キョトンとしたジークを目にして、私の答えが間違ったことを悟った。
しかし、言ってしまったものは取り返しがつかない。

「──ぷっ!!あはははは!!この場面でその答えですか!?貴方は思ったより鈍いらしい!!」

改めて思うが、嫌味ったらしく失礼極まりないこの男が本当に原作のジークフリードなのか?
常に冷静沈着。言いよる令嬢には笑顔を一切見せず軽くあしらい、心を許しているのはニーナだけのはず。

「……すみませんね。私は元より頭はいい方ではないので、言いたい事があればまどろっこしい言いかたせず、はっきり言って貰えますか?」

そう言うと、一瞬だがジークの眉が上がったような気がした。

「……そう……はっきり……ね?」

ジークはそれは恐ろしく妖艶な笑みを浮かべながらジリジリと私を追い詰めてきた。
頭の中に警告音が鳴り響き、流石にマズいと逃げ場を探したが、目の前の男が逃がしてくれない。

「えっ……あの……ジークフリー……」

言い終える前に、私の唇は柔らかいものに塞がれた。

(……は?)

「──……ジークだと教えたはずですが?」

ゆっくりと唇を離し、ペロッと唇をなぞる仕草は世の女性を卒倒させれるほどの破壊力があった。

私は何が起きたのか理解が追いつかず、呆然と立ち尽くすだけ。

「イレーナ?」

と、再びジークの顔が近づいて来てようやく理解した。

(キキキキ……キス!!?)

その瞬間顔が瞬間沸騰したように熱くなった。

いや、キスは初めてはない。
前世、何度かしているがこんなに動揺したり照れたりした事はなかったはずだ。
心臓が破裂しそうなほど鼓動が早い。
とてもジークの顔を見れないと、ジークに背を向けて火照った顔を冷まそうとした。

しかし、そんな私の思いを知ってか知らずか、ジークは背後から抱きしめてきた。

「案外、可愛い反応をしますね」

耳元でそんな事を言われたら火照りが覚める所か更に熱が上がる。

(穴があったら入りたい……)

抱きしめる力が強くて、私の心臓の音が聞こえてしまいそうだと思った。

「……イレーナは、私の事が嫌いですか?」

フルフルと首を振る。

「では、私の事が好きと言う事ですか?」

何とも極端すぎる質問が飛んできた。
嫌いじゃなきゃ好きになるって……

(まあ、好きだけど……)

もう認めざるを得ない。
私はこの男の事が好きなんだ。

(好きにならない自信あったのに……これも小説の強制力なの?)

失恋が決定してる恋なんて、するだけ無駄なのにね。

前世、同級生に言われた。お前が好きになった相手は可哀想、迷惑だと。
近付くことも出来ず、姿を見ていれば茶化され、罵倒される。
それでも自分の気持ちに嘘は付けなかった。

ジークこの人も迷惑に思うのかな……

チラッとジークの方を振り返ると、そこにはいつものように笑顔のジークがいた。

そして……──

「私は貴方を……イレーナを好いています」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

婚約破棄を望む伯爵令嬢と逃がしたくない宰相閣下との攻防戦~最短で破棄したいので、悪役令嬢乗っ取ります~

甘寧
恋愛
この世界が前世で読んだ事のある小説『恋の花紡』だと気付いたリリー・エーヴェルト。 その瞬間から婚約破棄を望んでいるが、宰相を務める美麗秀麗な婚約者ルーファス・クライナートはそれを受け入れてくれない。 そんな折、気がついた。 「悪役令嬢になればいいじゃない?」 悪役令嬢になれば断罪は必然だが、幸運な事に原作では処刑されない事になってる。 貴族社会に思い残すことも無いし、断罪後は僻地でのんびり暮らすのもよかろう。 よしっ、悪役令嬢乗っ取ろう。 これで万事解決。 ……て思ってたのに、あれ?何で貴方が断罪されてるの? ※全12話で完結です。

悪役令嬢は婚約破棄したいのに王子から溺愛されています。

白雪みなと
恋愛
この世界は乙女ゲームであると気づいた悪役令嬢ポジションのクリスタル・フェアリィ。 筋書き通りにやらないとどうなるか分かったもんじゃない。それに、貴族社会で生きていける気もしない。 ということで、悪役令嬢として候補に嫌われ、国外追放されるよう頑張るのだったが……。 王子さま、なぜ私を溺愛してらっしゃるのですか?

小説主人公の悪役令嬢の姉に転生しました

みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
第一王子と妹が並んでいる姿を見て前世を思い出したリリーナ。 ここは小説の世界だ。 乙女ゲームの悪役令嬢が主役で、悪役にならず幸せを掴む、そんな内容の話で私はその主人公の姉。しかもゲーム内で妹が悪役令嬢になってしまう原因の1つが姉である私だったはず。 とはいえ私は所謂モブ。 この世界のルールから逸脱しないように無難に生きていこうと決意するも、なぜか第一王子に執着されている。 そういえば、元々姉の婚約者を奪っていたとか設定されていたような…?

【完結】攻略を諦めたら騎士様に溺愛されました。悪役でも幸せになれますか?

うり北 うりこ
恋愛
メイリーンは、大好きな乙女ゲームに転生をした。しかも、ヒロインだ。これは、推しの王子様との恋愛も夢じゃない! そう意気込んで学園に入学してみれば、王子様は悪役令嬢のローズリンゼットに夢中。しかも、悪役令嬢はおかめのお面をつけている。 これは、巷で流行りの悪役令嬢が主人公、ヒロインが悪役展開なのでは? 命一番なので、攻略を諦めたら騎士様の溺愛が待っていた。

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

ヤンデレお兄様に殺されたくないので、ブラコンやめます!(長編版)

夕立悠理
恋愛
──だって、好きでいてもしかたないもの。 ヴァイオレットは、思い出した。ここは、ロマンス小説の世界で、ヴァイオレットは義兄の恋人をいじめたあげくにヤンデレな義兄に殺される悪役令嬢だと。  って、むりむりむり。死ぬとかむりですから!  せっかく転生したんだし、魔法とか気ままに楽しみたいよね。ということで、ずっと好きだった恋心は封印し、ブラコンをやめることに。  新たな恋のお相手は、公爵令嬢なんだし、王子様とかどうかなー!?なんてうきうきわくわくしていると。  なんだかお兄様の様子がおかしい……? ※小説になろうさまでも掲載しています ※以前連載していたやつの長編版です

モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~

咲桜りおな
恋愛
 前世で大好きだった乙女ゲームの世界にモブキャラとして転生した伯爵令嬢のアスチルゼフィラ・ピスケリー。 ヒロインでも悪役令嬢でもないモブキャラだからこそ、推しキャラ達の恋物語を遠くから鑑賞出来る! と楽しみにしていたら、関わりたくないのに何故か悪役令嬢の兄である騎士見習いがやたらと絡んでくる……。 いやいや、物語の当事者になんてなりたくないんです! お願いだから近付かないでぇ!  そんな思いも虚しく愛しの推しは全力でわたしを口説いてくる。おまけにキラキラ王子まで絡んで来て……逃げ場を塞がれてしまったようです。 結構、ところどころでイチャラブしております。 ◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆  前作「完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい」のスピンオフ作品。 この作品だけでもちゃんと楽しんで頂けます。  番外編集もUPしましたので、宜しければご覧下さい。 「小説家になろう」でも公開しています。

処理中です...