単純に婚約破棄したかっただけなのに、生まれた時から外堀埋められてたって話する?

甘寧

文字の大きさ
上 下
11 / 16

第11話

しおりを挟む
ヴェルナーと会わなくなってから早二週間。
時折ヴェルナーの様子をリュディガーに聞いたりしていたが

「別にいつもと変わりありませんよ?」

いつ聞いても同じ答えが返ってきた。
最初の内は「まあ、私の事なんてその程度よ」なんて思っていたが、一週間を過ぎた頃から何故か苛立つ様になってきた。

考えてみればヴェルナーと二週間も顔を合わせないのは初めての事かもしれない。
軽く挨拶程度だった時もあるが、ほぼ毎日と言っていいほど顔を合わせていた。

──なんで私がイライラしてんのよ。

私が苛立つ理由なんてないし、むしろ喜ぶべきところなはず。
それなのに……

「……守ってくれるって言ったじゃない……」
「え?」

思わず心の声が漏れていたらしく、リュディガーが振り返った。
その瞬間、聞かれていた恥ずかしさと自分の口から思いもよらない言葉が出た戸惑いにどうしていいか分からず、顔を逸らし誤魔化した。

「な、何でもない!!」
「……へぇ~……」

リュディガーはそれ以上は追求してこず、ホッと安心した。

「──そう言えば、今度王太子の誕生祭が行われるじゃないですか?前日の夜会のエスコートを私が承ります」
「えっ!?だって、それは……」

王太子の誕生祭の前日は前夜祭として夜会が行われるのが恒例なのだが、婚約者であるヴェルナーと行くのがいつもの決まりだったはず。ってかそれが普通。

婚約者じゃなくて婚約者の弟にエスコートされるなんて、いい注目の的じゃない。

ヴェルナー側の人間は喜び馬鹿にしてくるし、リュディガー側の人間には妬まれる。
どちらにしても地獄でしかない。

「兄様はアリアの接近禁止命令が解けてません。アリアを一人で行かせる訳には行きませんしね。因みに、この事は父上にも許可をもらっております。当然アリアのお父上にもね」

やられた……
父様とおじ様の許可を取ってしまえば私は何も言うことが出来ないと言うことを分かってて先手を打ったのね。

──私が困るって分かっててやってるんだからタチが悪い。

頭を抱えながら溜息を吐きながらリュディガーを恨めしそうに見てみるが「ん?」と、とぼけた顔をしているのがなんとも憎らしい。

「──あぁ、それと、兄様に見繕う令嬢が決まりましたよ」
「えっ!?もう!?」
「えぇ、早い方がいいと思いまして。相手は伯爵家のご令嬢ですが兄様の事を相当好いているらしくて、二つ返事で快く了承してくださいましたよ」

「良かったですね」と微笑むリュディガーだったが、胸の奥底がモヤとなんか嫌な感じがした。

──……あれ?嬉しいはずなのに、嬉しくない……?

戸惑っている私に「どうしました?」とリュディガーが問いかけてきた為、慌てて「何でもない」と取り繕った。

リュディガーの計画はこうだった。

夜会で護衛を務めているヴェルナーに仲間の騎士が声をかけ会場の外に出す。
そこにお相手の令嬢が具合悪そうにしゃがみこんでいる。
女性を無下にできないヴェルナーは休める場所へ令嬢を運ぶはずだ。令嬢には前もって部屋を指定あるので上手く誘導するように指示しておく。
あとは、二人が入ったのを確認して中から開けれないようにして、朝まで二人きりの状態にする。──と言うもの。

──いや、これ引っかかる?

確かにヴェルナーは女性に優しいが、警戒心は人一倍あるけど?

私が疑念の目で見ていると、リュディガーが悪戯に笑った。

「大丈夫ですよ。兄様の事は何でも知っていると言ったでしょう?部屋に仕掛けを用意しておくので安心してください」

この時この仕掛けが何なのか、聞いておけばよかったと後々後悔する事になるとも露知らずに……


❊❊❊❊❊❊


ヴェルナーと会わなくなって一月が経とうとしていた。
今日は前夜祭当日。

上手く行けば待ち望んでいたヴェルナーの婚約者と言う肩書きは無くなる。
それなのに、何故だか気分が乗らない。

──張り紙事件の犯人も未だに掴めぬままだし……

溜息を吐きながら前夜祭に向かう準備を進めていると、ノックする音が聞こえた。

「アリア」

そこには礼装服を身にまとったリュディガーが立っていた。

「わぁ~……リュディガー今日は一段と輝いてるねぇ~」
「ありがとうございます。アリアも素敵ですよ?」

いつもは下ろしている前髪も、今日はしっかり整えられ顔面丸出し。これはもう今まで前髪で隠されて軽減されていた色気がMAXの状態。

それと比べられる私の気にもなって欲しい。
今日の私はリュディガーに合わせて、いつもよりシックな色合いで落ち着いた女をイメージしたドレスを選んだ。
少しでも色気を出そうと胸元が空いているものの卑陋にならず、大人の女性を感じさせられるものだ。……多分。

──私に大人の女性を演じさせるのがそもそも間違ってんのよね。

不貞腐れながらリュディガーを見ると、相変わらず目が眩しい。

「あぁ~……行きたくない……」
「おや?それはいけませんよ?」
「いや、行くけど行きたくないの」
「また訳の分からないことを言い出しましたね……」

リュディガーは眉間にしわを寄せ困惑した顔をしていた。
そりゃそうだ。私の気持ちなんて分かるはずもなかろう。

「さあさあ、駄々を捏ねている場合じゃありませんよ。もう出ないと時間がありません」
「えっ!?もうそんな時間!?」

気づけばもう夜会が始まる時間が迫っていた。
慌てて身支度を済ませ、慌ただしく外へ出た。

遂に婚約破棄に向けて歯車が動き出した。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

幽霊じゃありません!足だってありますから‼

かな
恋愛
私はトバルズ国の公爵令嬢アーリス・イソラ。8歳の時に木の根に引っかかって頭をぶつけたことにより、前世に流行った乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまったことに気づいた。だが、婚約破棄しても国外追放か修道院行きという緩い断罪だった為、自立する為のスキルを学びつつ、国外追放後のスローライフを夢見ていた。 断罪イベントを終えた数日後、目覚めたら幽霊と騒がれてしまい困惑することに…。えっ?私、生きてますけど ※ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください(*・ω・)*_ _)ペコリ ※遅筆なので、ゆっくり更新になるかもしれません。

【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那
恋愛
 元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。 ◇◇◇◇  名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。  自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。    運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!  なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!? ◇◇◇◇ お気に入り登録、エールありがとうございます♡ ※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。 ※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))

【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!

美杉。祝、サレ妻コミカライズ化
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』  そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。  目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。  なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。  元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。  ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。  いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。  なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。  このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。  悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。  ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

生まれ変わったら極道の娘になっていた

白湯子
恋愛
職業専業主婦の私は、車に轢かれそうになってた子どもを守ろうとして死んでしまった。しかし、目を開けたら私は極道の娘になっていた!強面のおじさん達にビクビクしながら過ごしていたら今度は天使(義理の弟)が舞い降りた。やっふぅー!と喜んだつかの間、嫌われた。何故だ!構い倒したからだ!!そして、何だかんだで結婚に焦る今日この頃……………。 昔、なろう様で投稿したものです。

【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!

高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。 7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。 だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。 成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。 そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る 【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

私と運命の番との物語

星屑
恋愛
サーフィリア・ルナ・アイラックは前世の記憶を思い出した。だが、彼女が転生したのは乙女ゲームの悪役令嬢だった。しかもその悪役令嬢、ヒロインがどのルートを選んでも邪竜に殺されるという、破滅エンドしかない。 ーなんで死ぬ運命しかないの⁉︎どうしてタイプでも好きでもない王太子と婚約しなくてはならないの⁉︎誰か私の破滅エンドを打ち破るくらいの運命の人はいないの⁉︎ー 破滅エンドを回避し、永遠の愛を手に入れる。 前世では恋をしたことがなく、物語のような永遠の愛に憧れていた。 そんな彼女と恋をした人はまさかの……⁉︎ そんな2人がイチャイチャラブラブする物語。 *「私と運命の番との物語」の改稿版です。

処理中です...